自殺幇助とは?
今回は、「死にたい」という人の自殺を手助けすると、法的にはどう判断されるのかについて解説します。
「西部邁さん 自殺ほう助で2人逮捕 MX番組担当者ら、容疑認める」(2018年4月6日 毎日新聞)
警視庁捜査1課は、今年1月に自殺した評論家、西部邁さん(当時78歳)の自殺を手助けしたとして、埼玉県上尾市の会社員の男(54)と東京都江東区の会社員の男(45)の両容疑者を自殺幇助(ほうじょ)容疑で逮捕しました。
事件があったのは2018年1月21日未明。
2人は東京都大田区田園調布の多摩川に西部さんを連れて行き、体にハーネスを装着させるなどして自殺を手助けしたとしています。
同課によると、西部さんは病気の影響で両手が不自由だったにもかかわらず、遺体発見時に体のハーネスと川岸の木がロープで結び付けられていたことから、何者かが手助けしたとみて捜査を開始。
同日未明に新宿区内で西部さんと一緒に歩く容疑者の姿が防犯カメラに映っていたことなどから逮捕に至ったようです。
2人は、西部さんが主宰する塾の塾頭と西部さんが出演していた東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の子会社の番組担当者で、「先生の死生観を尊重して力になりたかった」と供述しているということです。
【自殺関与と同意殺人について】
本人が死ぬ決意をして、自分で死んだのに、なぜ、関与しただけで処罰されるのか、疑問に思う人もいるかもしれません。
そこで、法的にはどう規定されているのか、まずは刑法の条文を見てみましょう。
「刑法」
第202条(自殺関与及び同意殺人)
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
本条は「自殺関与」と「同意殺人」について規定しています。
「自殺関与」
・教唆(きょうさ)とは、人をそそのかすこと、けしかけることです。
そそのかして決意させて自殺させた場合は「自殺教唆罪」になります。
・幇助とは手助けをすることですから、自殺の決意をしている人を幇助して自殺させた場合は「自殺幇助罪」になります。
自殺を容易にした場合です。
容易にする方法は、物理的方法に限らず、精神的に容易にすることも含みます。
「同意殺人」
・嘱託とは、人に頼んで任せることですから、人から依頼を受けてその人を殺害した場合は「嘱託殺人罪」になります。
・人の承諾、同意を得てその人を殺害した場合は「承諾殺人罪」となります。
今回のケースでは、自殺を決意している人に対してハーネスで体を木に固定し川に入水させ、その後に死亡したと考えられるため、自殺を容易にした、と評価され、自殺幇助容疑ということになります。
たとえば、服毒自殺の場合で考えると、自殺を決意している人に毒薬を提供し、それを本人が飲んで死亡したなら、自殺を容易にした、ということで、自殺幇助罪となります。
一方、自殺を決意している人から依頼を受けて毒薬を飲ませたことで死亡したなら同意殺人になるわけです。
【自殺幇助罪の判例】
自殺幇助罪に関する判例には次のものがあります。
2012年1月、愛知県豊橋市の会社社長の男性(当時40歳)を軽自動車の中で硫化水素ガスを発生させ自殺を手伝うなどしたとして、元中京学院大准教授(当時55歳)が自殺幇助などの罪に問われた事件。
名古屋地裁は2015年10月、「自殺志願者を自殺させ、保険金から報酬を受け取ることを計画し、被害者に持ちかけた」と認定、「自殺の手段を指示し、硫化水素ガスを発生させる行為も自ら担うなど、事件を主導した」と述べ、懲役8年(求刑懲役10年)を言い渡した。
今回の事件では、さまざまな意見があると思いますが、どのような結論となるのか、今後の捜査の行方を見守りたいと思います。