スポーツクラブで管理監督者残業代判決
「なんにも専務」、「宴会部長」、「おとぼけ課長」…世の中には、さまざまな役職がありますが、今回は「名ばかり管理職」について法的に解説します。
「“名ばかり管理職”認定 コナミスポーツ、東京地裁」(2017年10月7日 日本経済新聞)
コナミスポーツクラブ(東京)の元支店長の女性が、権限や裁量のない「名ばかり管理職」だったとして、未払い残業代など約650万円の支払いを求めた訴訟の判決が6日、東京地裁でありました。
裁判長は、女性が人員不足でフロント業務などに従事し、恒常的に時間外労働を余儀なくされていたと認定。
「裁量が相当制限され、管理監督者の地位にあったとは認めらない」と指摘し、同社に残業代約300万円と労働基準法違反への「制裁金」に当たる付加金90万円の支払いを命じました。
判決によると、女性は、1989(平成1)年に入社。
2007(平成19)年から都内などで支店長やマネジャーを務め、2015年に退職したということで、判決後の記者会見では、「会社の労働環境は変わっていない。判決が私のように苦しんでいる人のためになればいい」と話したということです。
【管理監督者とは?】
名ばかり管理職、という言葉が広く知られるようになったのは、2008年1月に判決があった「日本マクドナルド割増賃金請求事件判決」がきっかけでした。
この訴訟は、マクドナルドの店長が、労働基準法が定める「管理監督者」に当たるかどうかが争われたもので、店長は管理監督者には当たらないと主張して、未払い残業代を求めました。
判決では、原告の主張通り、店長は管理監督者には当たらないとして、日本マクドナルドに過去2年分の未払い残業代など約750万円の支払いが命じられました。
今回の訴訟でも、同じ問題が争われているのですが、では管理監督者の何が問題となっているのか、まずは条文を見てみましょう。
「労働基準法」
第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
2 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
つまり、労働基準法上は、監督または管理の立場にある者=管理監督者は、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されないので、残業代を支払う必要がない、ということになります。
【名ばかり管理職の何が問題なのか?】
労働者側からすれば、実際は管理監督者といっても名ばかりのもので、給与などで相応の待遇を受けておらず、労働時間の自由裁量も認められておらず、権限や裁量が相当限定されている。
それにもかかわらず、時間外労働を強いられ、おまけに残業代も支払われない、これは納得いかないという問題が起きてきます。
一方、使用者側とすれば、多くの会社が人件費抑制に苦労しているのが現実です。
残業が発生するのは避けられないが、かといって法律の通りに残業代を支払うと利益が出ない、経営を圧迫するというような悩みを持っている経営者もいるでしょう。
そのため、一律に「部長以上は管理監督者」としたり、「課長・店長以上は管理監督者」として就業規則で定め、その者達には、残業代を支払わない、という扱いをしている会社があります。
しかし、この取り扱いは非常に危険です。
労働基準法上、「管理監督者」といえるための要件はかなり厳しいからです。
厚生労働省の通達では、管理監督者といえるためには次の4つの要件が必要となります。
1.事業主の経営に関する決定に参画(関与)していること
2.労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
3.自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
4.一般の従業員に比べ、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること
これらの要件を満たさないと「管理監督者」とはいえないため、会社は従業員に通常の残業代を支払う義務が生じます。
過去の判例では、次のようなものが管理監督者ではないとされています。
・信金の支店長代理
・工事現場の現場監督者
・飲食店の料理長
・飲食店の店長
・バス会社の統轄運行管理者兼運行課長
・製造業の会社の本社主任と工場課長
・コンビニエンスストアの店長
・カラオケ店の店長
・不動産業の営業本部長
・広告代理店の部長
・税理士法人の管理部長
また、会社として注意が必要なのは、今回のケースのように元従業員に訴えられ裁判となった場合、未払い残業代に付加金もプラスされて2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性もあることです。
詳しい解説はこちら⇒
「2倍!2倍!未払い残業代の付加金とは?」
会社側としては、「管理監督者」を定めている場合には、それが法律上「管理監督者」として有効なのかどうか、一度見直してみる必要があります。
従業員側としては、未払い残業代を会社に対して請求することができます。
泣き寝入りすることなく、訴訟を提起するという方法もあるので、その場合は弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
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