従業員の違約金契約は違法です。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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従業員の違約金契約は違法です。

2017年08月04日

今回は、労働トラブルについて解説します。
退職しようとする従業員に対して会社が行なった、あることについての相談です。

Q)会社に退職したい旨を伝えたところ、「研修費」を請求されました。思えば、入社時の社員研修で、「2年以上勤めなければ受講料を支払う」との書類にサインさせられていたことを思い出しました。当時、「嫌だな」、「何かおかしいのでは?」と思いながらサインしていたのですが、これは違法ではないのでしょうか? これから、どう対処すればいいのでしょうか?

A)労働基準法では、使用者である会社は、労働者である従業員に対して違約金や罰金を支払わせる契約を結ぶことはできないことになっています。仮に、従業員に違約金を課している会社があれば、労働基準法違反に問われる可能性があります。

 

近年、労使間における労働トラブルが増えています。

厚生労働省が公表している統計データ「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、各都道府県にある労働局や労働基準監督署、総合労働相談コーナーに寄せられた労働相談件数は、113万0741件で、9年連続100万件を突破しています。

相談の主な内容は、次の通りです。
・いじめや嫌がらせ/70917件
・自己都合退職/40364件
・解雇/36760件
・労働条件の引き下げ/27723件
・退職勧奨/21901件
・雇止め/12472件
・出向や配置転換/9244件
・その他の労働条件/39096件 など

こうした労働問題で適用される法律のひとつに「労働基準法」があります。

労働基準法が施行されたのは、1947(昭和22)年。
これは、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図ることを目的として制定された法律です。
条文では、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などについて定めています。

今回のケースでは、次の条文が該当します。

「労働基準法」
第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 

これに違反した場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。

今回の相談者のように、入社時に受ける研修の受講費に関する違約金などの他にも、過去には、従業員の無断欠勤や急な欠勤、仕事上のミスに対する罰金、営業目的未達成に対する罰金などの事例があります。

ただし、注意すべきことがあります。
それは、条文では賠償額を予定する契約は禁止していますが、従業員に対して会社が損害賠償請求することを禁止しているわけではないという点です。

つまり、たとえば従業員のミスによって会社に損害が生じた場合は、会社はその賠償を従業員に求めることができるということになります。

また、「ノーワーク・ノーペイ」の原則というものがあります。
これは、労働者による労務の提供がない日や時間については、会社は賃金を支払う義務はないというものです。
(ただし、労働者が労務を提供できなかった理由について、労働者の責任もしくは、労働者と使用者どちらの責任でもない、という条件が必要になります)

この場合、会社は就業規則に、「遅刻や無断欠勤、仕事のミスなどの場合は減給する」と記載することが必要です。

また、違約金や罰金を給料から天引きするケースがありますが、この場合は、労働基準法第24条の「賃金の支払」に問われる可能性があります。

第24条では、賃金の支払いについて次の「5つの原則」を定めています。

・通貨払いの原則
・直接払いの原則
・全額払いの原則
・毎月1回以上払いの原則
・一定期日払いの原則

このことからも、会社は給料やアルバイト代は天引きせずに、労働者に対し、直接、全額を支払わなければいけないのです。

今回のようなケースでは、労働基準法違反であることを会社側に訴えることはできると思いますが、具体的な状況がわからないため、まずは一度、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。