川にチョウザメを放流。これは犯罪か? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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川にチョウザメを放流。これは犯罪か?

2017年02月06日

1位:ホタテ、2位:カキ、3位:ブリ、4位:マダイ、5位:カンパチ、6位:クロマグロ、7位:ギンザケ……

さて、これは何の順位でしょうか?

寿司屋のネタの人気ランキングではありませんよ。

正解は、農林水産省が公表している、2015(平成27)年の「日本における養殖の生産量」の順位です。

日本人には、どれも馴染みのある魚介類ですが、これら以外にも最近では少し変わったものも養殖されているようで、たとえば世界三大珍味のひとつとされる「キャビア」を産むチョウザメの養殖も人気があるようです。

キャビア、という文字を見ただけで、口の中でジュワッと唾液が出きた人もいると思いますが、この高級食材を求めてチョウザメの養殖を副業として始める企業や、「町おこし」の一環としてスタートさせる地方の公共団体も近年では増えているそうです。

しかし、こうした養殖業に絡んだ問題も起きています。

「チョウザメ 新利根川に死骸 河内・養殖会社“衰弱50匹放流”/茨城」(2017年1月24日 毎日新聞)

茨城県河内町を流れる新利根川で、30匹ほどのチョウザメの死骸が浮いているのを住民が見つけ、調査の結果、養殖をしている建設会社が放流したものとわかったようです。

報道によると、この建設会社は約500匹のチョウザメを育てていたところ、そのうちの約50匹が衰弱したため川に放流。
同社の役員は、「調子が悪くなり、このまま死んでしまうのは可哀そうなので放した。生きてくれればいいと思った」と話したということです。

県環境政策課は、「特定外来生物ではなく放流に罰則はない。企業モラルの問題だ。最後まで責任を持って面倒を見てほしい」と困惑しているということです。
今回は口頭での厳重注意ということで済んだようですが、この会社の行為、じつは犯罪になる可能性があります。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

27 公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者
これは、「汚廃物放棄の罪」とも呼ばれるもので、ポイントは①「公共の利益に反して」、②「ごみや鳥獣の死体、汚物、廃物」を、③「みだりに棄てる」という3点になります。

公共の利益に反するとは、特定の個人ではなく、不特定多数の人が迷惑をする状況ということです。
たとえば、多くの人が利用する公園や公共スペース、交通機関、河川などに動物の死骸や汚物、廃物などを棄てることは、公共の利益に反する行為ということになります。

では、汚物・廃物とはどういうものかというと、これは「廃棄物処理法」で規定されているものと同様と考えていいでしょう。

「廃棄物処理法」
第2条(定義)
1.この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
みだりにとは、正当な理由や資格もなく、むやみやたらに、という意味となります。

つまり、なぜ今回の事件でこの会社が口頭での厳重注意で済んだのかといえば次のような理由から、ということになるでしょう。

・チョウザメの死骸を遺棄したのではなく、弱っていたが生きた個体を川に放流した
・チョウザメは特定外来生物ではないため放流しても罰則がない

特定外来生物に関する解説はこちら⇒
「空飛ぶガメラを飼って、芸人が書類送検?」
https://taniharamakoto.com/archives/1546/

また、前述したように遺棄する罪には廃棄物処理法がありますが、軽犯罪法の汚廃物放棄の罪と何が違うのかといえば、程度の違いということになります。

過去、廃棄物処理法違反に問われた事件としては、河川敷に数十頭の犬の死骸を遺棄したものや、引っ越しの際の廃品約300kgを遺棄したというものなどがあります。

廃棄物処理法に関する解説はこちら⇒
「ポストに○○を入れると犯罪に!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1699/

仮に、飼っていたペットの死骸を公園に遺棄した、自分が使い古したアダルトビデオや雑誌を河原に捨てたということであれば軽犯罪法違反に問われる可能性がありますし、散歩中に出した犬のフンをそのまま放置したら各都道府県が定める条例で罰せられる可能性があります。

ちなみに、チョウザメは卵がとれるようになるには10年以上もかかることから、途中で養殖をやめてしまう人も多いようです。

川に放流といえば聞こえはいいですが、生き物を棄てているわけですから許されることではありません。
責任を持って最後まで飼育するべきです。

それは、仕事についても同じことが言えるのではないでしょうか。

「まず計画は、よく行き届いた適切なものであることが第一。
これが確認できたら断固として実行する。
ちょっとした嫌気のために、実行の決意を投げ棄ててはならない」
(シェイクスピア)