北海道砂川市暴走事故:危険運転の共犯で懲役23年の判決
一家5人のうち4人が死亡、1人が重傷により重度の後遺障害を負った北海道砂川市暴走事故(2015年6月6日に発生)の被告に対する判決が出たようなので解説します。
「<砂川5人死傷事故>2被告とも懲役23年判決…札幌地裁」(2016年11月10日 毎日新聞)
2015年6月、北海道砂川市の国道を自動車2台で暴走し、歌志内市の会社員の男性ら一家5人を死傷させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた2人の被告に対して、札幌地裁は裁判員裁判で求刑通りの懲役23年の判決を言い渡しました。
検察側は、次のような理由から両被告に対して危険運転の共謀が成立すると主張していました。
「赤信号は現場の約770メートル手前から認識可能だった」
「防犯カメラの映像から、両被告は事故前の約2キロにわたり速度を競いながら走行し、張り合って運転している趣旨の発言を同乗者が聞いている」
「以前にも速度を競って走行することがあった」
また、ひき逃げについては、「引きずった衝撃や違和感があったはずだ」と指摘しました。
一方、弁護側は「運転中に競い合う気持ちはなかった。落としたサングラスを探して赤信号を見落とした過失による事故だ」、「赤信号を無視するようなレースは過去にも今回もしていない。被害者が車外に投げ出されることは想定できず、引きずった認識もない」と反論していました。
裁判長は、「類を見ないほど悪質。競うように高速で走行していたのは明らかだ。赤信号を無視し、身勝手極まりない」と非難し、両被告による共謀を認定したということです。
今回の事件では、危険運転致死傷罪の共謀が成立するかどうかが争点となっていました。
過去には、飲酒運転による交通死亡事故で、同乗者が「ほう助罪」に問われた事例はありますが、それぞれ別々の車を運転していた複数の被告による「危険運転の共謀」が認定される判決は異例なことです。
危険運転致死傷罪の詳しい解説はこちら⇒「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
https://taniharamakoto.com/archives/1236
今回の判決は、懲役23年ということですが、「刑が軽すぎる」、「重すぎる」、「いや妥当だ」と、さまざまな意見があると思いますが、過去の判決例と比較すると、かなり重い刑となっています。
それだけ、事故の「態様が悪質」であり、かつ、「結果が重大」であるというところでしょう。
また、共謀を否認等していたので、両被告には反省の態度が見られない、という部分も考慮された可能性もあります。
たとえば、危険運転致死傷罪の判例には以下のものがあります。
【判例①】
懲役10年(求刑懲役15年)
2014年7月、埼玉県川口市でミニバイクに乗っていた65歳の女性が乗用車に約1・3キロ引きずられ死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた元同市職員の男(26)の判決公判が2015年1月29日に行われた。
裁判長は、被告が大量の飲酒で極めて危険な運転を行い、女性をはねたことに気づきながら逃走し、悪質な飲酒運転の隠蔽工作を行ったと指摘。「危険運転致死傷の事案の中では重い部類」とする一方、被告が反省の言葉を述べたこと、前科がないことなどを情状酌量の理由としてあげた。
判決/懲役10年(求刑懲役15年)
【判例②】
京都市で2013年10月2日の夕方、飲酒運転の車が小学2年の男子児童ら3人をはねて死傷させた連続ひき逃げ事件で、危険運転致死傷罪や道路交通法違反(ひき逃げ)の罪などに問われた被告の男(60)に対する裁判員裁判の判決が2014年9月19日、京都地裁であった。
被告の男はカップ酒数本を飲んで軽トラックを運転し、同市中京区の市道で自転車に乗っていた主婦(61)をはねて逃走。さらに約160メートル東で、祖父(67)が運転する自転車の後ろに乗っていた小学2年をはねて、児童は頭を強く打って死亡、祖父は重傷を負った。
弁護側は公判で、「被告は事故に気づかなかった」と主張。しかし、裁判長は、「車のフロントガラスの破損状況などから、ぶつかったときの強い衝撃に気づいたはず」と退け、「人命を軽視し、思慮の浅い態度は厳しい非難に値する」と指摘した。
判決/懲役12年(求刑懲役13年)
【判例③】
埼玉県熊谷市で2008年2月17日、2人が死亡、6人が重軽傷を負う飲酒運転事故を起こしたとして、危険運転致死傷罪に問われた元トラック運転手の男(34)の控訴審判決が2009年11月27日、東京高裁であった。
被告の男は、約5時間にわたってビールや焼酎を飲み、乗用車で熊谷市内の県道を時速100キロ以上で運転。対向車2台に衝突し、自営業の男性(当時56歳)と妻(同56歳)を死亡させ、6人に重軽傷を負わせた。
検察側は遺族の意向も踏まえ、懲役20年を主張。弁護側は、刑を軽くするよう求めていた。
裁判長は、「遺族らの厳しい処罰感情は当然」としながらも、「被告は対人無制限の任意保険に加入しており、遺族に対する損害賠償が担保されている」などと指摘。一審判決を支持、検察、弁護側双方の控訴を棄却した。
判決/懲役16年(求刑懲役20年)
【判例④】
2006年2月25日未明、愛知県春日井市内の交差点に赤信号を無視して時速70~80キロで進入し、タクシーの側面に衝突。運転手の男性と乗客の自衛隊員の男性3人、合わせて4人を死亡させるなどして危険運転致死傷罪などに問われた元会社員の男(29)に対して、1審名古屋地裁は危険運転致死傷罪ではなく、予備的訴因の業務上過失致死傷罪を適用し、懲役20年の求刑に対し懲役6年の判決を言い渡した。
2007年12月25日、その控訴審判決が名古屋高裁で開かれ、裁判長は、「危険で乱暴な運転をしていた被告は信号表示を意に介することなく、交差点に進入。重大な交通の危険を生じさせる速度で赤信号をことさらに無視した」と指摘。そのうえで、「被害者が受けた肉体的、精神的苦痛は甚大で、遺族の悲しみは深い。被告は十分な慰謝の措置を講じず、自己の責任を軽減することに終始した」などと述べ、1審判決を破棄、被告に危険運転致死傷罪を適用し、懲役18年を言い渡した。
その後、2009年6月2日の最高裁第1小法廷での上告審で、裁判長は被告側の上告を棄却し、名古屋高裁判決が確定した。
判決/懲役18年(求刑懲役20年)
【判例⑤】
2005年10月17日午前、横浜市都筑区のサレジオ学院前で制限速度40キロのカーブを曲がり切れず、歩道にいた高校1年の男子生徒らの列に突っ込み、2人が死亡、7人が重軽傷を負った事故で危険運転致死傷罪に問われた被告の男(25)の控訴審判決が2007年7月19日、東京高裁であった。
弁護側は、「1審が認定した100キロ以上の速度は出ておらず、危険運転致死傷罪に該当しない」として業務上過失致死傷罪の適用を主張。検察側は求刑通り懲役20年の判決を求めていた。
1審の横浜地裁判決では、車両の破損状況などから時速100キロ以上と認定。「他者の生命身体に対する配慮を欠いた極めて無謀で悪質な犯行」と批判し、懲役16年の判決。
2審では、1審の横浜地裁判決を支持し、弁護側、検察側双方の控訴を棄却した。
判決/懲役16年(求刑懲役20年)
【判例⑥】
千葉県松尾町(現山武市)で、同窓会帰りの男女が飲酒運転の車にひき逃げされ、4人が死亡、4人が重軽傷を負い、被告の男(33)が危険運転致死傷罪などに問われた事故について、2007年3月5日、最高裁第2小法廷は上告を棄却する決定をした。
事故が起きたのは2005年2月5日。免許停止中の被告の男が日本酒5~6合などを飲み、酩酊状態で乗用車を運転。午後9時15分ごろ、同窓会を終えて飲食店から出た8人(当時59歳)をはねて現場から立ち去り、駐車中の別の乗用車を盗んで逃げた。
1、2審では被告に対し、懲役20年を言い渡していた。
判決/懲役20年(求刑懲役20年)
【判例⑦】
北海道小樽市で、女性3人が死亡、1人が重傷を負った飲酒ひき逃げ事件で、自動車運転処罰法違反の罪などに問われた札幌市の被告の男(32歳)の裁判員裁判が2015年7月9日に開かれ、札幌地裁は求刑通り懲役22年の判決を言い渡した。
事件が起きたのは2014年7月13日夕方。被告の男は酒の影響で前方注視が困難な状態でRVを運転。市道を歩いていた岩見沢市の会社員の女性(当時29歳)ら3人をはねて死亡させ、1人に重傷を負わせて逃走した。
裁判長は、「被告は時速50~60キロで車を走行させながら、15秒~20秒程度、スマートフォンを見るため下を向いていた。“よそ見”というレベルをはるかに超える危険極まりない行動だ」と指摘。飲酒の影響による脇見運転が事故原因と認定し、自動車運転処罰法違反のうち、危険運転致死傷罪を適用した。
その後、被告の男は2015年7月23日、1審札幌地裁の裁判員裁判判決を不服として札幌高裁に控訴したが、同年12月8日、札幌高裁は被告の控訴を棄却する即日判決を言い渡し、求刑通り懲役22年とした1審の札幌地裁の判決を支持した。
判決/懲役22年(求刑懲役22年)
【判例⑧】
2014年10月30日、茨城県かすみがうら市の国道354号で無免許運転をして、6人を死傷させる事故を起こしたなどとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)や強盗などの罪に問われた被告の男(25)の裁判員裁判が、2015年9月17日、水戸地裁で開かれた。
判決によると、被告の男は2014年9月~2015年1月、仲間と鉾田、潮来、鹿嶋市の事務所などで窃盗や強盗を繰り返し、2015年10月30日、乗用車を無免許運転し、前の車を追い抜こうとして対向車と衝突。同乗していた当時14~26歳の男女3人を死亡させ、対向車に乗っていた男性2人を含む計3人にケガを負わせた。
裁判長は、「運転は無謀かつ相当危険で結果は極めて重大。強盗、窃盗は実行役で被害も多額」、「遺族への対応も誠実とは言い難い」として、懲役15年(求刑懲役16年)の判決を言い渡した。
判決/懲役15年(求刑懲役16年)
【判例⑨】
2014年5月14日、長野県中野市の県道で、無免許のうえ危険ドラッグを使用して、時速126キロを超えるスピードで乗用車を運転し、対向車線を逆走して車に次々と衝突し、1人を死亡させ、2人に重軽傷を負わせたとして危険運転致死傷などの罪に問われた当時19歳の元少年(21)の裁判員裁判の判決公判が2015年11月20日、長野地裁で開かれた。
公判で元少年側は、「危険ドラッグを使っても事故を起こすとは思わなかった」などと主張。裁判長は、「同乗者が危険ドラッグを使用して手足が硬直し、事故を起こす危険があるのを目にしているのに運転を継続した責任は重大だ」と述べ、懲役13年(求刑懲役15年)を言い渡した。
死亡した中野市の男性(当時25歳)は、事故の3週間前に妻と入籍し、約4ヵ月後には挙式と披露宴を計画していたことから、裁判長は「突然の事故で人生を奪われた。その無念の情は察するにあまりある」と述べた。
判決/懲役13年(求刑懲役15年)
危険運転致死傷罪は、被害者の遺族からみると、「殺人だ」と感じられますが、加害者側からみると、「過失だ」と感じられる、という認識のずれがあります。
昔は、危険運転致傷罪が存在しなかったので、このような事故は、業務上過失致死傷罪(最高刑5年)と道路交通法違反で処罰されており、被害者感情と著しく乖離した刑事処罰となっていました。
今回は、懲役23年という刑を科されましたが、それでも遺族の被害者感情を癒やすことはできません。
交通事故事犯に対して、どの程度の刑事処罰を科すかは、非常に難しい問題であります。
今後、本件は、民事損害賠償請求にうつっていきます。
任意保険に加入しており、適正な損害賠償がなされることを祈ります。