盗撮は犯罪で、かつ、損害賠償の対象にも。
パパラッチと呼ばれる人たちがいます。
芸能人や有名人などのセレブリティと呼ばれる人をつけ回し、プライベート写真を撮影することを仕事にしているカメラマンたちのことです。
今回は、パパラッチ行為と犯罪、そして損害賠償の関係について法的に解説します。
「中森明菜さん隠し撮り、小学館などに賠償命じる」(2016年7月27日 読売新聞)
歌手の中森明菜さんが自宅療養中の姿を隠し撮りした写真を週刊誌に掲載したのはプライバシーの侵害だとして、発行元の小学館と撮影したフリーカメラマンの男性に対して計2200万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしていました。
東京地裁は27日、「編集長は違法性を認識したうえで掲載し、会社も容認した。中森さんの精神的被害は甚大で、歌手としてのイメージも害した」として、同社とカメラマンに計550万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。
写真が撮影されたのは、2013年11月2日夜。
中森さんは、2010年10月に芸能活動を休止し、東京都内のマンションで療養していたところ、週刊誌『女性セブン』から依頼されたカメラマンがマンション近くのアパート3階の廊下から室内にいた中森さんを撮影。
そのうちの1枚が、この年の11月21日号に掲載されたようです。
なお、カメラマンは2014年4月、「隠し撮りの態様は悪質だ」として軽犯罪法違反で東京簡裁から略式命令を受けているということです。
まずは、刑事事件から見ていきます。
スマートフォンの普及などにより、近年、隠し撮り(盗撮)に関する犯罪が頻発しています。
警察庁が公表している統計データによると、盗撮の検挙件数は2012(平成24)年には約2400件だったものが、2014(平成26)年には3000件を大きく超えています。
ところが、盗撮については「刑法」に規定がなく、その他にも直接的に取り締まる法律がありません。
そのため、次の3つの法律、条例のいずれかを適用しているのが現状です。
①「軽犯罪法」
さまざまな軽微な秩序違反行為に対して拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)、科料(1000円以上1万円未満)に処する法律です。
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
23.正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
②「各都道府県の迷惑行為防止条例」
現在、47都道府県それぞれで「迷惑行為防止条例」が定められています。
この中で「卑猥な行為」や「粗暴な行為」として盗撮を禁止しています。
たとえば、東京都の場合は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」があります。
第5条(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
1.何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(2)公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗り物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機、その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、もしくは設置すること。
この規定に違反して撮影した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。
しかし、全国のおよそ3分の1の都道府県では、未だ盗撮を禁止する場所が、原則は道路や公園、電車など、不特定多数の人が出入りする場所に限られているのが現状です。
そのため、公共の場所にあってもトイレや更衣室は含まれないという、ある種の矛盾が生じており、これらの自治体では軽犯罪法を適用するしかない、もしくは盗撮犯が不起訴になる場合もあるという問題を抱えています。
ただ、迷惑防止条例は、公共の場所での迷惑行為を防止することを目的とするものなので、迷惑防止条例の改正では対処は難しいところです。
やはり法律で規制すべきでしょう。
③「住居侵入罪」
部外者が、盗撮目的で撮影機器設置のために、さく等に囲まれた建造物の敷地に侵入する行為は「住居侵入罪」に該当する可能性があります。
「刑法」
第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
次に、民事事件について考えてみます。
今回のケースのように、盗撮の被害者は、民事訴訟で加害者に対して損害賠償を請求することができます。
「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
被害者は、盗撮という不法行為によってプライバシーを侵害され、精神的苦痛を受けた損害に対する賠償を請求することができるということです。
ところで、今回のケースは、プロカメラマンの盗撮行為でした。
では、一般のスマホユーザーが盗撮をして、その画像をツイッターやフェイスブックなどに投稿した場合はどうでしょうか?
この場合もプライバシーが公になり、コピー等されて伝播されてゆくことになります。
被害者の精神的損害は大きいと言えるでしょう。
したがって、この場合でも、法律により処罰され、損害賠償請求を受ける可能性があります。
法律の前では、プロも素人も関係ないということは覚えておいてほしいと思います。