自転車で遺失物等横領罪!?
お魚くわえたドラ猫ならぬ、自転車を担いだ男を追いかけて逮捕したという事件がありました。
まるで、漫画のようなシチュエーションです…。
「コンビニ客お手柄 窃盗犯を追跡、実況中継で逮捕」(2016年5月16日 神戸新聞)
兵庫県尼崎市のコンビニエンスストア駐輪場で、自転車を担いで持ち去ろうとしている男を男性客が発見。
110番した後、男性客は電話をつないだまま尾行を開始。
「白い自転車の後輪を持ち上げて押している」「今、公園にいる」などと実況中継しながら、約230メートル離れた公園まで男を追跡したところで、駆けつけた尼崎北署の警察官が占有離脱物横領の疑いで逮捕したようです。
逮捕されたのは住所不定、無職の男(63)で、同署によると、「ホームレスの友人に取ってきてと言われた」と容疑を認めているということです。
他人の物を領得すると、横領罪になります。
領得とは、自己または第三者のものとする目的で他人の物を不法に取得することです。
横領罪には、「単純横領罪」(刑法第252条)、「業務上横領罪」(刑法第253条)、「遺失物等(占有離脱物)横領罪」(刑法第252条)があります。
では、今回は占有離脱物横領について条文を見てみましょう。
「刑法」
第254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
条文にあるように、遺失物等(占有離脱物)横領罪の対象になるのは、遺失物、漂流物、その他占有を離れた他人の物です。
・遺失物……占有者の意思によらないで、その占有を離れ、誰の占有にも属さないもの。
・漂流物……水面、または水中に存在するもの。
今回の事件では、男が担いで持ち去ろうとしたのは所有者のわからない放置自転車だったのでしょう。
仮に、奪ったのがコンビニのお客さんの自転車だったなら、一時的にコンビニに寄っているだけで、まだお客さんの「占有を離れた」とは言えないでしょうから、「窃盗罪」(刑法第235条)で10年以下の懲役又は50万円以下の罰金になるでしょう。
また、人が乗っている自転車を暴行や脅迫を用いてひったくったような場合は「強盗罪」(刑法第236条)で5年以上の有期懲役になる可能性があります。
ところで、どんなものを横領すると遺失物等(占有離脱物)横領罪になるのでしょうか。
以下に事例をあげます。
・窃盗犯人が乗り捨てた自転車(東京高判昭34・8・15高集12-8-845)
・逃走中の窃盗犯が落としていった盗品(最判昭23・12・24集2-14-1877)
・紙屑屋が購入した紙屑の中に混入していた現金(大判明29・4・14録2-
4-33)
・集配人が誤配した郵便物(大判大6・10・15録23-1113)
・生けすから逃げ出した鯉(最決昭56・2・20集35-1-15)
※逃げた家畜なども同様
・古墳内の宝石、鏡、刀剣(大判昭8・3・9集12-232、大判昭9・6・13集13-747)
では、次のような一見、占有者がいないような物はどうでしょうか。
・旅館内に置き忘れた財布(大判大8・4・4録25-382)
・公衆浴場内の遺留品(大判大12・7・3集2-624)
・自動車会社の営業所内のゴミ箱の上に遺留されていた靴(高松高判昭25・6・2判特11-204)
・ゴルフ場内の池に打ち込んだロストボール(最決昭62・4・10集41-3-221)
じつはこれらの場合、それぞれ旅館主、公衆浴場主、営業所管理者、ゴルフ場管理者等の占有に属すると判断されます。
よって、横領罪ではなく窃盗罪が適用されるということになります。
いずれにせよ、人の物を勝手に担いで手に入れようとしてはいけません。
担ぐなら、験(げん)や神輿(みこし)にしておきましょう。