認知症の高齢者の監督義務に関する最高裁判決 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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認知症の高齢者の監督義務に関する最高裁判決

2016年03月02日

愛知県大府市で、2007年12月に起きた、徘徊症状がある認知症の男性(91)がJR東海の電車にはねられ死亡する事故が発生した件に関し、同社が男性の親族に対して損害賠償訴訟を提起しておりました。

第一審判決は、JR側の請求通り720万円の支払を命じ、第二審の名古屋高裁は、男性の妻に対して、359万円の支払を命じました。

この件に関する最高裁判決が2016年3月1日に出されました。

結論としては、JR側の請求を認めず、親族の賠償責任を否定しました。

争点は、男性の妻や長男らが、民法714条の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」と言えるどうか、という点です。

ここで、民法714条を見てみましょう。

「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)

1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

つまり、男性は、認知症で判断能力ではないので、賠償責任については「責任無能力者」となります。

その場合には、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が、責任無能力者に代わって賠償責任を負う、ということです。

「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」というのは、子どもの親権者(民法820条)、親権代行者(民法833条・867条)、後見人(民法857条・858条)、児童福祉施設の長(児童福祉法47条)等です。

たとえば、小学一年生の子どもが自転車を運転中、歩行者をひいて死なせてしまった場合などに、親の責任を問えるか、というような問題で、この条文が使われます。

さて、第一審、第二審では、親族の賠償責任を認めたわけですが、最高裁は、これを否定しました。

その理由としては、同居の妻や長男というだけでは、「法定の」監督義務者とは言えない。つまり、法律に書いていない、ということです。

ただし、「法定の監督義務者」ではない人でも、賠償義務を負担する場合がある。それは、次の場合である。

(1)衡平の見地から、「法定の監督義務者」と同視して賠償義務を負担させることが相当である場合

(2)では、それは、どのような場合かというと、第三者に対する加害行為の防止に向けた監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合である

(3)では、どのような場合に特段の事情があるかというと、第三者の加害行為の防止に向けて、その者が「現実に監督を行っている」、か、あるいはそのように監督することが可能かつ容易であるなど、それが単なる「事実上の監督」を超えているような場合である

(4)では、それは、どのように判断するかというと、以下の要素を検討します。

・監督している人の生活状況や心身に状況

・精神障害者との親族関係の有無・濃淡

・同居の有無その他の日常的な接触の程度

・精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情

・精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容

・これらに対応して行われている監護や介護の実態
この観点からすると、同居しているだけの場合や介護を行っている、というだけでは賠償責任は否定されることになります。

たとえば、過去に徘徊して他人に迷惑をかけたことから、そのようなことがないよう責任を持って監督するため、同居して日常介護し、徘徊できないように常時監視したり、施錠をしたりしている親族が、その監督を怠ったような場合に責任が認められることになるのではないか、と思います。

先の第一審判決、高裁判決のニュースに接した高齢者を介護する人達は、戦々恐々としたかもしれませんが、ひとまずは安心ということになります。

今後、高齢化社会がますます進行することから、介護に対する萎縮効果が生じないようにしたい、という政治的配慮が働いているのかもしれません。

なお、この最高裁判決は、5人の最高裁判事により出されたものですが、3人の最高裁判事による補足意見が出されています。