「労災隠し」は犯罪です | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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「労災隠し」は犯罪です

2015年08月11日

労働者の業務中の負傷、疾病、障害、死亡を「労働災害(労災)」といいます。

また、労災には通勤中でのケガ、病気なども含み、これを「通勤災害」といいます。

今回は、労災に関する法律違反について解説します。

「“元請けに迷惑をかけられない”と労災事故報告せず、元事業所長ら書類送検」(2015年8月6日 産経新聞)

社員が労災事故で休業したにもかかわらず報告書を提出しなかったとして、舞鶴労働基準監督署は堺市の叶電機工業所と、同社舞鶴事業所の元事業所長(71)を、労働安全衛生法(報告義務)違反容疑で地検舞鶴支部に書類送検しました。

元事業所長は、平成25年11月27日、京都府舞鶴市の工事現場で男性社員(当時44歳)が溶接作業中にやけどを負い4日間休業したにもかかわらず、同労基署に労働者死傷病報告書を提出しなかったようです。

今年5月初旬、休業した男性社員が同労基署に相談したことで発覚。
元事業所長らは「元請けに迷惑をかけたくなかった」などと、話しているということです。
今回のような事例は、「労災隠し」と呼ばれます。

まずは条文を見てみましょう。

「労働安全衛生法」
第100条(報告等)
1.厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
3.労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
これに違反すると、50万円以下の罰金に処されます。(第120条5号)

さらに、労災の報告について、労働安全衛生法に基づき定められている「労働安全衛生規則」の第97条では、次のように規定されています。

・事業者は、労働災害が発生し労働者が死亡、又は4日以上の休業をしたときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しなければいけない。
・休業がなかった場合、又は通勤災害の場合は報告の必要はない。
・休業が4日に満たないときは四半期ごとの報告書の提出。
つまり労災隠しとは、「故意に労働者死傷病報告を提出しないこと」や「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すること」による法律違反ということになります。

では、なぜ労災隠しが起きるのでしょうか。
「労働基準監督年報」(2012年)によると、労災隠しで送検された総件数は132件で、そのうち6割以上の83件が建設業で起きています。

建設業が圧倒的に多い理由としては、以下のことなどが指摘されています。
・労働基準監督署の調査が入り、是正勧告を受けたり書類送検されたりすると、元請け会社は自治体から一定期間指名停止され、公共事業に入札できなくなってしまうため。

・労災を起こした下請け会社も、元請け会社から出入り禁止や取引停止にされれば死活問題となるため。

・労災発生によるイメージの低下。

・労災発生による将来の保険料負担の増加。

労災が起きてしまうと、企業にとっては大きなダメージとなってしまいます。
しかし労災隠しは、適正な労災保険給付に悪影響を与えることや、被災者に犠牲や負担を強いる行為であることから、労働基準監督署が厳しく対応しています。

また、労災隠しが発覚するのは労働者からの訴えによるものが多いのも特徴で、それは労働安全衛生法によって労働者の申告が認められていることにも要因があると思われます。

第97条(労働者の申告)
1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
2.事業者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
2項に違反した事業者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第119条1号)

みらい総合法律事務所では、労災事故の相談を受けることも多いのですが、労災であるにもかかわらず、労災申請をしていない事例がある程度の割合であります。

しかし、労災隠しは犯罪であることを十分認識し、適切に申告をしていただきたいと思います。

そのような法定遵守の姿勢が、社員を守り、ひいては会社の発展にも資するのだと思います。

労災のご相談はこちらから⇒ http://www.rousai-sos.jp/