解雇問題の金銭的解決実現なるか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。

解雇問題の金銭的解決実現なるか?

2015年06月19日

地獄の沙汰も金次第、そんなことわざがあります。
どんな問題でもお金で解決できる、という意味で使われますね。

ところで先日、解雇などの労働紛争の金銭解決についての調査結果の報道がありました。
今後、会社と従業員の関係が変わっていきそうな気配です。

そこで今回は、労働トラブルとお金の関係について解説したいと思います。

「<解雇など労働紛争>金銭支払いの解決が9割超える」(2015年6月15日 毎日新聞)

解雇などに関する労働紛争のうち、労働局による「あっせん」、「労働審判」と、「裁判での和解」の計約1500件を調査したところ、金銭の支払いによる解決が9割を超えていたことが厚生労働省の公表でわかりました。

労働局による「あっせん」は、2012年度に4つの労働局が受理した853件を調査。
使用者(会社)側と労働者(従業員)側が合意に至ったのは324件で、全体の約38%。
そのうち313件(96.6%)が金銭の支払いで解決しており、金額の中央値は15万6400円。
労使間の合意が成立するまでの期間は、中央値で1.4ヵ月でした。

「労働審判」は、2013年に4つの地裁が結論を出した452事例を調査。
金銭解決は434事例(96%)で、金額の中央値は110万円。
申立日から審判の終了までの期間は、中央値で2.1ヵ月。

「裁判での和解」は、2013年に4つの地裁で成立した193事例を調査。
金銭による和解は174事例(90.2%)で、金額の中央値は230万円。
民事訴訟の解決までには平均6ヵ月以上かかっているようです。

また、正社員は労働審判や裁判を活用する傾向が強く、非正規労働者は、あっせんを使う割合が高かったということです。

なお、この調査は、2014年に政府が閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」で、新たな紛争解決の仕組みとして解雇の金銭解決を制度化するための基礎資料として使われる予定で、厚生労働省は2015年内に制度の骨格をまとめる方針。

一方、労働組合などからは、「解雇を容易にすることにつながる」との反発が出ているということです。
【あっせんと労働審判の違いとは?】
厚生労働省が6月に公表した「平成26年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は103万3047件で、前年比1.6%減ですが、7年連続で100万件を突破しています。

個別労働紛争の相談内容のトップは「いじめ・嫌がらせ」で6万2191件(21.4%)、2位が「解雇」で3万8966件(13.4%)、3位が「自己都合退職」で3万4626件(11.9%)。
また、労働者からの相談が全体の81.7%、事業主からの相談は10.4%となっています。

労働紛争の解決法には、主に①個別労働紛争解決制度(あっせん等)、②労働審判、③民事訴訟による裁判、があります。

あっせんとは、紛争調整委員会が紛争の当事者間の調整を行い、話し合いを促進することによって、紛争の解決を図る制度です。

対象となるのは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争で、募集・採用に関するものは対象になりません。

平成26年度の統計では、助言・指導申出件数は23万8806件で、1ヵ月以内に97.3%が解決。
あっせん申請件数は5010件で、2ヵ月以内での解決は92.0%となっています。

労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行い、適宜調停を試みながら、調停による解決に至らない場合には紛争の実情に即した解決をするための労働審判を行うという紛争解決手続です。

労働審判手続によって労働紛争が解決しない場合には、訴訟手続に移行する点に大きな特色があります。
【金銭解雇の制度化は成立するのか?】
ところで、今回の報道にある「日本再興戦略改訂2014」とは何かというと、アベノミクスによる経済の成長戦略を一過性のもので終わらせずに持続させるための改革案ということのようです。

2014年6月に閣議決定され、その後、「労働市場改革」、「農業の生産性拡大」、「医療・介護分野の成長産業化」など規制改革にフォーカスして議論を重ね、1年後の今月に新たな答申をまとめ、これが公表されています。

保険調剤薬局の営業を病院内でもできるように医薬分業を規制緩和することや、税金が低く抑えられている農地(耕作放棄地)への課税強化などとともに提言されたのが、労働者の解雇の金銭解決です。
実際、アメリカなどの諸外国では解雇された従業員が裁判で争い、「解雇は無効」という判決が出た後、職場に戻る代わりに金銭を受け取る仕組みがあり、こうした制度も参考にしながら、経済界、産業界が硬直した雇用市場を改善するために解雇の金銭解決の制度化を求めていました。

実際問題として、私は多くの労働紛争を解決してきましたが、解雇された従業員が「解雇無効だ!」と会社を訴え、1年後に解雇無効の判決を勝ち取ったからといって、もう裁判を争った会社には戻りたくないし、会社の方でも戻って欲しくない、と思っているケースが大半なわけです。

そうだとすると、解雇の問題を金銭で解決しよう、というのは、それなりの合理性を持っていると言えます。

報道にもあるように、労働者から見ると、あっせんは短期間で解決しますが、手にする金額は低くなります。
対して、裁判では時間と費用がかかりますが和解金も高くなるという傾向があります。

政府は、こうしたバラツキをなくし、解雇問題の金銭解決の方法を知らない労働者の「泣き寝入り」を防ぐためにも、また経営者側に対しては解雇紛争の決着の仕組みを明確にできるメリットがあることからも、新制度を導入して利用しやすくするという目的があるとしています。

一方で、新制度が導入された場合、解雇数が増大するという懸念もあり、厚生労働省は5月末の段階では一旦、新制度導入については見送るとしていました。
ところが、今月に入って政府の規制改革会議が2015年内での検討再開を安倍晋三首相に提言したということです。

確かに、現行の労働関係法では社員は守られているため、会社は簡単に解雇をすることはできません。
いわゆる問題社員を解雇したくても、なかなかできないという問題を抱えている企業も増加しています。

また、2013年には解雇を巡る裁判が966件提訴され、そのうち195件で解雇無効が確定していますが、裁判で不当解雇との判決が出ても、結局は職場にいづらくなって会社を辞めてしまう労働者も多くいます。

私は、個人的には賛成なわけですが、労働者に不当に不利益がおよばないよう、労働者側の意見もよく聞いて、制度化していただきたいと思います。

そして、もし、トラブルになったら・・・・

労働トラブルの相談はこちらから⇒ http://roudou-sos.jp/flow/

不当解雇された時の知識は、こちら。
不当解雇問題を弁護士に相談すべき7つの理由
https://roudou-sos.jp/kaikopoint/