自分の子供を連れ去った父親が逮捕!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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自分の子供を連れ去った父親が逮捕!?

2015年06月17日

父親が自分の子供を車に乗せて自宅に帰ったところ、逮捕されたという事件が起きました。
一体、どういうことでしょうか?

「親権ない実子連れ去った父親!罪になるとは…“」(2015年6月9日 読売新聞)

静岡県御殿場市に住む男(31)が、内縁の妻(25)の自宅から親権のない実子である生後11ヵ月の長男を乗用車に乗せて連れ去ったとして、未成年者略取の疑いで緊急逮捕されました。

容疑者の男は、「自宅に連れ去ったが罪になるとは思わなかった」と供述。長男にケガはなかったということです。
早速、条文を見てみましょう。

「刑法」
第224条(未成年者略取及び誘拐)
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
略取とは、力ずくで奪い取ることですが、法的には暴力や脅迫、その他の強制的な手段で相手をこれまでの生活環境から離脱させ、第三者の支配下に置くこと、となります。

誘拐とは、偽計や誘惑を手段とするなどして人に誤った判断をさせて上記の行為を行うことです。

たとえ自分の息子であっても連れ出す場合には、この親権のない父親は監護者(子供を引き取り、生活を共にして世話をする人)である内縁の妻の同意を得なければいけなかったわけです。
それにも関わらず、無断で連れ去ったために逮捕となったということです。

未成年者略取罪は目的や動機を問わないので、成年の場合とは異なり、営利目的でなくても成立します。
身代金目的ではなく、「かわいかったから、ただ一緒にいたかっただけ」という理由での子供の連れ去り事件がありますが、そうした場合もこの罪は成立します。

ちなみに営利目的の場合は、第225条が適用されます。

第225条(営利目的等略取及び誘拐)
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
では、どんな行為をすると未成年者略取罪になるのでしょうか?
判断能力のある未成年者を脅迫、暴行して連れ去る以外にも、次のような事例があります。

・生後2日の嬰児(赤ちゃん)を連れ出した。(東京高判昭37・7・20判時319-21)
⇒相手が赤ちゃんで抗拒不能(抵抗・反抗できない状態)でも略取になります。

・共同親権者である夫が、別居・離婚係争中の妻が養育している2歳の子供を連れ去った。(最高裁平17・12・6集59-10-1901)
⇒親権のある親でも罪が成立する場合があります。

・子供の携帯品を取り上げ、「返してほしければついて来い」と脅迫して連れ去った。
⇒この程度の行為でも脅迫になり得ます。

・コンテナ内に入っている者を外部から施錠して閉じ込め、トラックで運び去った。
⇒暴行・脅迫以外の手段を用いても略取になります。

・麻酔薬で意識を失わせてから連れ去った。
⇒相手が昏睡状態、心神喪失状態の場合でも略取になります。
ところで以前、「面会交流」について解説しました。
詳しい解説はこちら⇒「面会交流は成立しない!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1610

面会交流とは、離婚後や長期間の別居中に子供を養育・監護していない方の親が、子供と面会などをすることです。

父親と母親の間で話し合いによって決められるのですが、話がまとまらないような場合、家庭裁判所に調停や審判の申立てをすることになります。

この申立てが2013年に1万件を超え、この10年間で倍増しているが、調停が成立しない例が約4割あり、子供に会うことができない親が増えているというものでした。

今回の事件、報道内容からだけでは詳細はわかりません。
容疑者の男は、なかなか子供に会うことができなかったのかもしれないし、内縁の妻は定期的に面会の場を設けていたのかもしれません。

しかし、いずれにせよ、普段いっしょに暮らしていない親が無断で子供を連れ去る、連れ帰ると犯罪になるということは、この機会に覚えておいていただきたいと思います