「自動車運転死傷行為処罰法」の施行9ヶ月の適用状況 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。

「自動車運転死傷行為処罰法」の施行9ヶ月の適用状況

2015年02月21日

悪質な運転に対する罰則を強化した、「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されてから9ヵ月が経ちました。

交通事故に関わる人間にとって、その適用状況はつねに気になるところですが、今回、警察庁が摘発件数などを取りまとめ公表したようです。

納得できるところもあり、一方で意外な結果に驚く部分もありました。

さて、どんな結果だったのでしょうか?

「全国の昨年5~12月の摘発210件 自動車運転処罰法」(2015年2月19日 中日新聞)

警察庁は19日、「自動車運転死傷行為処罰法」について、施行された2014年5月から12月末までの全国の警察での適用状況について明らかにしました。

自動車運転死傷行為処罰法では、新しい犯罪類型が規定されたのですが、その中で、適用がもっとも多かったのは、酒や薬物、さらには病気の影響で「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で運転をして人身事故を起こしたケースで、摘発件数は128件。

事故現場から逃走することで飲酒運転などの発覚を免れる「逃げ得」対策として新設された「発覚免脱」容疑の摘発は72件でした。

また、210件のうち14件は無免許だったため、刑が重くなる「無免許運転による加重」を適用されたようです。

2014年は、従来の規定を適用しての危険運転致死傷容疑の摘発も前年(2013年)より10件多い353件に上ったことを踏まえ、警察庁の担当者は、「適用しやすい新規定に流れたのではなく、厳しく処罰すべき対象の摘発を純粋に増やせた。今後も力を入れていく」と話したということです。
では次に、その摘発内容や件数について見ていきながら、詳しく解説していきます。

「アルコールによる影響」
・けが/94件(うち無免許3件)
・死亡/9件(うち無免許1件)
計103件

「薬物による影響」
・けが/11件
・死亡/1件
計12件

「病気による影響」
・けが/13件(うち無免許2件)
・死亡/0件
計13件

「発覚免脱」
・けが/67件(うち無免許7件)
・死亡/5件
計72件

「通行禁止道路の進行」
・けが/9件(うち無免許1件)
・死亡/1件
計10件
【酒・薬物・病気による影響とは?】
「自動車運転死傷行為処罰法」の危険運転致死傷容疑は、酒や危険ドラッグなどの薬物、さらには病気の影響で「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で運転して人身事故を起こしたケースにも適用できるようになったため、今回もっとも摘発件数が多くなったようです。

ちなみに、「危険運転致死傷罪」は、致傷の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役。
「準危険運転致死傷罪」は、致傷の場合には懲役12年以下、死亡の場合には15年以下の懲役となっています。
【発覚免脱とは?】
アルコールや薬物の影響で交通事故を起こした後に事故現場から逃走することで飲酒運転などの発覚を免れようとすることを「発覚免脱」といいます。
いわゆる「逃げ得」対策として新設されたものです。

逃げ得とは、たとえば酒で泥酔状態になって人身事故を起こした場合には危険運転致死傷罪が適用されますが、逃げて翌日に逮捕された場合、その時点では体内のアルコール濃度は減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、過失運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)しか適用できないことで、刑が軽くなってしまうという問題です。

ちなみに、発覚免脱罪の最高刑12年に、ひき逃げの最高刑10年が併合されると、最高18年の懲役刑を科すことが可能になっています。
【通行禁止道路の進行とは?】
「通行禁止道路」とは、具体的には以下のようなものです。
〇自転車及び歩行者の専用道路
〇一方通行道路(の逆走)
〇高速道路(の逆走)
〇スクールゾーンなどで通行を禁止されている場合

この罪が成立するには、通行禁止道路を走行するという認識が必要なため、たとえば、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しないということになります。
【無免許運転による加重とは?】
「無免許運転による加重」も新たに加えられた犯罪類型です。
以下の罪を犯した者が、事故のときに無免許だった場合に成立します。

〇危険運転致傷罪(死亡の場合や、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡の場合を除くのは、すでに最高刑が規定されているため)
〇準危険運転致死傷罪
〇過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
〇過失運転致死傷罪

過去、無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、「自動車運転過失致死傷罪」と「道路交通法違反」という軽い罰則しか科せられず社会的批判が高まったことから、世論の後押しもあって新たに規定されたものです。
警察庁のコメントによれば、「厳しく処罰すべき対象を摘発している」とのことで、自動車運転死傷行為処罰法の施行で一定の効果が出ているようですが、危険運転は、まだまだなくなってはいません。

まずは身近なところから。
このブログの読者に危険運転についての知識や法律を少しでも学んで理解していただくことで、危険運転や悪質運転が少しでもなくなっていくことを望んでいます。
「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら⇒
https://taniharamakoto.com/archives/1236