セクハラの賠償金が1300万円!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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セクハラの賠償金が1300万円!?

2015年01月22日

昨年11月、あるセクハラ裁判で異例の高額賠償金による和解が成立していたことがわかりました。

「“数字未達なら彼女になれ” アデランス、社内セクハラ1300万円で和解」(2015年1月20日 産経新聞)

かつら製造・販売の最大手「アデランス」の兵庫県内の店舗に勤務していた元従業員の女性が、大阪市内の店舗の店長だった男性従業員から繰り返しセクハラを受けて心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、退職を余儀なくされたとして同社に計約2700万円の損害賠償を求めた訴訟で、同社が女性に解決金1300万円を支払うなどの内容で2014年11月28日、和解していたことがわかりました。

報道によると、女性が兵庫県内で勤務していた2008年3月、大阪市内の店舗の店長だった男性従業員が指導目的で来店。
「数字を達成できなかったら彼女になるか、研修もしくは転勤だ」と脅すなどし、無理やりキスをしようとしたり、体を触ったりするセクハラを繰り返したようです。

女性が被害届を出そうとしたところ、同社の幹部から止められ精神的に不安定になり休職し、2010年1月にはPTSDと診断。
同社は、いったん女性を特別休暇扱いとし、その後に給与の支払いを停止。女性は2011年9月に退職したということです。

和解の内容は、会社が女性に和解金1300万円を支払う他、①同社は解決金の半額650万円について男性従業員に負担を求める、②男性従業員の在職期間中、原告が居住する京阪神地域を勤務地や出張先にしないよう努める、などとなっているようです。

なお、このセクハラについては地元の労働基準監督署が労災認定し、休業補償給付などの支給を決定しているとのことです。
会社がセクハラをした役員や社員を処分するのは当然ですが、セクハラに対する対応を間違ってしまうと、大変なことになってしまいます。
では、どのような対応をとればいいのでしょうか?

「男女雇用機会均等法」には、事業主がセクハラ対策として講ずるべき措置等が定められています。
主なものは以下の通りです。

〇事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること。
〇相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること。
〇相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正に対処すること。
〇相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

また、セクハラとなる言動には以下のようなものがあげられます。

〇性的な事実関係を尋ねること
〇性的な内容の情報を意図的に流布すること
〇性的な冗談やからかい
〇食事・デートなどへの執拗な誘い
〇個人的な性的体験談を話すこと
〇性的な関係を強要すること
〇必要なく身体に触ること
〇わいせつな図画(ヌードポスターなど)を配布、掲示すること
〇強制わいせつ行為、強姦等

事業者が上記のような講ずべき措置を怠った場合は、厚生労働大臣の行政指導(男女雇用機会均等法29条)の対象となるほか、勧告に従わなかった場合の企業名の公表(男女雇用機会均等法30条)、都道府県労働局長による紛争解決の援助の対象となる(男女雇用機会均等法16条)とされています。

また、民事訴訟になってしまうと、被害者である社員は今回のように会社に対して責任の追及と賠償請求をすることができます。

ちなみに、被害者の訴えによりセクハラが刑事事件になれば、行為者(加害者)は、傷害罪(刑法第204条)、強要罪(刑法第223条)、名誉棄損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)、場合によっては、暴行罪や強制わいせつ罪、強姦罪などに問われる可能性があります。

さて、これらを踏まえ、社内でセクハラ問題があったときは、まず事業主の方は以下の3点について検討することが重要です
①職場において行われたものか
②労働者(被害者)の意に反するものか
③行われた言動が性的なものかどうか

ただし、内容が内容だけに、慎重に事実確認を行う必要があります。

まずは、被害者から事情聴取をすることになりますが、女性が被害者の場合には、女性上司が事情聴取するなど、精神的な配慮が必要となります。

その後、加害者とされる社員から事情聴取をします。

ここで事実関係が十分に認定できない場合には、他の社員などへの事情聴取となりますが、この事情聴取が原因で社内で情報が拡散し、被害者の精神的被害が拡大してしまうおそれがありますので、第三者への事情聴取については慎重な判断が必要です。

そして、セクハラがあったことが確認できた時は、被害者の気持ちに配慮した人事的な措置を行うとともに、加害者に対する懲戒処分を検討することになります。

あわせて、社内での再発防止措置を講ずる必要もあるでしょう。

対応を間違うと、使用者責任で損害賠償金を負担しなければいけなくなります。

従業員がやった行為なのに、会社が責任を問われるわけですね。
「現場で起こったことだから」、「現場に任せていた」、は通用しないのです。

日本はアメリカのような訴訟社会ではないですが、今後は労働問題に関する紛争が増え、より多様化・複雑化していく可能性があります。
また、損害賠償金も高額化していく可能性もあります。

今まで築いてきた会社の信頼や信用、また高額賠償金を失うことのないように、経営者の方は社内体制を整え、備えておく必要があるでしょう。

労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/