酒の席での口約束に効力はあるのか?
年末年始は、何かとお酒を飲む機会が増えるものです。
酔った勢いで気が大きくなって、ついつい大風呂敷を広げてしまった…、安請け合いをして、あとから後悔するハメに…そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。
今回は、お酒に酔って仕事の契約をしてしまったらしい方からのご相談です。
Q)食品会社を経営する者です。先日、ある取引先の社長、専務と飲み会をしました。その席に、私は初めてお会いした別会社の社長Aさんと営業部長Bさんがいました。みなさん、お酒が好きで私もついつい飲みすぎました。後日、そのAさんから電話があり、「先日の案件について契約を結びたい」といいます。どうやら、お酒の席で契約の約束をしたようなのですが、私はその場のノリで応えたつもりでした。取引先の社長に確認すると、Aさんは本気らしいといいます。まさか…いや、本気ならば困ったことに…。酒の席での口約束に効力はないですよね? 法律的にどうなのか教えてください。
A)法律上は口約束でも契約は成立します。契約書がなければ契約の効力はない、というわけではないのです。ただし、訴訟となった場合には、①口約束の内容に契約書に相当するような具体性があるか、②契約内容について双方が合意しているか、③それらを、訴えを起こした側がきちんと証明できるか、が争点となってきます。
【契約とは】
法人を含む人と人との間で、何らかの私法上の効果を生じさせる(権利義務を発生させる)合意のことを「契約」といいます。
たとえば、ある物を「売りたい人」と「買いたい人」との間で意思表示が合致すれば、売主はその物を引き渡す義務と、代金を請求できる権利を取得します。
一方、買主は代金を支払う義務と、物を請求できる権利を取得するという私法上の効果が生じます。
また、当事者間で意思表示の合致があれば、契約の内容も当事者間で自由に決めることができるのが原則です。
これを、「契約自由の原則」といいます。
契約は、基本的には当事者がお互いに納得していれば(意思表示が合致していれば)、契約書がなくても成立しますし、内容も自由に決定できるのです。
ただ、事はそう簡単ではありません。
【裁判における立証責任とは】
裁判では、原則として訴えを起こした側に立証責任があります。
ご相談のケースでは、仮に相手の社長Aさんが民事訴訟を起こした場合、飲み会で口約束した契約の内容をAさんが具体的に証明する必要があります。
「言った」「言わない」の論争になるでしょう。
また、酒席で、「売ります」「買います」と言ったことを立証できたとしても、それだけで契約が成立した、と認定されることは少ないでしょう。
当事者の意思解釈としては、「売るつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」「買うつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」という趣旨であるとされるのが一般的でしょう。
どうしても、酒席で契約を成立させたかったら、その場で、契約書を作成し、契約書の末尾に「酒席での契約ではあるが、双方細部まで確認し、真に契約を成立させる合意をした」旨記載しておくべきでしょう。
また、その場に第三者がいる場合には、「双方契約の意思を確認しました」と、立会人として署名捺印をもらっておくとよいでしょう。
法律の建前と現実は、異なる、ということです。
ですから、「法律ではこうなっているよ」と言っても、現実には役に立たないこともありますので、注意が必要ですね。
【契約書の重要性】
契約書の作成は契約の成立要件ではありませんが、口約束ではあとから「そんな契約はしていない」、「契約の内容が違う」などと言われ紛争になる可能性があります。
そうした紛争を未然に防ぐためにも、やはり契約書を作成するべきです。
近年は、取引内容が複雑化している傾向があります。
契約書に、きちんと契約内容を整理して明確化しておくことが、取引関係を良好に維持していく上で非常に重要となってきています。
また、日本でも紛争解決の手段として裁判を起こすケースが増えてきましたが、裁判で重要な証拠となるのが契約書、覚書、合意書等の書面なのです。
いずれにせよ、今回のケースでは相談者の方は社長Aさんに対し、酒の席での非礼をお詫びして理解してもらうのがよいでしょう。
その上で、新たな商談など進めていければ、いい関係が築けるかもしれません。
それでも、紛争に発展するような場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
相談はこちらから⇒「顧問弁護士相談SOS」
http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/
「酒と人間とは、絶えず戦い絶えず和解している
仲のよい2人の闘士のような感じがする。
負けたほうが勝ったほうを抱擁する」
(シャルル・ボードレール/フランスの詩人・評論家)