愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?

2014年08月03日

以前、愛犬が起こした事件について解説しました。

詳しい解説はこちら⇒
「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1181

「犬も歩けば賠償金を払う」
https://taniharamakoto.com/archives/1343

家族同然の愛犬が人をかむなどして死傷させるようなことがあると、飼い主の責任になります。

民事訴訟では、高額な損害賠償金を飼い主が支払わなければいけない可能性があります。

また、飼い主が刑事事件として罪に問われる可能性もあります。

ところで、今年2月、飼い犬が散歩中の主婦を襲い死亡させてしまったという事件がありましたが、その飼い主が、重過失致死傷罪という犯罪にとわれています。先日、その飼い主に対する刑事事件の判決が出されたという報道がありました。

「土佐犬に襲われ死亡 飼い主に懲役2年6月判決」(2014年7月31日 毎日新聞)

今年2月、北海道白老町で、近くに住む主婦(当時59歳)が土佐犬に襲われて死亡した事件で、札幌地裁苫小牧支部は、重過失致死罪などに問われた飼い主の男(65)に対し、懲役2年6月、罰金20万円(求刑・懲役4年、罰金20万円)の判決を言い渡しました。

判決によると、被告の男は飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけ、周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬は浜辺を散歩中の主婦を襲って波打ち際に転倒させて水死させた、としています。

裁判官は判決理由で、「犬が重大な危害を及ぼす恐れがあるのを知りながら綱を放した。被害者の恐怖や苦痛は察するに余りある」と指摘したということです。
「重過失致死罪」とは、「過失致死罪」に重過失、つまり重大な過失により人を死亡させることで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

つまり、この飼い主は2年6ヵ月の間、刑務所に入らなければならないということになります。

飼い主は、愛犬を散歩に連れて行き、愛犬が走り回りたいだろうから、手綱を放したのでしょう。

愛犬を思ってのことです。

しかし、その愛犬が他人に危害を加えたことで、飼い主が懲役刑に問われてしまったのです。

さらに、今後は民事で損害賠償の訴えも起きてくることが予想されます。

過去の判例では、犬に襲われ転倒し、脳挫傷で女性が死亡した事件で、飼い主の男性に対し、慰謝料など約5,433万円の賠償命令が下されたものもあります。
犬を飼っている人にとっては衝撃の結果かもしれません。

しかし、被害者側は、どうでしょうか?

今回の事件では、被害者の夫の方のコメントが報道されていました。
「被告から謝罪されたとは思っていないし、懲役2年6月というのは短く、納得できない。重過失致死の罪はもっと重くしてほしい」

そう。何の落ち度もない被害者が、突然犬に襲われて命を落としてしまったのです。

遺族の悲しみ、苦しみは大きいでしょう。

亡くなった人はもう帰って来ません。
重傷を負ってしまったら、治療費がかかり、後遺症も残る可能性が高いでしょう。

悲劇を繰り返さないためにも、犬の飼い主には生き物を飼うことの責任と、飼い犬が他人を傷つけてしまう可能性があることを、今一度自覚してほしいと思います。