老後の不安を解消する任意後見制度とは?
先日のブログで、相続問題について「成年後見制度」のうちの「法定後見」について解説しました。
「認知症の父の相続問題にどう対処する?」
https://taniharamakoto.com/archives/1572
これは、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下して十分な判断ができなくなってしまった人に代って、財産管理や法律行為を行う「後見人」を選ぶものです。
一方、本人はまだ元気で判断能力も十分にあるけれど、病気やケガなどで、将来的に自分で判断できなくなってしまったら困るし、不安だという人もいます。
そうした人が、転ばぬ先の杖として利用できる法的制度はあるのでしょうか?
今回は、ある1人暮らしのご婦人の悩みから、老後の不安を解決する方法を探ってみます。
Q)数年前、夫に先立たれ、また私たち夫婦には子供がいなかったため、現在は年金生活で1人暮らしをしています。やはり心配なのは、今後のことです。今はまだ体は元気ですが、この先、病気になったり認知症にでもなったとき、お金の管理などはどうすればいいのか? 兄はいますが、すでに高齢ですし、他の親族とはもう何十年も会っていなく疎遠なため、頼るのには抵抗があります。何かいい方法はないでしょうか?
A)将来的なリスクに備え、本人がまだ元気で判断能力が十分にあるうちに後見人を決めておく「任意後見」を利用するとよいでしょう。
【任意後見とは】
自分であらかじめ選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活や療養看護、財産管理などに関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって結んでおくというものです。
【任意後見契約の手続き】
①後見人になってくれる信頼できる人を探す。
②契約内容を決める。生活や財産管理について、自分の希望を盛り込んでおく。
③公証役場で、公証人に「公正証書」を作成してもらう。
後見人の契約者を「任意後見受任者」といいます。
これは、家族や親族である必要はありません。
なお、周囲に適切な人がいない場合、弁護士会や司法書士会などに相談すれば、候補者を紹介する団体等を紹介してくれます。
【任意後見契約の費用】
〇公正証書作成の基本手数料:11,000円
〇登記嘱託手数料:1,400円
〇法務局に納付する印紙代:2,600円
〇その他
※2014年7月現在
【任意後見の開始】
本人の判断能力が低下した場合、後見人を監督する「任意後見監督人」を選任するよう家庭裁判所に申立てをします。
監督人の選任をもって、任意後見が開始されます。
任意後見監督人は、後見人が役割を果たしているか、不正などがないかをチェックします。
手続きの申立てができるのは、本人、配偶者、任意後見受任者、四親等以内の親族などとなっています。
【その他の注意点など】
任意後見契約の内容や後見人への報酬などは、関係者同士の話し合いで自由に決めることができます。
本人が結んでしまった不利な契約などは、法定後見の場合は後見人が取り消すことができますが、任意後見の場合、後見人は取り消すことができません。
報道によりますと、日本公証人連合会の調べでは、2013年の任意後見契約の締結数は9,032件で、年々増加傾向にあるようです。
仏教では、生、老、病、死を「四苦」とされています。
生まれること、老いること、病気になること、死ぬことは人が免れない苦しみである、ということですね。
人間は誰でも、いずれは老いて最期を迎えるときが来ます。
その時のために、前もって準備をしておくことは大切ですし、それが安心となって、今を充実して生きることができるなら、こうした制度を利用することを検討してみるのもいいかもしれません。