自動車運転死傷行為処罰法:病気の影響による「危険運転致傷」が初適用! | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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自動車運転死傷行為処罰法:病気の影響による「危険運転致傷」が初適用!

2014年06月15日

2014年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」。
詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

今回は、新たに規定された「病気の影響による危険運転致傷」が初適用された自動車事故について解説します。

病気の影響とは、どういうことでしょうか?
持病がある人は、自動車を運転すると罪になるということでしょうか?

「てんかんで事故の男逮捕、札幌 処罰法初適用」(2014年6月10日 共同通信)

無免許で自動車を運転し、持病のてんかんの発作を発症して軽傷事故を起こしたとして、札幌東署は10日、札幌市のアルバイトの男(26)を、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷、無免許)の疑いで逮捕しました。

男は札幌市内の道路で、無免許でワゴン車を運転中、てんかんの発作を起こした影響で対向車線にはみ出し、無職男性(79)の乗用車と衝突。男性に軽傷を負わせた疑いです。

事故当時、男は意識がなく全身がけいれんしていたということで、
調べに対し、「免許は取れないとあきらめていた」と語っているようです。

じつは容疑者の男は、2009年8月にも無免許運転でひき逃げ事件を起こしていたということです。

「自動車運転死傷行為処罰法」では、「危険運転致死傷」の適用範囲を広げています。

適用する要件には、アルコールや薬物の他に、特定の病気による影響も含めて、正常な運転が困難な状態で走行することを対象としています。

これには、2011年4月、栃木県鹿沼市で起きた、てんかん患者の運転手の発作により小学生6人をはねて死亡させた「鹿沼市クレーン車暴走事件」や、2012年4月に起きた「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」などを受けての新法成立という背景があります。

今回の事件で容疑者の男は、てんかんの持病があるために運転に困難な状況が起こることを自覚していながら、免許を取得することをあきらめ、故意に無免許運転を繰り返していたことで、危険運転致傷に無免許運転が加重されたということです。

刑罰は、最長で懲役20年になります。
今回は不幸中の幸いで、相手の被害者のケガが軽傷でしたが、非常に重い罪です。

ところで、政令で定める「特定の病気」には以下のものがあります。
1.統合失調症
2.てんかん
3.再発性の失神
4.低血糖症
5.そう鬱病
6.重度の睡眠障害

ただ、これらの病気の人が自動車事故を起こしたからといって、すべてで罪が成立するわけではありません。

自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合で、たとえば今まで意識を喪失したことがない、医師から特に薬を処方されていなくて普通に自動車を運転できていたような場合は、罪の対象にはならないと考えられます。

しかし、これら政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚していて、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考えられます。

つまり、「過失」なのか「故意」なのかが重要になってくるということです。

ちなみに、自動車の運転に支障を及ぼす可能性のあるてんかんや統合失調症などの病気の患者が、運転免許の取得や更新時に病状を虚偽申告した場合、罰則を科すことを新設した「改正道路交通法」が6月1日に施行されました。
罰則は「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

これらの病気の人、または自覚症状がある人は、まずは医師の診断をきちんと受けてから、自分が自動車運転できる状態なのか、そうでないのかの判断をしなければいけません。

自覚があるにも関わらず、免許を取得もせずに自動車運転をするなどということは言語道断です。

十分すぎるくらいに考慮して、強い自覚を持ってハンドルを握ってほしいと思います。

これくらいなら大丈夫、などという自分勝手な判断は命取りになるかもしれません。

「自動車運転死傷行為処罰法」の
詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236