いじめアンケート問題の判決で学校や行政の隠蔽体質に痛烈な一撃 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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いじめアンケート問題の判決で学校や行政の隠蔽体質に痛烈な一撃

2014年01月25日

2011年10月、滋賀県大津市でいじめを受けた男子生徒(当時13歳)が自殺をした問題はマスメディアで大きく取り上げられ、社会に大きな波紋を投げかけました。

事件後、学校は自殺の原因究明のために全校生徒を対象にした「いじめアンケート」を行ったようです。

その際、中学校側からアンケートの内容を口外しないとの確約書を取られ精神的苦痛を受けたとして、男子生徒の父親(48)が市に対して100万円の損害賠償を求めていた訴訟の判決が先日、大津地裁でありました。

報道によると、判決が出たのは1月14日。

裁判長は、「原因調査のためアンケートを利用しようとした親の心情は理解できる。一切の利用を禁止した確約書は違法で、また、個人名以外まで不開示とした処置も不適切」として、父親の訴えを認め、市に対して30万円の支払いを命じました。

父親は、生徒が自殺した約2週間後、学校から全校アンケート結果を受け取る際、「個人情報が含まれ、部外秘にする」との確約書の提出を求められ、さらには、情報公開請求をして開示された資料も大半が黒塗りされ、活用できなかったとしています。

市は「適切な情報開示ができなかった結果、遺族の心情を損なった」として遺族に謝罪しているということで、市長は「遺族にあらためておわびしたい」と述べ、控訴しないことを表明したようです。

生徒の父親は、「いじめに関するアンケートの開示を後押しする画期的な判決」、「自殺原因の調査を阻む確約書は違法だという司法判断は、(遺族の)『知る権利』確立にとって大きな第一歩」と述べ、判決の意義を強調。

また、「全国の自治体や教育委員会はプライバシーを理由に非公開の範囲を拡大し、いじめの調査を阻んできた」、「司法判断を重く受け止め、今後はいじめアンケートの積極的な開示を進めてもらいたい」とも語ったようです。

真偽は確認できておりませんが、この大津市の事件後、複数の同級生が行った、さまざまな事実が報道されました。

〇体育館で男子生徒の手足を縛り、口を粘着テープで塞いで虐待を行った。
〇男子生徒の自宅から貴金属や財布を盗んだ。
〇自殺後も男子生徒の顔写真に穴を開けたり、落書きをしていた、など。

また、学校と教育委員会の隠蔽体質が問題視されました。

〇クラスの担任は、自殺した生徒から相談を受けたり、暴力によるいじめの報告を受けていたにも関わらず、適切な対応を取らなかった。
〇担任は、自殺後の保護者説明会に出席せず、遺族への謝罪もないまま直後に休職してしまった。
〇学校と教育委員会は、いじめには気づかなかった、知らなかったと主張し続け、ケンカだと認識していたと説明。当初、自殺の原因はいじめではなく家庭環境が問題と説明していた、など。

これまでも、子供が子供に対して行った暴力行為は、大人たちが「いじめ」や「ケンカ」で済まそうとしてきました。

しかし、これが大人の場合であればどうでしょうか?

いじめられた子が怪我をした場合、被害者が訴え出れば「傷害罪」になります。

逮捕され前科がつくかもしれないし、民事で争われれば損害賠償請求の対象になります。これは当然、犯罪です。

それを、「いじめ」の一言で済ましてしまった瞬間、犯罪ではないかのような気がしてきます。

教育の問題であり、学校内で解決すべき問題のように思えてきます。

隠蔽し、見て見ぬふりをして済ましてしまおうとしてきたのです。

確かに、あまりに直接的な言葉や表現を控えることは、被害者の精神的苦痛に配慮するという面もあるでしょう。

しかし、罪状をぼやかし、婉曲表現することで加害者や親に犯罪という自覚がなくなってしまう恐れがあるのも事実でしょう。

また、マスメディアのこうした報道を読む者、聴く者も、犯罪という印象がなくなってしまう恐れがあります。

司法、教育、報道など立場は違っても、それぞれの分野で今後検討していくべき大きな問題を、この事件は突きつけているのではないでしょうか。

報道によると、判決の1週間後の1月22日、大津市は「いじめ防止対策推進法」(2013年9月施行)に基づく、いじめ防止基本方針の素案をまとめたようです。

市関係者によると、素案には、男子生徒が自殺した際、遺族への学校や市教委の説明が不十分だった反省から、「学校からの情報提供」を義務付けたということです。

素案には、
1.児童や生徒の課題を記し、進級時に教諭が引き継ぐ「子どもカルテ」を導入する、
2.インターネット上のいじめに対応するため、市に有識者会議を設けて対策を検討する、
3.各学校がネットの専門家を招き、スマートフォンの無料通話アプリの危険性を子どもに指導する、
などが盛り込まれたといいます。

今回の判決を機に、学校や自治体による「いじめ」問題に対する取り組み、そして、教育現場の情報開示がどのように進んでいくのか。

また、被害者や加害者や関係者、さらには多くの一般市民の犯罪への自覚がどう変わっていくのか、今後の動きを注意深く見守っていきたいと思います。