ひき逃げ(轢き逃げ)とは | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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ひき逃げ(轢き逃げ)とは

2009年04月10日


ひき逃げ(轢き逃げ)について解説します。

ひき逃げ(轢き逃げ)とは、一般的には、自動車による人身事故の場合に、加害者が、道路交通法に定められた義務である被害者の救護等をせず、現場から逃走することを言います。

道路交通法は、交通事故があったときの自動車の運転者や乗務員の義務として、次のような義務を課しています。この場合、加害者には限りません。

道路交通法第72条
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。
この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

つまり、
①ただちに車両等の運転を停止
②負傷者を救護
③道路における危険を防止
などの措置を講じる義務があります。

さらに運転者は、警察に連絡し、報告をする義務があります。

この道路交通法第72条の義務に違反すると、次のような罰則があります。

道路交通法第117条1項
車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
 
2項
前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

つまり、通常の義務違反の場合は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金だけれども、人身事故の運転者が義務違反をした場合には10年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

ところが、ひき逃げ(轢き逃げ)の場合の罰則は、これだけにとどまりません。つまり、上記の罰則は、道路交通法の救護義務違反についての罰則のみです。

しかし、交通事故で人を死傷した場合は、通常「自動車運転過失致死傷罪」も成立します。これは、次のような条文です。

刑法第211条2項
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金の処する。

つまり、自動車によるひき逃げ(轢き逃げ)の場合には、この自動車運転過失致死傷罪と道路交通法の救護義務違反の2つの罪が成立するのです。

この両者の関係はどうなるでしょうか。

この場合は、「併合罪」となります。併合罪になると、2つの罪のうち最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします(刑法第47条)。

したがって、この場合、最も重い罪はひき逃げ(轢き逃げ)の10年懲役ですので、これにその2分の1(5年)を加えた懲役15年以下の懲役となります。

さらに、最近問題となっている飲酒ひき逃げ(轢き逃げ)の場合には、もっと重くなります。

先日説明しましたが、危険運転致死傷罪が加わると、最長30年以下の懲役になる可能性もあります。

さらに、民事損害賠償において、ひき逃げ(轢き逃げ)の場合には、慰謝料増額事由になることもあります。

自動車を運転する人は、このことをよく憶えておかなければなりません。