弁護士は黒を白と言いくるめる?
弁護士に対する質問で、多いのは、「よく悪い人達を助ける弁護ができますね?よく黒を白だと言いくるめて平気ですね?」というものだ。
「良い」「悪い」の判断基準が不明だが、刑事事件でいうと、罪を犯したと疑われている被告人を守るのが弁護士の仕事だ。
だから、弁護士としては、仕事をしているだけのことである。
そもそも、仕事をする相手の感情に完全に共感する必要はない。
自社の商品を売る営業マンの中に、全ての商品について「絶対に他社の商品の方より優れている。全ての人に使って欲しい。その方が全世界がハッピーになるはずだ」と信じて疑わない人が何人いるだろうか。
他者の商品の方が優れていると思っていても、自社の商品の優位性を説明し、なんとか自社の商品を購入してもらおうとする営業マンがほとんどのはずだ。
それが仕事だからだ。
罪を犯した疑いで逮捕され、あるいは起訴された被疑者、被告人を守るのが刑事弁護士の仕事だ。
過去の事実だから、本当の真実を知ることはできない。
弁護士は、証拠を吟味し、被疑者、被告人の言い分に耳を傾け、彼らの権利を擁護するよう全力を尽くすのだ。
不思議なことではないと思うが、どうだろうか。
ただ、「黒を白だと言いくるめる」のは弁護士の仕事ではない。
特捜検事から弁護士に転身し、「闇の守護神」と呼ばれた田中森一氏は、「正義の正体」(集英社インターナショナル)の中で次のように言っている。
「そもそもの大前提として、『真実は一つだ』と認識した上で、その真実に対してどちらから光を当てるかの違いが検事と弁護士の違いだと思っている。白を黒と言うのが弁護士なのではなく、白はあくまで白、黒は黒と認めて、そのう上で、『じゃあ、依頼人のためにどうしようか』と考えるのが弁護士の仕事」
私の場合は、ちょっと違う。
私の大前提は、「本当の真実は、誰にもわからない」ということだ。
過去の事実について、何が真実かは、誰もわからない。検事も、弁護士も、裁判官もわからないはずだ。
あくまで証拠の基づいて「真実らしき事実」が判断される。それが本当の真実かどうかはわからない。
弁護士は、ここでも証拠を吟味し、被告人の言い分に耳を傾け、被告人の権利を守るだけだ。
結果的に、被告人が無罪になることがある。
しかし、その場合も、真実無罪だったかどうかは誰にもわからない。
そういう世界で生きているのが弁護士だと思っている。