関税のアンカリング効果
認知バイアスの一つに、「アンカリング効果」
というものがあります。
これは、意思決定を行う際に、最初に提示された
特定の情報(数値、意見、印象など)が「錨(アンカー)」
のように基準点となり、その後の判断がそのアンカーに
強く影響され、引きずられてしまう認知バイアスのことです。
このアンカリング効果は、交渉人にとっては馴染の
深いものであり、弁護士を含め、多くの交渉人がこれを利用します。
たとえば、損害賠償請求をする場合、適正金額が
1億円だったとしても、2億円、3億円を請求するような方法です。
そうすると、この最初に提示する2億円、3億円が
アンカーとなり、その後の交渉がこのアンカーに
引きずられやすい、ということになります。
海外の土産物屋で値下げ交渉をする場合も同様です。
値札の値段がアンカーです。
値下げ交渉をするにしても、なんとなく、この値札の
値段を意識してしまい、無意識に交渉がこの値段に
引きずられることになります。
その値段が適当につけたものであっても、です。
最近の例で、トランプ関税は、どうでしょうか。
多くの国に関税を課し、日本には24%の関税を課すと表明しました。
日本はパニックになり、
「なんとか日本は例外にできないか」
「関税を低くできないか」
などという議論がなされました。もしかしたら、
そのような方向で交渉しているかもしれません。
しかし、この24%の関税は、アンカーに過ぎません。
トランプ大統領は、アメリカの貿易収支の正常化や
アメリカの製造業の復活等を掲げており、その手段と
して関税をアンカーとして打ち込んでいるに過ぎません。
日本としては、「関税を低くする」などとアンカーに
引きずられず、アメリカの貿易収支を改善や製造業復活の
ための「他の方法」を提案したり、それらに貢献する
ことの「見返り」を求めたり、というのが本来の
交渉態度になるものと考えています。
あるいは、トランプ大統領が喜ぶであろうアメリカの
「他のメリット」を満たす提案をして、ディールする、
ということも検討すべきでしょう。
なお、トランプ大統領は、中国に対し、アンカーとして、
145%の関税を発表しましたが、中国は、この関税が
アンカーとして作用しないよう、報復措置として
125%の対アメリカ関税を発表しました。
この方法がベストかどうかは別として、
アンカリング効果を減殺する一つの方法となります。
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