株主権の時効取得
今回は、真実の株主でない者が、株主としての権利を時効取得することがある、という裁判例のご紹介です。
民法第163条は、次のように定めています。
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所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年(占有の開始の時に善意かつ無過失)を経過した後、その権利を取得する。
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東京地裁平成21年3月20日判決は、株主権の時効取得に関して、次のとおり判示しました。
・被告は、株の名義人とされ、本件増資の際は株を引き受け、しかも、株主総会で議決権を行使し、利益配当も得ていたというのであるから、権利者として社会通念上承認し得る外形的客観的な状態を備えていたものと評価することができる。
・したがって、・・・株の名義取得後、20年間、その株主権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使してきたものというべきである。
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裁判所が時効取得の認定において指摘した事実は、以下です。
・増資で株を引き受けた。
・株主総会で議決権を行使した。
・利益配当を受けていた。
このような事実があると、
・自己のためにする意思
・平穏
・公然
が認定されやすい、ということになります。
民法上の取得時効は、税法と異なり、時効期間の経過によって当然に法律効果が発生するものではありません。
時効の利益を受ける者の援用によって初めて効力を生じます(民法145条)。
そして、民法上は、起算日に遡って効力を生じます(民法144条)。
しかし、税法上は、遡及せず、たとえば、個人の場合は援用時の属する年分の一時所得となります(東京地裁平成4年3月10日判決)。