チュートリアル徳井さんの税務申告漏れの法的解説 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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チュートリアル徳井さんの税務申告漏れの法的解説

2019年10月26日

チュートリアル徳井義実氏の税務申告漏れに関し、法的に整理したいと思います。

この点に関する事実の詳細が、吉本興業のホームページに掲載されました。

それによると、以下のようになります。

2009年   徳井氏が株式会社チューリップを設立
(決算期3月) タレント活動に基づく収入は全てチューリップ社へ
        徳井氏は、チューリップ社から役員報酬としての収入を得る

2010年3月期 不申告
2011年3月期 不申告
2012年3月期 不申告

税務署から指摘を受け、
2012年6月25日 3期分を申告

2013年3月期 不申告
2014年3月期 不申告
2015年3月期 不申告

税務署から指摘を受け、
2015年7月23日 3期分を申告

2016年5月 税金未納により銀行預金差押

2016年3月期 不申告
2017年3月期 不申告
2018年3月期 不申告

2018年9月  税務調査
2018年11月 3期分を申告
2012年3月期~2015年3月期の4年分修正申告

【納税の内訳】
法人税の追徴課税 約3700万円
内、否認された経費約2000万円に対する重加算税 約180万円
申告漏れ金額約1億1800万円に対する無申告加算税約510万円を含む。

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本件について、以下の点を整理したいと思います。

1 犯罪の成否
2 なぜ、検察庁に告発されていないのか
3 附帯税

1 犯罪の成否

インターネット上では、「脱税だ」との声がありますが、租税犯罪は脱税だけではありません。

まず、正当な理由がなくて提出期限までに申告書を提出しない場合には、「単純無申告犯」が成立します(法人税法160条)。

刑罰は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

そして、故意に提出期限までに申告書を提出しない場合は、「申告書不提出犯」となり、刑罰が重くなります(法人税法159条3項、4項)。

刑罰としては、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科です。(罰金につき4項加重あり)

そうすると、チューリップ社は、2010年3月期~2012年3月期、2013年3月期~2015年3月期、2016年3月期~2018年3月期が提出期限までに申告書を提出していないことになり、正当な理由がないでしょうから、少なくとも、単純無申告犯が成立しそうです。

そして、2012年6月25日に税務署から指摘を受け、3期分を申告しているので、2013年3月期以降は、提出期限までに申告書を提出しなければいけないことを知っていたはずです。

そうすると、それ以降は、「故意」に不申告だとして、申告書不提出犯が成立する可能性があります。

ところで、いわゆる「脱税犯」と言われる犯罪は、上記と異なります。

法人税法では、159条1項、2項で規定してあるのですが、脱税は、「偽りその他不正の行為」による法人税を免れた場合に成立します。

刑罰は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科です。(罰金につき2項加重あり)

今回、これに該当する可能性があるのが、否認された経費約2000万円に対する法人税分です。

ざっくり500万円くらいでしょうか。(重加算税の金額から逆算)

単に不申告では、脱税に該当しません。脱税は、「偽りその他不正の行為」により法人税を免れた場合に該当するものですが、今回の不申告については、税務署は、脱税だとは見ていません。

なぜ、それがわかるかというと、今回、不申告部分については、「重加算税」を課していないからです。

重加算税は、「隠ぺい又は仮装」により税を免れた場合に課せられます。

「事実を隠ペい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得.財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいいます(和歌山地裁昭和50年6月23日判決)。

脱税は、「偽りその他不正の行為」という表現ですが、これは、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」(最高裁昭和42年11月8日判決)とされています。

したがって、重加算税の対象行為と脱税犯の対象行為はかなり重なり合うことになります。

この点、税務署から指摘があった部分について、特に争わずに修正申告に応じたということなので、脱税の要件を満たしているかどうかは不明です。

2 なぜ、検察庁に告発されていないのか

次に、脱税だとすると、なぜ、検察庁に告発されていないのか、という点ですが、これは単純に金額が少額だからです。

国税庁の統計によると、平成29年度に重加算税を課せられた件数は、約3万件です。

この全てを刑事告発するわけにはいきませんので、重い脱税事件に絞って、処理できる件数だけを刑事告発の対象にしています。

昔は、1億円以上の脱税が刑事告発対象だ、と言われていましたが、最近は、数千万円の脱税でも刑事告発されているようです。

しかし、1000万円未満の脱税で刑事告発されているものは、私は知りません。

徳井氏の場合、仮に脱税していたとしても数百万円なので、少額ということで、刑事告発の対象となっていない、と思われます。

しかし、単純無申告犯、申告書不提出犯については、今後、刑事手続に乗ってくる可能性があるのではないか、と思われます。

3 附帯税

無申告の場合には、本来納付すべき税金の他に附帯税が課せられます。

無申告加算税、延滞税です。そして、今回は、隠ぺい又は仮装があったとして、重加算税も課せられています。

なお、消費税、役員給与の源泉所得税などがどうなっているのか、も気になるところです。

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