嫌がらせ電話は逮捕されます。
今回は、9時間ぶっ通しで、約30秒に1回の割合で行なったことが犯罪になった、という事件について解説します。
容疑者は、一体何をやったのでしょうか?
「9時間に1100回110番 “バカ”や無言繰り返す容疑で男逮捕 新発田署/新潟 」(2018年7月5日 毎日新聞)
不要な110番を9時間で約1100回かけたとして、新潟県警新発田署は、新発田市のトラック運転手の男(49)を業務妨害容疑で逮捕しました。
同署によると、男は、今年(2018年)2月6日午後2時から午後11時頃までの間、携帯電話から110番をかけ続け、「何が110番警察だ。バカ」などと話したり、無言電話を繰り返したりして警察の業務を妨害したとしています。
男は、以前から不要な110番を繰り返していたようで、県警は何度も警告してきたが聞き入れなかったため「県警への挑戦行為」と判断。
過去の通報記録の中で1日当たりの件数が最多だった同日の容疑での立件に踏み切ったということです。
「県警への挑戦行為」と判断したとは、警察もよほど腹に据えかねたのでしょう。
この日だけでも、30秒に1回の迷惑電話が9時間続いたわけですから、状況を想像すれば気持ちはわかりますね。
それはさておき、まずは関係する条文を見てみましょう。
「刑法」
第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第234条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
業務妨害には、「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」があります。
偽計業務妨害罪とは、虚偽の風説(ウソの情報やうわさ)を流して、もしくは偽計(人をあざむくこと)を使って相手の業務を妨害する罪です。
威力業務妨害罪の「威力」というのは、過去の判例では、次のように解釈されています。
「人の意思を制圧するような勢力をいい、暴行・脅迫はもちろん、それにまで至らないものであっても、社会的、経済的地位・権勢を利用した威迫、多衆・団体の力の誇示、騒音喧騒、物の損壊・隠匿等、およそ人の意思を制圧するに足りる勢力一切を含む」
今回の事件では罪名が詳しく報道されていませんが、過去の判例に「中華料理店に3ヵ月足らずの間に約970回にわたって無言電話をかけた事例」(東京高裁昭和48年8月7日判決)」があり、偽計業務妨害罪を認めていることから考えると、今回もおそらく偽計業務妨害罪だと思われます。
なお、過去にどのような行為が偽計業務妨害罪と判断されたかについては、こちらを参照してください。
「ウソの注文をすると犯罪になります。」
https://taniharamakoto.com/archives/1957/
ちなみに、警察の公務を妨害したのだから「公務執行妨害罪」にあたるのではないのか? という疑問を持つ方もいると思いますが、条文ではどう規定されているでしょうか。
「刑法」
第95条(公務執行妨害及び職務強要)
1.公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
法律上の暴行とは、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」(第208条)、と規定されています。
今回のニセの110番通報は暴行とまではいえないと判断されたのでしょう。
嫌がらせ電話をかけたくなる人もいるかもしれませんが、刑事告訴されると、逮捕される可能性もありますので、くれぐれも注意するようにしましょう。