変わるのは、トラかシロクマか?
キツネ君は、トラ君が工場長を務める工場で働いていた。
トラ君は、いつも機嫌が悪く、すぐに怒鳴っていた。
「作業が遅いぞ!」
「休憩なんかとるんじゃない!」
「終わるまで帰るな!」
キツネ君は、肉体的にも精神的にもヘトヘトになり、帰りには、いつも作業員仲間と一緒に赤提灯で酒を飲み、工場長の愚痴を言い合って、ストレスを発散するのが日課だった。
「俺だって一生懸命やってるんだ。トラ君がそんなことを言うなら、自分でやってみろってんだ。何も知らないくせに文句ばかり言うんじゃない。無能な上司を持つと疲れるよ」
そんな愚痴を言い合うのだった。
次の日も、また次の日も、同じことの繰り返しだった。
キツネ君は、思った。
「どうしてあんなに分からず屋なんだ。いい加減こっちの事情も理解して欲しいよ」
しかし、トラ君は変わらず怒鳴り続けるのだった。
ついにキツネ君はストレスから工場を辞めた。
シロクマ君は、キツネ君と入れ替わりに工場に勤めだした。
トラ君があまりに怒鳴り散らすので、シロクマ君も、次第にストレスがたまり、キツネ君と同じように赤提灯で愚痴を言い合っていた。
しかし、シロクマ君はふと思った。
「こんなことしていても何も変わらない。トラ君だって、自分の立場があるから、怒鳴っているだけだ。工場の業績を良くしたいという点では利害が一致するはずだ」
そして、シロクマ君は、翌日から態度を変えた。
作業員の効率が上がるように、作業員同士の作業量を競争形式にし、成績によって給料を上乗せするようトラ君に提案し、採用された。
仕入金額を下げるために他の工場と共同購入するよう提案し、採用された。
1日の作業効率を向上させるために、作業手順を見直すことを提案し、採用された。
工場の業績がみるみる上がっていった。作業時間も短縮された。
次第に、トラ君が怒鳴る回数が減り、ついには怒鳴り声を聞くことがなくなった。
トラ君は、自分の工場の業績を上げたいと願い、怒鳴ることによって皆にハッパをかけようとしていたのだ。
しかし、シロクマ君の行動により、その必要がなくなり、怒鳴ることをやめたのである。
それだけではない。
工場の運営について、ことあるごとにトラ君は、シロクマ君に相談をするようになり、2人はとても良い関係になった。
人事異動の時期が来て、トラ君は、他の工場に異動になった。
その後工場長に任命されたのは、シロクマ君だった。
トラ君が、人事部に後任をシロクマ君を推薦していたのだった。
誰かを変えたいと思った時、その人にどうやって働きかけたらよいでしょうか?
どういう影響を与えれば、その人は変わってくれるでしょうか?
その人に強い影響力を持っていれば、「変わってくれ」と言えば変わってくれるかもしれません。
しかし、そうでないとしたら?
キツネ君やシロクマ君が、トラ君に「怒鳴らないでくれ」と頼んだら、トラ君は、変わってくれたでしょうか?
無理な話でしょう。
相手を変えるには、まず自分を変えることです。
自分を変えることにより、その人に影響を与え、その人を変えてゆくという方法です。
小手先の説得術ではありません。
自分を変えることにより、周囲も変わってくると思います。
世界までも変えられるか?
私には到底無理ですが、本気でそれを願い、実行しようとした偉大なる人がいます。
世界に変革を求めるなら、自分自身を変えることだ(ガンジー)