放火をしたのに器物損壊罪で逮捕された真相は!?
火をつけたのに放火罪にならなかった、という事件が起きたようなので解説します。
では、何の罪に問われたのでしょうか?
「“間違いありません”アパートのゴミ箱を燃やした住民の無職女を器物損壊容疑で逮捕 奈良・香芝市」(2016年6月14日 産経新聞)
奈良県警香芝署は6月13日、自分が住むアパートのごみ箱に火をつけて焼損させたとして、同県香芝市の無職の女(41)を器物損壊容疑で逮捕しました。
女は、「間違いありません」と容疑を認めているということです。
事件が起きたのは、6月10日午前6時頃。
女は自分が居住するアパートの敷地内に置かれた金属製のごみ箱(高さ115センチ、幅122センチ、奥行き63センチ)内のごみに火をつけ、ごみ箱の一部を焼損させたようです。
同署によると、防犯カメラから容疑者が浮上。
5月26日と6月3日にも同じごみ箱が燃える不審火があったことから、同署で関連を調べているということです。
さて、この事件について1つの疑問が湧きます。
容疑者の女は火をつけているのに、なぜ放火罪ではなく器物損壊罪なのでしょうか?
まずは、放火罪から見ていきましょう。
放火罪については以前にも解説しています。
「放火は殺人より罪が重い!という都市伝説の真相は!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1624
刑法では「放火及び失火の罪」として、第108条から第118条に規定されています。
以下に簡単にまとめます。
・第108条(現住建造物等放火罪)…実際に人が住居として使用しているか、人が中にいる建造物等に放火して焼損させる罪。
・第109条(非現住建造物等放火罪)…実際に人が住居として使用していないか、人が中にいない建造物等に放火して焼損させる罪。
・第110条(建造物等以外放火罪)…前2条に規定するもの以外の物に放火して焼損させる罪。
・第111条(延焼罪)…他人所有の現住建造物や非現住建造物などに延焼させた場合に加重される法定刑。
・第112条(未遂罪)
・第114条(消化妨害罪)
・第116条(失火罪)
・第117条(激発物破裂罪)
・第118条(ガス漏出等罪)
今回の事件で抵触する可能性があるのは第110条です。
「刑法」
第110条(建造物等以外放火)
1.放火して、前2条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
2.前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
この罪には、「よって公共の危険を生じさせた」ことが必要となっています。
放火するだけでは足りず、具体的な公共の危険が発生することを必要とすることから、「具体的危険犯」といわれます。
「公共の危険」とは、不特定・多数人の生命・身体・財産に脅威を及ぼす状態であるとされています(最高裁平成15年4月14日判決)。
たとえば、駐車場内で放火した場合、近くの自動車やごみ集積場などの可燃物に延焼してハリウッド映画のような危険が及ぶ場合には、放火罪が成立します。
報道によると、今回の事件は、
「居住するアパートの敷地内に置かれた金属製のごみ箱内のごみに火をつけ、ごみ箱の一部を焼損させた」
ということなので、近くの住居や樹木等に延焼する危険があるとはいえなかった、ということで「公共の危険を生じさせた」とまでは言えないと判断され、放火罪の適用が見送られたのではないでしょうか。
そして、炎でゴミ箱の一部を毀損した、ということで、器物損壊容疑での逮捕になったのだと思います。
第261条(器物損壊等)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
ちなみに、放火罪は前述の第108条では最高刑が死刑で、現行法上では「殺人罪」(第199条)と同じ法定刑である重罪ですから、絶対にやってはいけません。
火をつけるべきは、自分のハート、やる気のスイッチですね。