セクハラの代償・・・ | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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セクハラの代償・・・

2014年08月11日

先日、セクハラについて解説しました。

詳しくはこちら⇒「会社の飲み会への強制参加はセクハラになる!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1586

会社の強制参加の飲み会が苦痛だという、ある女性社員のお悩みについて、上司や先輩社員からの「まだ結婚しないの?」などの発言、肩を抱かれるなどの行為も含めて、強制参加が行われている場合は、飲み会の席は実質的に職場の延長と判断されるため、セクハラになるというものでした。

ここでは、被害に遭った女性社員の立場からセクハラを解説したわけですが、今回は逆に、加害者と企業の法的責任について考えてみたいと思います。
「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(厚生労働省告示第615号)というものをご存じでしょうか?

これは、「男女雇用機会均等法」第11条2項に基づいて厚生労働大臣が定めるもので、職場における男女双方に対するセクシュアルハラスメント対策として、事業主に措置を講ずることが義務づけられているものです。

全部で9つの項目が定められているのですが、以下に抜粋します。

〇事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること。

〇相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること。

〇相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正に対処すること。

〇相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
会社が、これらを怠ったり、相談・苦情に適切に対応しなかった場合、被害者が泣き寝入りせず、取り得る手段にはどのようなものがあるでしょうか?
【労働基準監督署や労働局などに相談】
各都道府県の労働基準監督署や労働局、労働委員会などにある窓口に相談すると、事業所への助言、行政指導、勧告、立ち入り調査などが行われます。

これを受けて、事業主(会社)は行為者(加害者)に対して、減給・停職などの懲戒処分を行います。
また、申立者(被害者)への慰謝料などの解決金の支払いや、再発防止策の徹底を行います。
【民事訴訟】
被害者は、加害者と会社に対して責任の追及と賠償請求をすることができます。

 

過去のセクハラ裁判で有名なものに「北米トヨタ自動車セクハラ訴訟事件」というものがあります。

これは、2006年、北米トヨタ自動車で社長アシスタントをしていた日本人女性(当時46歳)が、日本人社長からセクハラを受けたとして、同社と社長などを相手取って総額1億9,000万ドル(当時のレートで200億円以上)の損害賠償請求を起こした事件です。
最終的には和解が成立し、女性は巨額の和解金を手にしたといいます。

一体、いくら手にしたのでしょうか……。
【刑事訴訟】
被害者の訴えにより、セクハラは刑事事件になる場合もあります。
現在、セクハラに直接抵触する法律はありませんが、加害者の刑事責任を追及する法律には次のようなものがあります。

「刑法」第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
※怪我をさせた場合ですが、精神を衰弱させるような精神的傷害にも適用

「刑法」第223条(強要)
1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

「刑法」第230条(名誉棄損)
1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

「刑法」第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

その他、場合によっては、暴行罪や強制わいせつ罪、強姦罪が適用される可能性もあります。
「これくらいは平気だろう」と勝手に考えて行った言動が、相手にとっては不快なセクハラ行為と受け取られれば、セクハラになってしまいます。

その結果、民事、刑事で告訴されることもあるということです。

北米トヨタのセクハラ事件ほど巨額の賠償請求は、日本においてはそうあるわけではないとしても、民事でも刑事でも訴訟に発展すれば、社会的な信用を失うことにもなってしまいます。
失うものは大きいですね。

職場での言動には十分注意して、お互いが気持よく働ける職場環境を、会社も従業員も目指していきたいものです。