認知症の父の相続問題にどう対処する?
高齢者の方が、よく言われるのが「ボケたくない」、「家族に迷惑をかけたくない」ということです。
しかし、実際には日本の超高齢化は進行し、認知症になってしまう人が増え続けています。
厚生労働省の発表では、認知症の人の数は推計で約460万人。発症の可能性のある400万人も含めると、65歳以上の高齢者のうち、4人に1人が認知症とその予備軍だということです。
認知症の問題は本人だけでなく、現実的に家族にも大きくのしかかってきます。
親が認知症になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか?
今回は、親の認知症と相続問題を法的に解説します。
Q)75歳の父が認知症になってしまいました。実家は、地方で代々続く地主の家系で、父も数件の土地を先祖から相続して所有しています。そこで心配なのは、今後の財産の管理と相続についてです。いつか悪徳業者にだまされてしまうのではないかと不安でしょうがありません。母は今まですべて父に任せきりで何もわかっていません。おまけに長男である私と弟、妹も全員が実家を出ていて、別生計で家庭を持っています。私が実家に帰ることも考えていますが、仕事の関係もあり、すぐに行動できない状態です。早急に対応したいのですが、何をどのようにすればよいのでしょうか?
A)高齢者や障害者などの財産管理や、生活支援をするための制度として、「成年後見制度」というものがあります。
成年後見制度には、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下してしまったときのための「法定後見」と、本人が元気で判断能力があるうちに将来のリスクに備えて自分で後見人を選ぶ「任意後見」があります。
質問のように、親が認知症の場合は、法定後見制度を利用するのがいいでしょう。
【法定後見】
判断能力が不十分な人がいる場合、家族などが家庭裁判所に審判を申し立て、後見人が決定されます。
後見人は、本人に代って財産の管理や法律行為などを行います。
後見人制度は、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれていて、本人の事情に応じて選択できるようになっています。
「後見」
〇判断能力がまったくない人が対象
〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など
〇後見人には、財産管理に関する全般的な代理権と取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる
〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う
「保佐」
〇判断能力が著しく不十分な人が対象
〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など
〇民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などについて、本人に不利益でないかを検討して、問題がない場合の同意権が与えられる
〇取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる
〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う
「補助」
〇判断能力が不十分な人が対象
〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など
〇申立てにより、民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などの一部の同意権と、取消権(日常生活に関する行為を除く)などが与えられる
たとえば、後見人は本人に代わって、所有している不動産の売却手続きをすることができます。
また、悪徳業者によるリフォーム契約の取り消しをすることができます。
【手続きなどでの注意点】
〇申立てには、申立書などの書類や本人の戸籍謄本、申立て手数料や登記手数料などが必要です。
〇法定後見を申立てる際、医師の診断書の添付を求められます。この診断書が、「後見」「保佐」「補助」の決定において重要視されます。
〇審判では、医師による鑑定を必要とする場合もあるため、選任までに数ヵ月もかかることがあります。
〇後見人の選任は家庭裁判所が決定するため、申立て人の希望に沿うとは限りません。候補者として家族や親族を挙げていても、本人が必要とする支援などの内容によっては、たとえば候補者以外の人で弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士などの専門職や、法律又は福祉に関わる法人などが選ばれる場合があります。
【後見人の役割や注意点】
〇成年後見人制度は、あくまでも本人のための制度であるため、たとえば、相続税対策のための贈与や借入、投機的な運用等はできません。
〇成年後見人から請求があった場合は、家庭裁判所の判断により、本人の財産から報酬が支払われることになります。
〇成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られています。そのため、食事の世話や介護などは一般には成年後見人の仕事ではありません。
〇成年後見人は、行った仕事の報告を家庭裁判所に報告し、必要な指示等を受けます。これを、「後見監督」といいます。
〇原則として、後見人は本人が死亡するまで任務が続くことになります。
平均寿命の長さ、高齢者の数、高齢化のスピードなどから見ていくと、日本はすでに「超高齢化社会」に突入しているといいます。
それにともない、さまざまな事故や問題も起きています。
認知症の高齢者の徘徊による鉄道事故に関しては、以前、解説しました。
「鉄道事故の賠償金は、いくら?」
⇒https://taniharamakoto.com/archives/1421
また、2013年には親族に代って成年後見を申し立てた市区町村長の数が、本人の子供についで2番目の多さになったという報道がありました。この5年で2.7倍に増加しているということです。
家族のいない、身寄りのない高齢者がいかに増加しているかが見てとれます。
時代の変化に合わせて、法律と上手につきあっていくための知識が今後ますます求められているのかもしれません。