税理士損害賠償 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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  • 外国税額控除を漏らして税理士損害賠償

    2024年03月14日

    今回は、外国税額控除を漏らして税賠の裁判例を解説します。

    東京高裁平成21年4月15日判決です。

    (事案)

    ・被告税理士は、平成17年9月8日、原告が代表を務める会社の決算書類及び確定申告書の作成を報酬(決算料)12万円で受任した。

    ・原告個人は、平成17年8月5日に米国不動産を売却していた。

    ・被告税理士は、平成18年3月9日、原告の所得税確定申告書を作成提出したが、外国税額控除に関する明細書などを添付せず、外国税額控除を受けられなかった。

    (争点)

    ・原告個人の所得税確定申告代理業務を受任したのはいつか。(平成17年中であれば、法人の申告の打ち合わせの際に、米国不動産売却の話が出た可能性がある)

    ・被告税理士は、原告から外国所得の話がなくても、原告に対し、「外国の所得はないか」と確認すべき義務があるか。(積極的に漏れなく確認する義務があるか)

    (判決)

    (所得税確定申告業務を受任したのはいつか?)

    ・平成18年2月3日、原告の平成17年の所得税確定申告書作成の依頼を受け、これを報酬2万5000円で受任した。

    (平成17年ではないので、不動産売却の話が出た可能性は低い。)

    ・これ以降に外国不動産の売却についてのやり取りがあったかどうかが問題となる。

    ⇒ない。⇒ 税理士は、外国での収入を知らなかった。

    (積極的に外国での収入を確認する義務があるか?)

    ・確定申告を依頼された税理士は、正確な申告をするためには、一般的に依頼者より所得状況の聞き取りを行う義務がある。

    ・税理士が受任した際にどの程度の聞き取りを行うべきかの具体的な範囲・程度については、もとより具体的事案に応じて決せられるべき。

    ・被告税理士が、平成18年2月3日の打ち合わせの際に、原告に対し、過去の確定申告書を見せながら、前年の申告以外に収入がないことの確認を求めて聞き取りを行ったものであり、原告からそれら以外の説明がないため外国の財産について認識し得ない状況下では、さらに被控訴人において「国外においても所得があるか」と具体的に指摘した聞き取りまですべき義務があると認めることはできない。

    ⇒税理士勝訴

    =====================

    以上です。

    (ポイント)

    ・税理士が受任した際にどの程度の聞き取りを行うべきかの具体的な範囲・程度については、具体的事案に応じて決まるのであり、一般的に決まっているものではありません。

    ・契約書を締結していれば、受任時期が争いになることはなかったと思われます。

    ・所得税確定申告を受任した場合に報告及び資料の提出を求める事項について、雛形を作成し、受任時に交付しておく業務フローにする方法もあります。

    ・契約書に一切の収入について報告し、資料を提出する義務を依頼者に課す方法もあります(責任分担規定)。

    ・申告書を提出する前に、メール等で依頼者の収入を列挙し、「上記以外で譲渡した資産や収入は一切ないか?」と尋ねておく方法もあります。

    いずれにしても、大量に所得税確定申告業務を行う中で、このような事案でも税理士損害賠償請求の発展し、訴訟にまでなってしまう、ということです。

    各事務所において、証拠化に工夫が求められるところです。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 礼金漏らして税理士損害賠償

    2024年03月07日

    今回は、税理士損害賠償の裁判例をご紹介します。

    惰性で業務を行わず、注意深く行わなければならないことを教えてくれる東京地裁平成21年10月26日判決です。

    (事案)

    ・X(納税者)は、合計7棟の賃貸用建物及び2つの駐車場を所有して、これらの賃貸業を営んでいる者である。

    ・Y(税理士)は、平成12年から平成17年度まで、毎年度、Xの所得税の確定申告書等の作成を受任した。

    ・Xは、Yに対し、不動産収入の内訳明細書や仲介業者が作成した賃料集金明細書を提出した。

    ・Xは、本件不動産賃貸業において、礼金及び更新料等を受領していたが、不動産収入の各内訳明細書の、礼金・敷金・更新料欄には、これを一切記載せず、また、仲介業者が作成した賃料集金明細書にも、礼金等の額は正確に記載されていなかった。

    ・Yは、Yの従業員が作成した本件各確定申告書等の各税理士欄に記名又は記名・押印した。Yは、その際、本件各確定申告書等の記載内容を、本件各資料の内容と照合して、その記載内容の正確性を検討したり、自ら又は従業員を通じて、Xらに対し、本件不動産賃貸業に関する礼金等の有無や本件借入利息の内容等についての確認や事情説明、資料の追加提出等を求めることなどはしなかった。

    ・Xは、平成18年秋以降、税務調査を受け、過少申告加算税、重加算税及び延滞税の支払を余儀なくされたことから、Yに対し、損害賠償を請求した。

    (判決)

    ・本件不動産のうち建物については、月額賃料が5万円から10万円までの賃貸物件で、貸主において、契約締結時又は更新時に礼金又は更新料を受領したり、退去日等との関係から日割賃料が発生するケースも少なくないこと、などから、本件各確定申告書等には、礼金等の収入が計上されず、また、本件借入利息等を含む本件不動産賃貸業に関係しない支出が必要経費として計上されたことが認められる。

    ・税務に関する専門知識を有するYにおいて、本件各確定申告書等の記載と本件各資料の記載を照合して、本件各確定申告書等の根拠となっている本件各資料の内容を精査すれば、礼金等の収入の有無や必要経費の内容や金額などについて、疑問をもち、Xに対し、これらについて説明を求め、追加資料の提出を促すことは容易であったというべきである。
    ・本件委任契約を受任した税務の専門家として、Xからの委任の趣旨に沿うよう、Xに対し、適切な助言や指導を行って確定申告書等を作成すべき義務を怠ったと認められる。

    →税理士敗訴

    ====================

    以上です。

    税理士は、依頼者が事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知つたときは、直ちに、その是正をするよう助言する義務があります。(税理士法41条の3)

    従業員に任せきりにして見落としても、税理士の責任(履行補助者の故意・過失)になります。

    チェック体制を整えておく必要があります。

    また、資料を見た時に、「通常あるはずのものがない」ものを見つけて質問・資料提出を求めたり、「通常ないはずのものがある」ものを見つけて質問・資料提出を求めることが必要となります。

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  • 納税猶予の助言義務違反で税賠の裁判例

    2024年02月22日

    今回は、相続税申告において、納税猶予の説明義務に違反したとして損害賠償請求された裁判例をご紹介します。

    横浜地裁平成元年8月7日判決です。

    (事案)

    ・原告の父が死亡し、原告他9名が法定相続人として相続が開始した。

    ・原告他9名は、被告税理士に相続税申告手続を委任したが、農地の納税猶予の適用を依頼し、被告税理士は受任した。

    ・相続税申告期限の日に税理士は遺産未分割で申告手続をしたが、その際、農地の納税猶予の適用申請をしなかった。

    ・本件納税猶予は農地についてのみ一部分割をしていれば適用を受けられたにもかかわらず被告税理士が説明を怠ったことにより適用不可となったとして、損害賠償請求をした。
    (判決)

    判決は、以下のとおり、税理士に対し、納税猶予の説明をする義務があると判断しました。

    ======================

    税理士は、本件納税猶予の適用申請手続の税務代理を受任した場合、委任者に対し、本件納税猶予の適用申請を行うためには、申告期限までに共同相続人間で遺産分割協議書が作成されなければならないこと、即ち、全体の遺産分割協議書が作成されるべきであるが、仮にその作成ができなかつたとしても、当該農地だけの一部遺産分割協議書が作成されなければならないことを説明すべき義務が存するものというべきである。

    ======================

    また、判決は、事実認定として、税理士は、納税猶予の説明をしなかった、と認定しました。

    では、損害賠償責任を認めたか、というと、結論は税理士勝訴です。

    説明義務があり、税理士は説明を怠ったにもかかわらず、です。

    理由は、以下のとおりです。

    ・遺産分割の協議は、税理士から相続税申告期限までに分割協議を成立させるよう再三にわたり述べられていたにも拘らずこれができなかつたほど難行していた。

    。不動産を本家側、分家側でどのように分配するかで難航しており、相続税の軽減の問題は二次的な問題であった。

    ・分家側の一部の者が原告に対し相当に感情的になつていた。

    ・仮に原告が分家側の相続人に対し、本件納税猶予の適用のため本件農地の一部分割を求めたとしても、申告期限内に右一部分割協議が成立し得たものと推認することは困難であった。

    ・したがって、税理士が説明したとしても、損害は回避できなかった。

    =======================

    つまり、「損害がない」ので、損害賠償責任もない、ということです。

    本件の教訓としては、申告期限までに一部分割すれば適用可能な場合は、そこまで説明しておく必要がある、ということです。

    また、他の選択肢を選択することがその時点で想定できないような場合でも一応説明はしておく、ということです。

    いずれも証拠化を忘れないようにしておきましょう。

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  • 裏付け資料の確認義務違反で税理士損害賠償

    2024年02月15日

    今回は、税理士が裏付け資料を確認せずに申告書を作成したことが注意義務違反であるとして損害賠償請求をされた裁判例をご紹介します。

    山形地方裁判所鶴岡支部平成19年4月27日判決です。

    (事案)

    ・原告は、クリーニング業を主たる業とする株式会社であり、グループ企業7社がありました。

    ・原告は、グループ会社の本部機能を担っており、そのために要する費用を、管理費としてグループ会社から徴収していました。

    ・管理費の徴収に当たっては、事前に、当該グループ会社と原告との間でロイヤリティー契約を締結することはせず、決算書作成の過程で、原告代表者が、税理士が作成した仕訳帳を見て、当該グループ会社の当期の利益額を確認し、その場で管理費額を決定し、出金伝票と支払用の小切手を切るという方法が取られていました。

    ・税務調査において、管理費及び特別管理費について説明を求められ、実費相当額であることの裏付け資料の提出を求められましたが、裏付け資料を提出することができませんでした。

    ・その結果、修正申告をしました。

    ・原告は、顧問の公認会計士及び税理士が適切な助言を怠ったことにより、損害が発生したとして、損害賠償請求をしたという事案です。

    【判決】

    (事実認定)

    税理士は、管理費の徴収にはロイヤリティー契約を締結することを提案したが、原告代表者から、「グループ会社の管理には経費がかかっており、自分が決めている管理費は、かかった経費相当額である。」旨説明され、それ以上契約締結を勧めることはしなかった。
    税理士は、原告代表者に対し、管理費として認められるのは、実費相当額のみであることも説明したが、原告代表者は、「原告内部には経営分析のための資料があり、それによれば、管理費として計上している額以上の実費がかかってる。」旨返答し、裏付け資料の有無を問われると、「資料はあるが、原告の色々な経費の中に紛れていて取り出すことは難しく手間がかかる。」旨返答して、丙税理士に対し裏付け資料を見せることは一度もなかった。

    税理士は、原告専務取締役の協力の下、総勘定元帳等からC社のための経費及びグループ会社の共通経費を拾い出す作業をしているところ、たとえ原告代表者が資料の提出を拒否したとしても、最終的には原告専務取締役の協力を得るなどして、資料の開示を受ければ、原告が計上した管理費及び特別管理費が実費相当額であったか否かを明らかにすることは可能であった。

    (あてはめ)

    被告は、原告の管理費及び特別管理費の計上について、それを裏付ける客観的資料がない限り、経費として控除の対象にならないことを認識していながら、資料による裏付けをすることなく、漫然と原告代表者が計上した額に基づき税務申告をし、そのために原告が修正申告をせざるを得なくなったと認めることができる。このことからすれば、被告には、本件各税務顧問契約における注意義務に違反した債務不履行があったといえる。

    原告代表者は、税務に関して専門知識を有する者ではないのであるから、税務の専門家である税理士としては、その説明が客観的根拠により裏付けられるか否か確認する必要はあった。

    管理費及び特別管理費については、極めて高額であり、これが税務署から否認された場合には、顧客である原告等8社に大きなリスクを負わせてしまう危険を孕んでいる。

    総勘定元帳等を丹念に調べれば、管理費及び特別管理費として認められるもの、認められないものの区別は可能であった。

    被告が何ら資料の徴求をせず、資料はあるという原告代表者の説明を漫然と信じ、その有無を現実に確認しなかったことは、本件各税務顧問契約における注意義務に違反した。

    ============================

    以上です。

    税理士は、強制的な調査権限がない以上、顧問先から資料提出を拒否されればそれ以上、資料の確認ができないことからすれば、少々厳しすぎる判断という印象があるかもしれません。

    しかし、管理費及び特別管理費が極めて高額であることからすれば、税務調査があった場合にはその根拠を問われることは容易に予測可能です。

    専務取締役の協力を得れば資料を確認することができたと認定していることからすれば、専務取締役に対して資料の提出を求めることはしておいた方が良かったと言えます。

    また、総勘定元帳を丹念に調べれば確認可能であったという点も善管注意義務違反の判断に影響を与えているものと考えられます。

    顧客に大きな税務リスクがある場合には、リスクの内容をよく説明した上で、その説明を証拠化しておくことが重要です。

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  • 税理士損害賠償と税額増加分

    2023年11月17日

    法人に対する税理士損害賠償において、税理士が支払った損害賠償金が法人の益金に算入される結果、法人税及び地方税が課税され、その納付を余儀なくされるから、その税額についても、損害であると主張されることがあります。

    この論点については、どのように考えれば良いのでしょうか。

    結論から言えば、法人税及び地方税は、損害に加算されるべきではありません。

    東京地裁令和2年2月20日判決があります。

    裁判所は、次のように判示しています。

    「原告は、被告から過大納付分及び税理士費用に関する損害賠償金を取得したとしても、当該賠償金が原告の益金に算入される結果、法人税及び地方税が課税され、その納付を余儀なくされるから、その税額についても、損害であると主張する。」

    「しかし、当該賠償金に法人税及び地方税が課税されて納付すべき税額が発生するのは、損害を填補する損害賠償金が確実に発生したことを益金として扱うこととした租税制度の結果にすぎず、その発生した税額は、填補されるべき原告の損害とは性質を異にする純然たる租税債務として観念すべきであり、本件債務不履行と相当因果関係のある損害ではない。」

    したがって、関与先から上記のような主張があった場合には、当該判決を示し、税額の増加分を加算しない実損害額を前提に、交渉することとなります。

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  • 税理士法人は株式取得をすることができるか。

    2023年09月29日

    今回は、【税理士を守る会】での質疑応答をご紹介します。

    (質問)

    税理士法人で出資をして株式会社を設立し、不動産事業を営むことを検討しています。

    税理士法など、法律に違反することがあるでしょうか。

    (回答)

    税理士法48条の5は、「税理士法人は、税理士業務を行うほか、定款で定めるところにより、第二条第二項の業務その他の業務で税理士が行うことができるものとして財務省令で定める業務の全部又は一部を行うことができる。」と規定しており、この規定に反するかどうかが問題となります。

    この点、株式の取得自体については、・・・・・

    【税理士を守る会】の会員は、全文を読むことができます。

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  • 税理士の契約書の責任限定条項の適用を排斥した判決

    2023年09月15日

    先日、You Tubeでも解説しましたが、税理士の契約書の責任限定条項の適用を排斥した判決が出ました。

    福岡地裁令和5年6月21日判決です。

    重要判決ですから、メルマガでも簡単にご紹介します。

    責任限定条項というのは、本件でいえば、「乙の過失が原因で生じた場合の損害賠償は、乙が受けた利益を限度とする」というような条項のことです。

    つまり、税理士が損害賠償責任を負う賠償額の上限を定める条項のことです。

    この条項について、「契約書に明記してあるにかかわらず」裁判所が、「本件賠償額制限条項は、被告に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと解するのが相当である。」として、税理士に故意又は重大な過失がある場合には適用しない、と排斥してしまったわけです。

    そして、税理士が、消費税の本則課税事業者と簡易課税事業者のいずれである方が有利であるかを検討し、有利な届出をすることを約束したにもかかわらず、これを怠ったことについて、「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態で行われたものといわざるを得ない」として重過失を認め、一部損害賠償を命じた、というものです。

    新しい判決ですが、もうTAINSにアップされていますので、興味がある方は、読んでみてください。

    責任限定条項について、他の業界についての裁判例から考えて、税理士業界にも、この判断基準が採用されることは、以前より予想しており、私の『税務のわかる弁護士が教える税理士損害賠償請求の防ぎ方』
    (ぎょうせい)
    https://www.amazon.co.jp/dp/4324104786/

    でも警鐘を鳴らしていましたし、税理士会の研修でも言及してきたところです。

    【税理士を守る会】で提供している契約書では、この判断基準を念頭においた責任限定条項にしているので、会員の先生は、責任限定条項を確認してみていただければと思います。

    裁判所には「公序良俗」という伝家の宝刀があるので、完全ではありませんが、「重過失」でも適用の可能性がアップする条項にしています。

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  • インボイス税賠リスク1

    2023年06月08日

    【インボイスリスクその1】

    税理士は、善管注意義務に基づき、依頼者に対して関連税法及び実務に関して、有益な情報および不利益な情報を提供し、依頼者が適切に判断できるように説明及び助言をしなければなりません。

    これを税理士の説明助言義務と言います。

    過去の税賠裁判例では、この説明助言義務違反で争われる事例が多いです。

    この説明助言義務については、説明助言を間違った場合はもちろんですが、それ以外にも税理士が

    (1)説明助言義務を負うか、

    (2)説明助言義務を負うとして、説明助言したかどうか、

    で争われることになります。

    過去の裁判例では、(2)に関し、税理士が「説明助言した」と主張するものも多いです。

    しかし、それで税理士が敗訴している、ということは、裁判実務においては、税理士の側で「説明助言した」と証明できない場合には、説明助言の事実が否定される傾向にあるということです。

    したがって、税理士が無用の損害賠償請求を防止するためには、説明助言したことを証拠化して残しておくことが重要ということになります。

    そこで、まず想定されるのは、適格請求書発行事業者の登録をしたほうが有利であるにもかかわらず、税理士がその旨助言しなかったために、登録をすることができず、損害を被った、として損害賠償請求をされる場合などが想定されます。

    これは、これまでの事例で、たとえば、消費税簡易課税制度選択届出をした方が有利であるにもかかわらず税理士が助言しなかったとして損害賠償請求されるのと同類型です。

    これらの点についてトラブルにならないようにするためには、次の方法があります。

    (ア)有利不利の説明をし、説明を証拠化しておく。

    (イ)契約書において、適格請求書発行事業者の登録をするかどうかの判断は依頼者が行うことを明記する。

    【税理士を守る会】では、すでにインボイス制度に対応した税理士の顧問契約書等の雛形を提供しているますので、上記(イ)を明記した契約書をご利用することができます。

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  • 議事録がなく決議の存在を否認された事例

    2022年04月15日

    今回は、取締役会議事録及び株主総会議事録がないことから、退職慰労金支給決議がないとして、損金算入が否認された事例をご紹介します。

    東京地裁平成27年2月26日判決(TAINS Z265-12613)です。

    (事案)

    ・平成19年8月4日株主総会決議、同月10日取締役会決議(原告の主張、国側は否認)

    ・平成19年8月31日、退職慰労金の一部として、7500万円支払

    ・平成20年8月29日、退職慰労金の一部として、1億2500万円

    ・平成22年4月13日、税務調査開始

    ・平成22年6月3日、取締役会を開催し、本件退職慰労金の額を2億5000万円から2億2000万円に減額する旨の決議をした。

    ・平成24年8月7日付けの株主総会議事録及び取締役会議事録(税務調査の後に作成)

    会社法361条により、退職慰労金の支給は、定款の定めがない場合には、株主総会決議によって定めなければならない、とされています。

    税務署は、この規定を根拠に否認した、ということになります。

    (争点)

    取締役会決議及び株主総会決議があったか。

    議事録は作成されておらず、役員の手帳に、「5:00 家族 食事会」というメモがある程度でした。

    課税庁は、議事録が作成されていないことが、取締役会決議及び株主総会決議がないことを強く推認させるものであると主張しました。

    (判決)

    裁判所は、会社として、退職慰労金を支給する意志決定をしたものと認め、納税者勝訴判決を出しました。

    理由としては、

    ・原告は、本件計算書を平成19年8月10日に作成しており、本件計算書には、本件退職慰労金規程に沿った算定式、原告が本件役員に対して総額2億5000万円の退職慰労金を支給すること、本件退職慰労金を分割支給すること(7500万円を平成19年8月末日に支払い、残額を3年以内に支給すること)等が明記されている

    ・原告は、本件各金員を支給した際、L市役所に各分納報告書面を提出して、総額2億5000万円の退職慰労金を支給することを前提に総額を算定した上で、現実の支給額に応じて案分計算した住民税及び所得税を納付(源泉徴収)している

    ということでした。

    ======================

    この裁判例からわかるように、会社法の規定によって、取締役会決議や株主総会決議が要件となっている場合、その議事録がない場合には、決議自体が存在しないものと認定される可能性があります。

    最終的に、裁判で勝つかどうかは別として、少なくとも、法律の規定に則って議事録を作成し、会社に保存しておくことが望まれます。

    そのために、税理士はその旨適時適切に助言することが大切です。

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  • 【税理士向け】非税理士への業務委託

    2022年03月03日

    今回は、「税理士を守る会」での質疑応答をご紹介します。

    (質問)

    非税理士である個人に、記帳代行部分をお願いしたいと考えています。

    業務委託と雇用とがあると承知しておりますが、業務委託にしたいと考えています。

    この場合、税理士法など、注意すべき点があれば、教えてください。

    (回答)

    (1)非税理士による税理士業務

    税理士法に規定する税理士業務を行わせてはならない、ということです。

    雇用とする場合は、税理士の管理監督下で業務を行わせますので、税理士業務の補助をさせることができますが、業務委託の場合は、独立した第三者ですので、厳密に区分することが必要となります。

    (2)守秘義務

    当該税理士資格のない個人は契約上、第三者となりますので、顧客から守秘義務を解除してもらう必要があります。

    (「税理士を守る会」にセットしてある顧問契約書では、再委託の場合の守秘義務解除条項があります)

    (3)再委託の許可

    民法により、再委託には、顧客の承諾が必要です。上記(2)と同様、契約書等で承諾を得ることになります。

    ④税理士損害賠償

    当該個人にミスがあり、顧客が損害を被った場合、顧客との契約上は税理士が受託した業務を外注に出しているため、税理士が債務不履行として、損害賠償請求に発展する可能性があります。

    ただ、この点は、雇用とした場合も同様ですので、どちらの場合もリスクは変わりません。

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