飲酒ひき逃げで弁護士を逮捕? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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飲酒ひき逃げで弁護士を逮捕?

2010年07月18日

東京弁護士会所属の弁護士(30歳)が逮捕されました。

容疑は、自動車運転過失致傷罪と、道路交通法違反です。

弁護士は、飲酒した上で自動車を運転し、タクシーと衝突して怪我を負わせたにもかかわらず、「弁護士資格を失うのが怖くなった」という理由で、その場から逃げたとのことです。

事故の約5時間後、知人の検事に付き添われて神奈川県内の警察署に出頭し、逮捕されたそうです。

逃げなければ、逮捕されることもなかったでしょう。

このブログで繰り返し書いていますが、飲酒運転はいけません。飲酒をすると、注意力・集中力・反射神経などがにぶります。事故の可能性が飛躍的に増大します。

交通事故は、見ず知らずの人間の人生を狂わせます。そんな権利は誰にもありません。同時に自分の人生も狂わせてしまいます。この弁護士は、自分の人生を狂わせてしまいました。

資格を取るのに、本当に苦労したことでしょうに。

弁護士法7条は、弁護士の欠格事由を定めています。その中に、「禁錮以上の刑に処せられた」場合が規定されています。

したがって、今回、この弁護士が禁錮あるいは懲役刑に処せられると、弁護士資格を失うこととなります。

では、刑罰について、見てみましょう。

道路交通法は、交通事故があったときの自動車の運転者や乗務員の義務として、次のような義務を課しています。

道路交通法第72条
「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。
この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」

つまり、
①ただちに車両等の運転を停止
②負傷者を救護
③道路における危険を防止
などの措置を講じる義務があります。

さらに運転者は、警察に連絡し、報告をする義務があります。

この道路交通法第72条の義務に違反すると、次のような罰則があります。

道路交通法第117条1項
「車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
 
2項
前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」

つまり、通常の義務違反の場合は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金だけれども、人身事故の運転者が義務違反をした場合には10年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

さらに、交通事故で人を死傷した場合は、通常「自動車運転過失致死傷罪」も成立します。これは、次のような条文です。

刑法第211条2項
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金の処する。」

つまり、自動車によるひき逃げ(轢き逃げ)の場合には、この自動車運転過失致死傷罪と道路交通法の救護義務違反の2つの罪が成立するのです。

この両者の関係はどうなるでしょうか。

この場合は、「併合罪」となります。併合罪になると、2つの罪のうち最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします(刑法第47条)。

したがって、この場合、最も重い罪はひき逃げ(轢き逃げ)の10年懲役ですので、これにその2分の1(5年)を加えた懲役15年以下の懲役となります。

今回は、更に飲酒運転の罪も加わる可能性があります。

本当に、気をつけて欲しいと思います。