危険運転致死傷罪とは | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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危険運転致死傷罪とは

2009年04月06日

危険運転致死傷罪について解説します。

危険運転致死傷罪は、平成13年12月25日に施行されたものです。条文は、以下のとおり

刑法第208条の2
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

自動車の運転によって人を死傷した場合の処罰については、自動車運転過失致死傷罪があります(刑法第211条2項)。この場合の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

危険運転致死傷罪は、傷害の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役ですから、自動車運転過失致死傷罪の法廷刑よりも格段に重い処罰となっています。

その理由は、危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者が過失ではなく、故意に危険運転行為を行ったことにあります。つまり、通常の自動車運転過失致死傷罪は、脇見運転や一時停止義務違反など、過失犯です。

ところが、危険運転致死傷罪では、次のような、特に危険な運転行為を故意に行ったことが必要になるのです。

1)アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
2)進行を制御することが困難高速度で走行

3)進行を制御する技能を有しないで走行

4)人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

5)赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

また、危険運転致死傷罪は、2007年改正により、四輪自動車だけでなく、原付バイクや自動二輪車にも適用されます。

ニュースでよく問題となるのは、1)の飲酒による危険運転致死傷罪です。ここで問題となるのは、飲酒していただけでなく、飲酒により、「正常な運転が困難な状態で」運転したかどうか、という点です。

ここで、正常な運転が困難な状態とは、道路交通法の酒酔い運転とイコールではありません。現実に道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な状態であることが必要であり、前方の注視が困難になったり、アクセル・ブレーキ・ハンドル等の操作が意図したとおりに行うことが困難にある場合を意味します。

「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らない、目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定されます。

< P>正常な運転が困難であったことについては、検察側が立証しなければなりません。そこで、飲酒運転により人身事故を起こしてしまった運転者は、飲酒の発覚をおそれ、逃走(ひき逃げ)をしてしまうケースが出てまいりました。そして、後刻、あるいは後日逮捕されたとしても、すでにアルコールが抜けており、アルコールの影響により、「事故当時」正常な運転が困難であったことの立証が困難となってしまうのです。

立証ができなければ、自動車運転過失致死傷罪で立件せざるを得ません。

ここに「逃げ得感」が生ずることとなり、問題となっています。

< P>なお、被害者が死亡することにより、危険運転致死罪が成立し、かつ運転者が被害者を救護せずにひき逃げをした場合には、道路交通法上の救護義務違反が成立し(道路交通法第117条2項、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金)、この2つの罪は併合罪となるので、最高30年以下の懲役に処せられることとなります。

このゴールデンウイークで、各地で大渋滞が起こっていましたが、くれぐれも飲酒運転にはお気をつけください。