転職のために会社の営業秘密を持ち出し、逮捕 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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転職のために会社の営業秘密を持ち出し、逮捕

2019年03月21日

元社員による社外秘データの持ち出し事件が相次いでいるようです。

「転職でシューズデータ持ち出し疑い、アシックス元社員逮捕」(2019年3月13日 産経新聞)

兵庫県警生活経済課は、社外秘のシューズデータを退職前に不正に持ち出したとして、スポーツ用品大手「アシックス」(神戸市中央区)の元社員の男(31)を不正競争防止法違反(営業秘密領得)の疑いで逮捕した。

2018(平成30)年3月から5月にかけて、容疑者の男は会社から与えられたIDとパスワードで社内のサーバーにアクセスし、営業秘密にあたるシューズの品質や性能に関するデータファイル約3万6000件を、私用のメールアドレス宛てに送信し、不正に持ち出した疑い。

男は、約4年間にわたりシューズのデータ作成や性能分析などを担当していたが、同年5月末頃に同社を退職し、6月には別のスポーツ用品メーカーに再就職していた。

「退職に際して自分の役に立つと思った」と容疑を認めているということで、兵庫県警は容疑者が不正に得たデータを再就職先に持ち込んだ疑いについても調べるという。

「社外秘の実験データ持ち出し疑い 臨床検査機器メーカーの元社員を書類送検 京都府警」(2019年3月8日 毎日新聞)

京都府警上京署は、臨床検査機器・試薬メーカー「アークレイ」(京都市上京区)から遺伝子検査装置のデータなど社外秘の情報を不正に持ち出したとして、元社員の男(38)を書類送検した。
容疑は、不正競争防止法違反(営業秘密領得)。

事件が起きたのは、2018(平成30)年5月18日。
容疑者の男は、同社のサーバーから16件の遺伝子検査装置の実験データをUSBメモリーを介して私有パソコンに複製。
さらに、同年6月6日にも社有パソコンから1件の会員リストを自分宛てに電子メールで送り、不正に持ち出した。

調べによると、これまで男は同社サーバーから2万件以上の情報を私有パソコンに複製しており、中には京都大医学部付属病院から提供を受けた遺伝子検査データも含まれていたという。

退職願提出後、社内調査でサーバーへのアクセスが発覚し、懲戒解雇。
同社は同年11月に刑事告訴していた。

男は、「(転職する)今後の参考のため持ち出した」と容疑を認めているという。

【不正競争防止法とは?】
「不正競争防止法」は、1993(平成5)年に旧不正競争防止法が全部改正されて成立したものです。

その目的は次のように規定されています。

「不正競争防止法」
第1条(目的)
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

不正行為にはさまざまなものあり、第2条では次のようなものが定義されています。

「周知表示混同惹起行為」(第1号)
既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業するなどの行為。

「著名表示冒用行為」(第2号)
ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営するなどの行為。

「商品形態摸倣行為」(第3号)
ヒット商品に似せた商品を製造販売するなどの行為。

「技術的制限手段に対する不正競争行為」(第11・12号)
CDやDVD、音楽・映像配信などデジタルコンテンツのコピープロテクトを解除したり、アクセス管理技術を無効にする機器やソフトウェア、プログラムなどを提供するなどの行為。

「原産地等誤認惹起行為」(第14号)
原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にするなどの行為。

「競争者営業誹謗行為」(第15号)
ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗するなどの行為。

「代理人等商標無断使用行為」(第16号)
外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用するなどの行為。

【営業秘密に関する不正行為とは?】
今回の事件のような営業秘密に関する不正行為は、第2条の第4号~第10号に規定されています。

・企業が秘密として管理している製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアルなどを窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得する行為、また取得した営業秘密を自ら使用したり、開示する行為。(第4号)

・不正に取得した情報を第三者が取得、使用、開示する行為。(不正に取得された情報だということを知っていた場合は第5号、あとから知った場合は第6号)

・営業秘密の保有者から正当に取得した情報でも、それを不正の利益を得る目的や、損害を与える目的で自ら使用または開示する行為(第7号)

・第7号で取得された情報を第三者が使用、開示する行為。(不正に開示された情報だということを知っていた場合は第8号、あとから知った場合は第9号)

・第4号~9号に掲げる行為により生じた物を譲渡し、引き出し、また譲渡や引き渡しのために展示し、輸出・輸入し、電気通信回線を通じて提供する行為。(第10号)

なお、領得とは自分や第三者のものとする目的で他人の財物を不法に取得するという意味なので、今回の事件は第4号の違反に該当することになります。

【不正競争防止法の罰則は?】
近年、企業の営業秘密が不正に持ち出され、海外の競合会社に流出するという事件が相次いだため、2016(平成28)年から不正競争防止法の罰則が強化されています。

個人の場合は、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはこれを併科されます。
なお、海外企業への秘密漏洩の場合の罰金は3000万円以下となっています。(第21条)
また、法人の場合はさらに厳しく、罰金刑は5億円以下、海外への流出では10億円以下となっていますから、かなり重い罰則が科せられることになります。

企業側にも危機管理と自己防衛の意識が必要だと思います。