肝試しもほどほどに。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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肝試しもほどほどに。

2017年07月29日

夏です。

今日も全国のどこかで「肝試し」が行なわれているでしょう。

しかし、ちょっと待ってください!
肝試しが犯罪になる可能性があります。

「廃旅館で肝試し、高校生9人を書類送検へ 春日井署」(2017年7月27日 中日新聞)

愛知県警春日井署は、春日井市内の廃虚となった旅館に「肝試し」の目的で立ち入ったとして、県内の男子高校生9人を軽犯罪法違反(立ち入り禁止場所への侵入)の疑いで書類送検する方針を固めました。

事件が起きたのは、今年(2017年)6月23日夜。

高校生たちは、肝試しの場所をインターネットで調べ、電車で行けそうなところを探し、懐中電灯持参で敷地と建物内に入ったということです。

この旅館は1928年創業で、川沿いの風光明媚な立地や、名物の日本料理などで人気を集めていたものの、バブル期以降に客足が鈍り、2003年に破産。
破産管財人と連絡が取れなくなり、窓ガラスが割れるなど廃虚状態になっていました。

春日井市は高さ3メートルのバリケードや、防犯カメラ6台を設置するなど侵入防止策を講じていましたが、2012年には白骨遺体が見つかり、インターネットで「心霊スポット」として紹介されたことから侵入者が後を絶たない状態になっていたようです。

同署によると、過去1年に近隣住民からの通報が10回以上あり、夏場には不審火も多発していることから、警戒を強めていたということです。

 

【軽犯罪法とは?】
軽犯罪法は、人がちょっとしたはずみで犯してしまうような軽微な秩序違反行為について定めている法律で、1948(昭和23)年に制定されました。

悪質な重大犯罪を未然に防ぐ目的もあり、全部で33の違反行為が罪として定められています。

今回の事件に該当するのは次の条文です。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
32 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者

 

拘留:受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰
科料:1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰です。

 

【立ち入り禁止場所とは?】
この32号は、条文にあるように「入ることを禁じた場所」と「他人の田畑」への立ち入りを禁止しています。

入ることを禁じた場所とは、占有者や管理者が立ち入り禁止を外部に表明した場所のことです。
表明の方法は、立札や貼り紙、縄(ロープ)を張る、柵などで囲うことでもいいですし、口頭でも成立します。

今回の事件では、春日井市がこれまで無断侵入の防止策を講じており、「立ち入り禁止」の看板も設置していたということなので、廃墟となった旅館は「入ることを禁じた場所」に該当します。

なお、「他人の田畑」には違和感を感じる人もいるかもしれませんが、これは軽犯罪法が成立した時代背景が関係しています。
戦後の治安が不安定で食糧難の時代にあっては、農作物の盗難や耕作地の損壊などを防止するために、他人の田畑への侵入を禁止する必要があったということです。

 

【他の法律との関係は?】
立ち入りを禁止した場所といっても、その定義の違いによっては、同じく軽犯罪法の第1号(潜伏の罪)や、刑法の住居侵入罪に問われる可能性があります。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
1 人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者

 

「刑法」
第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 

邸宅というと豪邸のような家をイメージするかもしれませんが、ここでは住居として使用されていない空き家や、閉鎖された別荘、廃家などをいいます。

建造物とは住宅以外の建物のことで、たとえば官公庁や学校、事務所、倉庫などが該当します。

つまり、人が住んでいなくても看守(管理)されている邸宅や建造物に正当な理由なく侵入すれば住居侵入罪、侵入した邸宅や建造物が管理されていない場合は軽犯罪法第1号が適用される可能性があるということになります。

さて、この高校生達、「肝試し」をしたわけですが、突然警察官が現れた時には、さぞかし「肝を冷やした」ことでしょう。

今回のように、肝を試すだけでは済まないこともありますので、くれぐれも気をつけるようにしましょう。

合唱。。