北海道砂川市暴走事故で危険運転致死傷罪の共謀は成立するか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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北海道砂川市暴走事故で危険運転致死傷罪の共謀は成立するか?

2016年10月19日

今回は、昨年起きた、一家5人が死傷した交通事故で「危険運転致死傷罪の共謀」が成立するかどうかについて解説します。

「危険運転 5人死傷“共謀”焦点 札幌地裁、2被告初公判」(2016年10月17日 毎日新聞)
2015年6月、北海道砂川市で、共謀して車2台で暴走し、家族4人を死亡させ1人に重傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷罪)などの罪に問われた2人の被告の初公判がありました。

両被告は速度を競い合って赤信号を無視しようと共謀したとして、全国でも例の少ない危険運転の共謀で起訴されていましたが、一部を否認しているようです。
どのような事故だったのか、以下にまとめます。

【事故の概要】
・2015年6月6日午後10時35分頃、北海道砂川市の国道12号の交差点付近で、乗用車と軽ワゴン車の出会い頭の衝突事故が発生。

・計7人が病院に搬送されたが、軽ワゴンを運転していた男性(当時44歳)と妻(同44歳)、長女(同17歳)が死亡。次女(同13歳)が重体。乗用車に乗っていた3人もケガをした。また、現場から800メートル離れた路上で、家族の長男(同16歳)が死亡しているのが発見された。

今回の初公判でのやり取りは次の通りです。

【起訴の内容】
両被告は赤信号を無視し、100キロ超の猛スピードで互いに競い合って交差点に進入。
酒気帯び運転の被告AのRV(レジャー用多目的車)が一家の軽ワゴンに衝突し、車外に投げ出された長男を被告Bの後続車が引きずって逃走し、死亡させた。

【弁護側の主張】
被告Aの弁護側は、酒気帯び運転は認める一方、「被告は落としたサングラスを捜して、赤信号を見落とした。事故前に被告Bに追い抜かれることも気にしておらず、危険運転は成立しない」などと主張。
また、被告Bの弁護側は、「共謀が成立しない以上、被告Bには被告Aが起こした事故に対する救護義務はない。人をひいた認識もなく、車外に長男が飛び出してくるとは想像もできない中、起きた事故で、過失責任も問えない」と無罪を主張した。
次に、危険運転致死傷罪について解説します。

「自動車運転死傷行為処罰法」は、危険運転への罰則を強化するために2014年5月20日に施行された法律です。

この中でもっとも重い罪が危険運転致死傷罪で、以下の6つの行為を「故意」に行うことで成立します。
最高刑は懲役20年です。

①アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
②進行を制御することが困難な高速度で走行
③進行を制御する技能を有しないで走行
④又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑤赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑥通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

詳しい解説はこちら⇒「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
https://taniharamakoto.com/archives/1236

今回のケースを見ると、上の6つの犯罪類型のうち、

①飲酒
②高速度の進行
⑤赤信号無視

の3つに当てはまりそうな感じです。

しかし、報道の内容からは、⑤の赤信号無視で起訴されたようです。
では、他の2つはどうなったのでしょうか?

1.飲酒運転については?
飲酒運転による危険運転致死傷罪が成立するには、「アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行」をしたことが必要になります。
当初、北海道警は、両被告が事故前に飲酒したとみて捜査したようですが、地検は被告Aのみを道路交通法違反の酒気帯び運転で起訴し、被告Bの立件は見送っています。
これは、立件するには単純に飲酒の量が足りなかったのだと思われます。

2.速度超過については?
速度超過による危険運転致死傷罪が成立するには、「進行を制御することが困難な高速度で走行」したことが必要になります。
今回の事故現場は、道路の幅員が十分にあり、見通しのよい道路であることから、自動車の制御が困難な高速度とはいえないとして不適用となる可能性が高いと思われます。

3.赤信号の無視については?
前述のように、危険運転致死傷罪が成立する条件のひとつには「赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」することがあります。
今回、検察側としては、飲酒運転と速度超過での起訴が難しかったことと、それでも両被告に危険運転致死傷罪を適用させるために、最終的には2人が共謀して赤信号をことさらに無視して危険運転をしたとして起訴したのだと思います。

さて、危険運転致死傷罪に共謀共同正犯が成立するのか?

裁判の行方を見守りたいと思います。

交通事故の弁護士相談についてはこちらから⇒
「交通事故を弁護士に相談すべき7つの理由と2つの注意点」
http://www.jikosos.net/basic/basic6/bengoshi