朝型勤務でも残業代は発生するのか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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朝型勤務でも残業代は発生するのか?

2016年05月02日

今回は、朝型勤務と残業代について解説します。

長時間労働の改善、仕事の効率アップ、仕事以外の時間と生活の充実などを実現するために、朝型勤務を導入・実施する企業や個人が増えているようです。

昨年(2015年)、厚生労働大臣は「夏の生活スタイル変革」との要望書を経団連に提出し、経済界が朝型勤務の導入を図るよう要請しました。
そこで、7月1日には国家公務員22万人を対象に夏の朝型勤務「ゆう活」がスタートし、8月末までの実施で、勤務時間を1~2時間前倒しすることで、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の実現を目指す取り組みが行われました。

こうした取り組みには賛否両論あるようですが、今年も実施の方向で動いているようです。

「“ゆう活”16年も導入 総活躍相、朝型勤務進める」(2016年4月18日 日本経済新聞)

加藤勝信・一億総活躍相は、朝型勤務を進める東京都内の伊藤忠商事を視察した際、国家公務員の勤務時間を朝型にシフトする「ゆう活」を2016年も導入する考えを記者団に示しました。

今春から中央省庁で始めた、始業・退勤時間を自由に選べる「フレックスタイム制」との組み合わせも検討しながら、開始時期などは今後詰めるとしています。

なお、昨年の取り組みについて総活躍相は、「ゆう活は残業時間の縮減に成果があった」と語ったということです。
実際、大手商社の伊藤忠商事は2014年5月から朝型勤務を導入しています。
2016年3月期の純利益が3300億円超との予想もあり、長年トップの座にある三菱商事を追い抜いて商社で初のトップが確実とされているのには、朝型勤務の好影響があるのではないかともいわれているようです。

データを見ていくと、朝型勤務導入前に比べ、早朝勤務を含む残業時間は10%減、支給する残業代は7%減、朝食支給などを含むトータルの残業代は4%減で、東京本社の電気代も6%の節約になっているといいます。

また、純利益は導入前の2450億円(2014年3月期)から今期予想の3300億円へ850億円も増加しています。

朝型勤務は、会社にとっても社員にとってもいいことばかりのように思えます。
しかし、じつは思わぬ問題が潜んでいる可能性があります。

それは、労働トラブルの火種です。
【未払い残業代に関する労働トラブルが急増!?】
厚生労働省の公表している統計資料「平成26年度過重労働解消キャンペーンにおける重点監督実施状況」によると、以下のような結果が出ています。

・違法な時間外労働があったもの:2304事業所(50.5%)
・そのうち、時間外労働の実績がもっとも長い労働者の時間数が、
月100時間を超えるもの/715事業場(31.0%)
・月150時間を超えるもの:153事業所(6.6%)
・月200時間を超えるもの:35事業所(1.5%)
・賃金不払残業があったもの:955事業所(20.9%)

違法な時間外労働があった会社は半数以上、残業代の未払いがあった会社は5社に1社もあるということです。

では、これらの行為はなぜ問題になるのでしょうか。
そもそも残業とはどういうものをいうのでしょうか。
【残業と割増賃金について】
会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めたものに「労働基準法」があります。
この法律は、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。

内容を詳しく見ていきます。

「法定労働時間」
会社が、従業員を働かせることができる労働時間を「法定労働時間」といいます。
原則として、1週間で40時間、かつ1日8時間までとなっています。
(労働基準法第32条)

「割増賃金」
法定労働時間外の勤務をさせたとき、会社は従業員に「割増賃金」を支払わなければいけません(同法第37条)
割増賃金は、「時間外労働(残業)」、「休日労働」、「深夜労働」などによって発生します。
なお、時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

「法定休日」
原則として、会社は従業員に対し1週間に少なくとも1日は休日を与えなければなりません。
これを「法定休日」といいます。
会社が法定休日に従業員を働かせた場合、「休日労働」として割増賃金を支払わなければいけません。
同様に、会社が午後10時から午前5時までの間に従業員を働かせた場合、「深夜労働」として割増賃金を支払わなければいけません。

「36協定」
会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結し、かつ行政官庁にこれを届けることにより、その協定の定めに従い労働者に時間外休日労働をさせることができます。
これは、労働基準法第36条に定められているため、「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれます。
36協定の届け出をしないで時間外労働をさせた場合も、労働基準法違反として、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されるので注意が必要です。
【残業代の算出方法】
「割増賃金(残業代)の割増率」
会社が従業員に支払わなければならない割増賃金(残業代)の割増率は、以下のように規定されています。
ここを間違うと、当然に法律違反となります。

①1ヵ月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率(125%)

②1ヵ月の合計が60時間を超えて行われた場合の時間外労働については5割以上の率(150%)(例外あり)

③休日労働については3割5分以上の率(135%)

④深夜労働については、それぞれ2割5分以上の率

 

【割増率一覧】

 

④深夜労働

時間内労働

100%

125%

①時間外労働(1か月60時間以内分)

125%

150%

②時間外労働(1か月60時間超分)

150%

175%

③休日労働

135%

160%

 

「残業代の計算式」
残業代は次の計算式によって求められます。

「残業代」=「基礎賃金」×「割増率」×「残業時間数」
※基礎賃金は通常の労働時間又は労働日の賃金
【朝型勤務にも残業代は発生するのか?】
ところで、ここで疑問が湧きます。
朝型勤務の時間は、法定時間外労働にならないのでしょうか。

仮に、9時始業、18時終業(休憩時間1時間)の会社があり、Aさんは7時に出勤して仕事をしているとします。
7時から9時までの2時間に残業代は発生しないのでしょうか。

朝型勤務が業務命令で、しかも就業規則にも明示されている会社であれば、多くの場合、始業時間が2時間早い7時になれば、就業時間も2時間短縮されて16時になるでしょう。
そうであれば、朝の2時間には残業代は発生しません。
効率よく仕事をすることで、夕方からの時間を自由に使うことができます。

しかし、朝型勤務の導入が業務命令ではなく就業規則にも定められていない会社では、従業員の自由意思ということで朝の残業代を支払っていないというのがほとんどなのではないでしょうか。
労働基準法に照らせば、当然、会社は従業員に対して残業代を支払わなければいけないにもかかわらずです。

また、朝型勤務に切り替えたとしても、就業時間内に仕事が終わらなければ従業員は残業せざるを得なくなり、結局は残業が増えることになってしまいます。

前述の伊藤忠商事では、20:00~22:00の残業を原則禁止、22:00以降は禁止としています。
その代わりに、朝の5:00~8:00の賃金には深夜残業並みの50%増、8:00~9:00は25%増となり、6:30~8:00までは無料で軽食を食べることができるそうです。

ただし、朝型勤務が制度化されていない現状では、業界や会社によって対応がまちまちであるため、個別に見ながら対応していかないといけなくなります。
【どのような場合に朝型勤務の残業代が認められるのか?】
次に、朝型勤務での残業代が認められるかどうか、ケースごとに見ていきます。

「朝型勤務が業務命令の場合」
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間のことをいいます。
そのため、会社や上司の命令で朝型勤務をするのであれば、上記のように時間外手当が発生する場合があります。

「掃除・着替え・点呼・準備などのための朝出勤」
業務内容によっては、業務の準備、後片付け、事業所の掃除、休憩時間中の電話番や店番などがある会社もあるでしょう。
これらの作業が、使用者の指揮命令下にある時間と評価される場合は、労働時間にあたると考えられます。
なぜなら、使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含むからです。

「朝の研修や勉強会への出席」
会社の研修や勉強会への出席が義務づけられている、または強制参加の場合、あるいは出席しないことで賃下げ・配転などの不利益がある場合は労働時間にあたると考えられます。

「社長や上司に合わせて朝型勤務をする場合」
社長や上司の出勤が朝早いため、自分も早朝出勤しなければいけない状況の場合はどうでしょうか。
命令がある場合や、社長や上司だけでは仕事ができないために自分も出社する必要がある場合などは労働時間にあたると考えられます。
しかし、社長や上司に気を使って朝早く出社しているような場合では、労働時間とは認められないケースもあるでしょう。

「自己都合での早朝出勤」
ラッシュアワーを避けるために朝型勤務をしている人もいると思いますが、この場合、使用者の指揮命令下ではなく、かつ通勤時間は労働時間ではないため時間外手当は発生しません。
以上、朝型勤務と残業代について解説しました。

法律に違反した場合、会社側には刑罰が科せられ、民事では未払い残業代にプラスして同額の「付加金」を従業員側に支払わなければならなくなる可能性があります。

一方、働き過ぎといわれる日本のビジネスパーソンですが、上記のように法律上は残業代を手にすることは労働者の権利ですから会社に遠慮することはないのです。

今年もGWに突入しています。
せっかくの長い休養時間ですから、法律知識を学び、これからの自身の働き方について見つめ直してみるのもいいかもしれませんね。
未払い残業代に関する相談はこちらから⇒
http://roudou-sos.jp/(経営者の方)
http://roudou-sos.jp/zangyou2/(労働者の方)