警察官をかたると、犯罪が成立する可能性があります。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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警察官をかたると、犯罪が成立する可能性があります。

2016年02月17日

突然警察から電話がかかってきて、自分が犯罪に関係している、と言われたらビックリしますね。

そして、捜査に必要だと言われ、下着のサイズや色などを聞かれたら?

つい答えてしまう人も多いでしょう。

今回は、そんな犯罪です。

「警察官かたり、下着“サイズは”“色は”…わいせつ電話相次ぐ 奈良・大阪で93件」(2016年2月16日 産経新聞)

奈良県と大阪府で、警察官をかたった不審な「わいせつ電話」がかかってくるという事件が相次いでいるようです。

奈良県警によると、不審なわいせつ電話の声は中年の男で、昼前から夕方にかけて個人宅に電話をかけてきて、女性が電話に出ると警察署の警官をかたり、「下着泥棒を捕まえたら、犯人がお宅の電話番号を書いたメモを持っていた」、「被害はありませんでしたか?」などと言い、女性から下着のサイズや色などを執拗に聞き出そうとするようです。

2015年6月から2016年2月12日までの間に奈良県警に寄せられた相談は93件にも上っており、同県警は軽犯罪法違反容疑で捜査を進めるとともに注意を呼びかけているということです。
今回の事件では犯人は特定されていないようですが容疑は軽犯罪法違反です。
報道内容からは正確なところはわかりませんが、15号に規定される「官名詐称」容疑だと思われます。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

15.官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者

軽犯罪法については以前にも解説しています。
詳しい解説はこちら⇒「ナンパは軽犯罪法違反!?」
https://taniharamakoto.com/archives/2191

軽犯罪法では、軽微な秩序違反行為として33の行為を罪として規定していますが、今回の事件、場合によっては上記以外の罪にも問われる可能性があります。

会社などに電話をして従業員の業務を妨害したり、個人宅でも自営業を営んでいる人の業務を妨害すれば、31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」に該当する可能性があります。

また、業務妨害の程度によっては「刑法」の「威力業務妨害罪」や「偽計業務妨害罪」に該当するかもしれません。

「刑法」
第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「偽計」とは人をあざむく計略のことで、実際、過去には「中華料理店に3ヵ月足らずの間に約970回にわたって無言電話をかけた」(東京高判昭48・8・7高集26-3-322)という判例もあります。

じつは日本には、迷惑電話そのものを直接規制する法律はありません。
しかし、迷惑電話を受けた相手が相当の迷惑を被った場合は、上記以外にもさまざまな法律で罰せられる可能性があります。

たとえば、迷惑電話には各都道府県で定められている「迷惑防止条例」です。
奈良県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では次のように規定されています。

第10条(電話等による嫌がらせ行為等の禁止)
何人も、正当な理由がないのに、電話その他の電気通信の手段、文書又は図画により、他人に対し、反復して、虚偽の事項、卑わいな事項等を告げ、粗野若しくは乱暴な言語を用いて、又は電話で何も告げず、著しく不安又は迷惑を覚えさせるような行為をしてはならない。

さらには、迷惑電話を受けた人が、うつ病などの神経疾患を発症した場合には傷害罪に問われるおそれもあります。

「刑法」
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

昔、探偵のドラマとかで、探偵が、黒い警察手帳のような手帳をサッと出して、「警察ですが、この男を知りませんか?」などと聞き込みをしているシーンを観たことがありますが、あれは、実は軽犯罪法違反だったのかもしれません。

また、コスプレで婦人警官の格好をして街を練り歩き、通行人に「逮捕しちゃうぞ」とか話しかける行為は、軽犯罪法違反なのかもしれません。

世の中、不用意な行為が思わぬ犯罪に該当してしまうことがあります。

気をつけましょう。