北海道の4人死亡事故に危険運転致死傷罪を適用できるか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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北海道の4人死亡事故に危険運転致死傷罪を適用できるか?

2015年06月12日

6月6日、北海道砂川市の国道12号で起きた交通事故で、運転していた会社員の男性とその家族、計4名が死亡しました。

捜査が進むにつれ、事故の全容が徐々にわかってきていますが、今回は、この衝突事故において「危険運転致死傷罪」の適用があるかどうか、について検討したいと思います。

「北海道4人死亡事故:飲酒は複数の店か 100キロ超走行」(2015年6月11日 毎日新聞)

車2台が衝突するなどして一家4人が死亡した北海道砂川市で起きた事故で、死亡した長男(16)を車で引きずって逃げたとして、道交法違反(ひき逃げ)容疑で逮捕された男が、事故前、砂川市内の複数の飲食店で飲酒していたとみられることが関係者への取材でわかったようです。

また、事故現場近くの防犯カメラの映像を解析したところ、死亡した家族の乗った軽ワゴン車に衝突した乗用車と、ひき逃げをしたトラックが法定速度(時速60キロ)を上回る時速100~110キロで走行していたとみられることもわかったようです。

北海道警砂川署は、容疑者の男が飲酒運転とスピードオーバーをしていた可能性があるとみて、事故前の行動を含め捜査しているということです。
この事故について、まずは時系列で概要をまとめておきます。

・6月6日午後10時35分ころ、北海道砂川市の国道12号の交差点付近で、乗用車と軽ワゴン車の出会い頭の衝突事故が発生。
・7人が病院に搬送され、軽ワゴンを運転していた男性(44)と妻(44)、長女(17)が死亡。次女が重体。乗用車に乗っていた3人もケガをした。
・その後、現場から800メートル離れた路上で、長男(16)が死亡しているのが発見される。衝突事故で車外に投げ出された後、別の車に引きずられたとみて、ひき逃げの疑いで捜査が進められる。
・7日午前、ひき逃げをしたとして、男(26)が出頭。男は事故を起こした乗用車の後ろをピックアップトラックで走行していた。
・8日、道警砂川署は衝突現場に両方の自動車のブレーキ痕がないことから、どちらかが信号無視をした可能性があるとして捜査を続行。なお、乗用車は炎上、軽ワゴン車は現場から約60メートル飛ばされていた。
・現場付近の防犯カメラの映像から、乗用車と後続のトラックが猛スピードで走行していたことと、乗用車の進行方向側が赤信号だった可能性が判明。
・9日、ひき逃げをしたトラックが蛇行運転をしていた疑いが浮上。トラックに引っかかった被害者を振り落とそうとしていた可能性もあるとみて捜査を継続。なお、トラックの運転手と乗用車の運転手は幼なじみの友人であることが判明。
・出頭した男を、道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で逮捕。現場から立ち去った理由について、「任意の自動車保険に加入していなかった」と供述。
また、事故前に同乗者と居酒屋でビールを飲んだと話したことから、飲酒の検知を避けるために逃げた可能性もあるとみて、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)容疑等での立件も視野に捜査。
・11日、乗用車に乗っていた3人とトラックに乗っていた2人、計5人が事故当日の夜、居酒屋で飲食していたことが判明。また、砂川署は容疑者の男を札幌地検岩見沢支部に送検した。同署は、乗用車を運転していた男性(27)ら3人のケガの回復を待って事情を聴く方針。
では、現段階で判明していることから考えていきます。

1.「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」の違いとは?
2014年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」の中でもっとも重い罪が危険運転致死傷罪です。
これは、以下の6つの行為を「故意」に行うことで成立します。
①アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
②進行を制御することが困難高速度で走行
③進行を制御する技能を有しないで走行
④又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑤赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑥通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

最高刑は懲役20年です。

一方、過失運転致死傷罪は、前方不注視や後方確認義務違反などの「過失」によって自動車事故で人に怪我をさせたり死亡させたりした場合に成立します。
法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

詳しい解説はこちら⇒「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
https://taniharamakoto.com/archives/1236
2.容疑者に危険運転致死傷罪を適用することはできるか?
前述の通り、故意か過失かによって刑の重さは格段に違ってきます。
まずは、ひき逃げをした容疑者のケースから見ていきます。

今回の事故では、報道内容から危険運転致死傷罪の要件である、①飲酒運転、②スピードオーバーでの走行、⑤赤信号の無視、という可能性が指摘されています。
また、ひき逃げをしていることから、アルコールの発覚免脱罪の可能性もあります。

ところで、すでに容疑者は、道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で逮捕されていますが、「引きずっていることを知らなかった」と供述しているようです。
しかし、蛇行運転をしていることから、仮に引きずった認識がなく蛇行運転をしたならば、飲んでいた量が「ビールジョッキ一杯」ではなく、大量に飲酒していたために「正常な運転が困難だった」となっていた可能性も視野に入ってくるでしょう。

となると、危険運転致死傷罪と、ひき逃による道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪となる可能性があります。

また、飲酒の量が証明できず、危険運転致死傷罪に問うことができなくても、飲酒事故の発覚を免れるために逃げた、ということができれば、発覚免脱罪とひき逃げの併合罪で、最高刑18年の懲役、という可能性もあります。

仮に引きずっている認識があり、振り払うために蛇行運転していたなら、「未必の故意」による殺人罪の目も出てくることになります。

未必の故意とは、ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態をいいます。

つまり、今回の事故では、容疑者が被害者を引きずることで死亡するかもしれないことをわかっていながら、蛇行運転をして振り払おうとしたかどうかの判断、ということになります。
3.追突した乗用車の運転手の罪はどうなる?
では、4人が死亡した軽ワゴン車に衝突した乗用車の運転手の罪はどうなるでしょうか?

警察は、運転手ら3人の回復を待って事情聴取をするとしていますが、現段階でわかっているのは、飲酒運転、スピードオーバー、赤信号無視の可能性です。

赤信号による交差点進入が立証できれば、危険運転致死傷罪が成立する可能性が高いでしょう。

今回の事故現場は、約29キロの直線が続く「日本一長い直線道路」として知られ、とくに夜間はスピードを出す車が多く、これまでも度々、交通事故が起きていたようです。

道警交通企画課によると、北海道内で4人以上が亡くなった事故は1990年以降、約20件あり、その4割が直線の国道で起きているようです。

また、法定速度を30キロオーバーした場合の致死率は、そうでない場合と比較して63倍にもなるという分析結果があるとのことです。

現代において、自動車は日常生活に欠かせない便利なものですが、同時に人の命を奪う凶器にもなりうることを今一度認識して、ドライバーのみなさんには安全運転に努めていただきたいと思います。

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