法的に親子の縁を切ることはできるか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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法的に親子の縁を切ることはできるか?

2015年05月31日

歴史書などを読んでいると、父と子の葛藤や反目など争い事の場面が出てくることがあります。

また、昭和の時代のテレビドラマなどでは、頑固オヤジがドラ息子を勘当する、というシーンがありました
父と子の問題は、古今東西繰り返されてきた問題のようです。

というわけで今回は、息子と縁を切りたいという父親からの相談です。
何やら穏やかではないようですが、一体どうしたというのでしょうか?

Q)息子と縁を切りたいと思っています…もう疲れました。30歳の息子が数年前から家庭内で暴力をふるったり、仕事もせずに私や妻に金を要求してきます。年々エスタレートしていて、実際に身の危険を感じることもあります。警察にも相談したのですが真剣に取りあってくれません。息子は精神的に落ち着くと、とてもおとなしくなります。子供のころから少し変わったところのある子供だったのですが、やさしい子だったのです。しかし、これからどうすればいいのかわかりません。法的に対処する方法はあるのでしょうか? 教えてください。

A)養子縁組の場合であれば法的に離縁をすることができます。しかし、実子の場合は残念ながら親子関係を解消する法的な方法はありません。
親子関係を断ち切ることを「勘当」と呼ぶようになったのは、一説によれば室町時代以降のことだそうです。

法的には、1890(明治23)年に公布された「旧民法」では勘当の制度がありましたが、現行の「民法」では認められていません。

よって法律上、血のつながりのある親子の関係を切ることはできませんが、現状抱えている問題を解決する方法はあるかもしれません。

①「親族関係調整調停を利用する」
これは、親族間の感情的な対立や、親などの財産の管理に関する紛争等で円満でなくなった関係を回復するための話し合いをする場として家庭裁判所の調停手続きを利用するものです。

相談者の場合、息子の暴力や金の無心をするようになったのには、何らかの親子関係や家庭環境が問題になっているかもしれません。その原因を調査し、調整してもらうための調停を家庭裁判所に申立てるわけです。
②「措置入院させる」
措置入院とは強制入院ともいい、精神障害者の入院形態のひとつです。
自傷したり他人に害を及ぼす可能性がある場合、都道府県知事の権限と責任によって強制的に入院させることができるものです。

たとえば、過去にあった事件を例に考えてみます。
「2014年6月、東京都八王子市の会社員(64)が家庭内暴力に悩んだ末、息子を刃物で殺害した。以前から息子は大声を出して暴れたり、両親に暴力をふるうことがあり、その度に父親は警察に通報したり警視庁に相談に訪れていたというが、被害届は出していなかった。事件当日も息子が暴れたため警察に通報。“入院させることはできないか”と相談していたが、息子が落ち着きを取り戻したため警察署員は“強制入院は困難”と判断していた。その数時間後、事件は起きた」
(2014年6月15日 産経新聞)

この事件の場合、父親は警察に通報していますが被害届を出していないため、警察としては暴行事件として立件するのは難しかったということでしょう。

また、措置入院については「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に規定しているように、このケースでは以下の流れで成立します。

1.警察官による通報
警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。(第23条)

2.都道府県知事による措置(医師の診察)
都道府県知事は通報、届出があった者について、調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。(第27条1項)

3.判定の基準
診察した指定医は、厚生労働大臣の定める基準に従い、当該診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。(第28条の2)

4.入院措置
都道府県知事は、診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。(第29条1項)

この事件の場合、息子が暴力をふるったため警察に通報したが、警察官が息子の異常な行動や暴力の事実を確認しておらず、措置入院の手続きがとれなかったということでしょう。

つまり、相談のケースでは、異常な行動や暴力行為の事実が確認され、精神障害と診断されなければ措置入院させることはできないということになります。
③「家から追い出す」
親としては、民事訴訟を起こして息子を家から追い出したり、部屋の明け渡しを請求することはできます。

しかし、直系血族や兄弟姉妹は互いに扶養する義務があります。(民法第877条)

仮に、相談者が息子を追い出した場合、息子が「扶養の申立て」をする可能性があります。
その場合、扶養の義務といっても未成年の子には親と同等の生活をさせる「生活保持義務」がありますが、成年の子には「生活扶助義務」でいいとされています。

よって、息子を家から追い出しても、当面の生活費や部屋の賃貸料分のお金を渡しておけば扶養義務は果たしているということもできるでしょう。
④「遺産を相続させない」
では、親子の縁は切れなくても自分の遺産を息子には相続させたくない場合は、どのような法的手続きが必要でしょうか?

1.遺言書に、「息子には相続させないこと」を記載しておく
しかし、遺言書にそう書いたとしても、息子には「遺留分」があります。
遺留分とは、法定相続人が最低限の財産を受け取る権利です。
どんな遺言を書いたとしても法的には相続人には遺留分が発生します。

たとえば、妻と子供2人が法定相続人の場合、子供1人の相続分は全体の1/4となります。
これに1/2をかけた1/8が保留分となります。

詳しい解説はこちら⇒
「自筆証書遺言の書き方」

自筆証書遺言の書き方

「子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?」

子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?


2.遺留分放棄の許可申請をさせる
どうしても、遺留分も渡したくないなら、息子に「遺留分放棄の許可申請」をさせるという方法もあります。

しかし、息子が遺留分を放棄するとは思えないので、その場合は遺留分の一部を「生前贈与」することを条件に家庭裁判所に遺留分放棄の許可申請をさせるという交渉になると思います。
3.推定相続人の排除の申立てをする
それでも息子が同意しない、聞く耳を持たないというような場合はどうでしょうか?
その時は、家庭裁判所に「推定相続人の排除」の申立てをすることができます。

「民法」
第892条(推定相続人の排除)
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
廃除された推定相続人は相続権を失い、相続人となることができません。

ただし、推定相続人の排除には条件があります。
・侮辱といっても、よくある親子喧嘩のレベルでは認められません。
・非行とは、こずかいをせびるようなレベルでは認められず、親の財産を勝手に処分したり売り払ったり、勝手に親を保証人にして借金を作り債権者から訴訟を起こされるようなことをいいます。
また、殺人などの重大犯罪や実刑判決を受けるような罪を犯した場合なども非行と認められます。
・遺言によって行うこともできます。(第893条)。
・その直系卑属には代襲相続が発生します。(第887条)
もし息子の子供、つまり孫がいる場合、相続権は孫に移るため、へたをすると孫の親である息子が自分の好き勝手に遺産を使う可能性もあります。
これを防ぐには、財産管理権の喪失や親権喪失の申立てをして、息子の「親としての権利」に制限をかける方法があります。
以上、親がドラ息子に対処する方法について法律的に解説してきました。
しかし、親子間のトラブルでは、前述のような親が子を殺すという殺人事件も発生しています。

最悪の事態になる前に、親ができることはあります。
しかし、法的には複雑で難しい部分も多いので、万が一の場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/