あなたの家が勝手に壊される?空き家の法律 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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あなたの家が勝手に壊される?空き家の法律

2015年05月07日

市が強制的に私人の所有建物を解体する、という事態が発生しました。

「倒壊恐れの空き家、行政が解体 京都市、代執行で初事例」(2015年4月30日 京都新聞)

京都市は、上京区にある空き家が倒壊の恐れがあるため4月27日までに解体するよう公告していましたが、所有者と連絡がつかないことから、建築基準法に基づく行政代執行で取り壊す作業に着手しました。

建物は、延べ床面積67平方メートルの木造平屋建てで、住居兼工場。築年数は不明で、屋根が崩壊して柱も傾き、倒壊すれば周囲の住宅を損壊させる恐れがあり、隣人の男性は、「ヤブ蚊やネズミなどが発生し、崩れそうで困っていた。解体してくれて助かる」と話しているようです。

京都市は、2014年4月に空き家の活用と適正管理のための条例を施行。

管理不全の空き家の解体は、本来ならば所有者への「指導」、「勧告」、「命令」を経てから「代執行による解体」という段取りをとるわけですが、今回は、不動産登記簿謄本の確認などで所有者を特定したものの連絡がつかなかったことと、倒壊の危険性が極めて高いことから、即公告、市として初の行政代執行となったということです。
それでは条文を見てみましょう。

「建築基準法」
第10条(保安上危険な建築物等に対する措置)
3.前項の規定による場合のほか、特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。
第9条(違反建築物に対する措置)
12.特定行政庁は、第一項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法の定めるところに従い、みずから義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
「特定行政庁」とは、建築主事(建築確認をする公務員)を置く地方公共団体および、その長のことで、建築の確認申請、違反建築物に対する是正命令等の建築行政全般を司る行政機関です。
すべての都道府県と人口25万人以上の市には、建築主事の設置が義務付けられています。

「行政代執行」とは、行政上の強制執行の一種で、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をすることです。(「行政代執行法」第1条・2条)

つまり簡単に言うと、危険で不衛生な建築物について持ち主が措置を講じない場合は、都道府県や市が持ち主の代わりに撤去などができる、ということです。

ところで近年、行政上で問題となっているものに「空き家対策」があります。
空き家問題については以前、解説しました。

詳しい解説はこちら⇒「増え続ける空き家に空き家対策法が施行」
https://taniharamakoto.com/archives/1896

現在、日本の空き家率は13.5%で、このまま何の対策もとらなければ今後の人口減少により2023年には21.0%まで空き家率が増加すると考えられることから、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称、空家対策特別措置法)が2015年2月26日に施行された、というものでした。

これまでの建築基準法をさらに強化して、地方自治体が空き家の処分をしやすくしたのが空家対策特別措置法といえます。

空家対策特別措置法には大きく2つの目的があります。
1.問題のある空き家に対する除去などの対策強化
2.空き家の有効活用の促進

また法律上、空き家には2種類あります。
いわゆる空き家とは、使用されていない状態が続いている建物や敷地です。
一方、「特定空き家」というものがあり、これは、①倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態、②著しく衛生上有害となるおそれのある状態、③適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態など、というものです。
今回の京都の建物も、この要件にあてはまります。

しかし、ここで疑問がわきます。
今回の京都市の建築物には、空家対策特別措置法ではなく建築基準法が適用されていますが、それはなぜでしょう?

じつは、今年2月に施行されたのは空家対策特別措置法の一部のみで、
特定空き家についての施行は2015年5月26日になっているからです。

それだけ、今回の建物は危険性、緊急性が高い案件だったということでしょう。

なお、空き家の固定資産税について政府・与党は、平成27年度与党税制改正大綱に、税金面の優遇措置をなくし増税する方針を盛り込んでいます。

今まで、住宅が建つ200平方メートル以下の土地の場合、税率は6分の1に軽減されていました。
そのため、建物を壊して更地にしない所有者も多く、空き家が増える原因にもなっていました。

ところが今回の税制改正で、倒壊の恐れのある危険な空き家にも今までの6倍の固定資産税がかかるようになります。
空き家を持っている人や相続した人は要注意です。

建物が地震などで倒壊して、他人に損害を与えた場合、所有者が多額の損害賠償責任を負うことにもなりかねませんので、空き家を所有する人は、この機会に空き家の有効活用を検討してみてもよいかもしれません。