セクハラに対する懲戒処分について最高裁判決 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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セクハラに対する懲戒処分について最高裁判決

2015年03月06日

先日、あるセクハラ行為に関する裁判で、最高裁による判決が出ました。

今まで、セクハラ裁判では最高裁まで争われるケースは珍しかったのですが、今回の判決を受けて、セクハラに対する企業側の対応に「厳格化」が求められていくことになりそうです。

「“セクハラ処分は有効”=無効判断の二審破棄―水族館職員の上告審・最高裁」(2015年2月26日 時事通信)

大阪市の水族館「海遊館」の運営会社で行われたセクハラ行為に対して、
懲戒処分を受けた管理職の男性2人が会社の処分を不当だとして訴えた裁判について、最高裁は「処分は無効」とした2審の判決を破棄。

「職場内で女性に強い不快感や嫌悪感を与える発言を1年余りにわたって繰り返しており、不適切だ」、「今回のセクハラ行為の多くは第三者のいない状況で行われており、会社側が事前に警告や注意ができたとは言えない」として、会社が下した出勤停止と降格の懲戒処分は重過ぎるものではないと結論づけました。

今回の事案について、簡単に時系列でまとめます。

【セクハラ裁判の経緯】
・2010年11月~2011年12月にかけて、水族館の運営会社の管理職だった男性2人が、20~30代の派遣社員の女性人名に対してセクハラ発言を繰り返す。

・訴訟でセクハラと認定された発言の一部
「俺の性欲は年々増すねん」
「夫婦間は、もう何年もセックスレスやねん」
「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」
「もう、お局さんやで。怖がられてるんちゃうん」
「男に甘えたりする?」
「地球に2人しかいなかったらどうする?」

・派遣社員の女性2人が会社に被害を申告。その後、1人が派遣会社を辞め職場から去る。
会社側は男性2人に事情を聴取し、弁解を聞いたたうえで2012年2月、それぞれ30日間と10日間の出勤停止を命令し、課長代理から係長に降格処分。
男性2人は、「セクハラ発言には当たらない」、「事前に注意や警告もなく処分したのは不当」だとして提訴。

・1審の大阪地裁では、「上司という立場でありながら、繰り返しセクハラ行為をしており悪質」、「処分は社会通念上、妥当」だとして請求を棄却。

・しかし、2審の大阪高裁では、「女性が男性らに明確に抗議しておらず、会社側が男性らに適切な指導をしたかも疑問だ」と指摘。「処分は重すぎて無効」と判断。

・これを受けて会社は、「抵抗や抗議が困難な上下関係の中で非公然と行われたセクハラ行為。事前に注意や警告をすることが難しいセクハラ行為の特殊性を考慮していない」として上告。
今回の最高裁の判決に至る。
では次に、「何をするとセクハラになるのか」、「会社はどのような対応をとるべきなのか」について考えていきます。
【セクハラとは?】

そもそも、「セクシャルハラスメント」という言葉、概念は1970年代初めにアメリカで生まれたとされているようです。

日本でセクハラという言葉が使われるようになったきっかけは、1986年に起きた「西船橋駅ホーム転落死事件」。
加害者となった女性を支援する団体が使い始めたとされています。

その後、1997年の「男女雇用機会均等法」の改正で性的嫌がらせへの配慮が盛り込まれ、範囲の拡大等の改正を経て現在に至ります。
【セクハラの定義】
「男女雇用機会均等法」では、セクハラを以下のように定めています。

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(11条1項)

つまり、セクハラとは、「職場において行われる」、「労働者の意に反する」、「性的な言動」ということになります。
【セクハラの判断】
職場でのセクハラにあたるかどうかの判断には、次の3点を検討します。

①「職場において行われるものかどうか」
職場とは当然、社員等(労働者)が所属する会社の事務所などの「働く場所」です。
しかし、注意が必要なのは、法律上は会社の事務所だけでなく、労働者が業務を遂行する場所も「職場」とみなされるという点です。
たとえば、取引先の会社の事務所、打ち合わせでの飲食店、顧客の自宅なども職場となります。

②「労働者の意に反するものかどうか」
厚生労働省の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」では、セクハラには「対価型」と「環境型」があるとしています。

〇対価型セクハラ
職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること。

典型的な例として以下のようなことが挙げられます。
・女性社員に性的関係を強要した社長が拒否されたため社員を解雇した。
・出張中の車中で上司が部下の体を触り抵抗されたために不利益な降格や配置転換を行った。
〇環境型セクハラ
性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること。

典型的な例として以下のようなことが挙げられます。
・上司のセクハラ的言動のため部下が苦痛に感じ就業意欲が低下した。
・労働者が抗議したのに上司が事務所内にヌードポスターを掲示しているために苦痛を感じ業務に専念できない。

③「行われた言動が性的なものかどうか」
性的な言動の具体例としては以下のものなどがあげられます。

〇性的な事実関係を尋ねること
〇性的な内容の情報を意図的に流布すること
〇性的な冗談やからかい
〇食事・デートなどへの執拗な誘い
〇個人的な性的体験談を話すこと
〇性的な関係を強要すること
〇必要なく身体に触ること
〇わいせつな図画(ヌードポスターなど)を配布、掲示すること
〇強制わいせつ行為、強姦等
【会社が受ける損害】
パワハラと同様、セクハラが行われた場合、会社には社員に対して以下のような義務や責任があります。

〇「職場環境配慮義務」
会社は、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

〇「使用者責任」
ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があります(民法第715条)。
ところで今回のケースでは、被害者女性が上司と会社を訴えたというものではなく、セクハラ行為をした社員が懲戒処分を不当として会社を訴えたというものです。

通常、会社が社員に対して懲戒処分を下す場合、何度も注意して是正を求めることが前提となります。
そのため、今回のケースでは会社の注意が十分だったかどうかも争点となっていました。

そうした状況も含め、会社がとるべきセクハラ防止策には次のことが挙げられます。
【会社がとるべきセクハラ防止策】
①「会社の方針の明確化及びその周知・義務」
・就業規則を含めた服務規律を定めた文書や社内報、パンフレット、ウェブサイトなどにセクハラ防止の方針を明文化して、研修や講習などの社員教育を徹底する。
・セクハラを行った者への懲戒規定を定め、その内容を社員に周知する。

②「相談対応の明確化」
・相談窓口の設置や担当者を明確にして周知する。
・相談を受けた場合のマニュアルや体制を整備する。

③「セクハラ事案の事後処理の迅速化と適切化」
・セクハラ被害にあった者と行為を行った者双方から聞き取りを行う。
・被害者と行為者双方への迅速かつ適切な対応。(紛争解決に向けた調停や配置転換、懲戒処分など)

④「相談者・行為者のプライバシー保護」
・プライバシー保護のための適切な措置。
・相談者や証言者が不利益にならないための措置など。
さて、今回の判決では、会社はセクハラ禁止文書の作成や、全従業員の研修参加への義務づけなどに取り組んでいたことを認めています。

また、管理職としてセクハラ防止を部下に指導すべき立場の人間がセクハラ行為を繰り返していたことを非難し、同時に会社側の事前把握の困難さを認めています。

この判決の意義としては、セクハラ行為に対して会社が注意指導を前提とせず、初めから懲戒処分を科すことが許される場合があることを認めたところにあります。

これからは、企業側にも、すべてのビジネスパーソンにも、セクハラは違法であるという認識と知識、そして高い倫理観と真摯な姿勢が求められる時代であることを理解してほしいと思います。
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