戸籍のない子供がいる!?離婚後300日問題とは? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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戸籍のない子供がいる!?離婚後300日問題とは?

2014年10月29日

江戸時代、夫との離縁を望む妻が駆け込む「縁切寺」というものがありました。

女性が駆け込むと、幕府公認である寺側は夫や関係者を強制的に召喚して事情聴取を行い、示談をすすめたようです。
また、妻には親類縁者を呼んで復縁するよう諭し、それでも承知しない場合は調停に進んだといいます。

しかし、その調停が上手くいかない場合、妻は寺に入り寺の勤めをする決まりになっていました。

女性は尼僧になる必要はなく、足掛け3年(24~25ヵ月)が経つと「寺法(じほう)」によって、晴れて離婚が成立したそうです。

これには、江戸時代の離婚制度では夫側からの離縁状をもってのみ離婚が成立したという事情があったようです。

もちろん、現代では女性は自分の意志で離婚を決意し、法律に則って離婚が成立します。

離婚の手続きについては以前、解説しました。

「離婚の手続きはどうする!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1656

しかし、現代の法律も時の移り変わりのために時代に合わなくなってきている部分があり、ある問題が起きています。

「無戸籍279人、19歳以下が9割…法務省調査」(2014年10月25日 読売新聞)

法務省の発表によると、離婚などを理由に親が出生届を出さなかったため戸籍がない人が今月10日現在、全国に少なくとも279人いることがわかりました。

これは、民法に「離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子と推定する」などとした嫡出推定の規定があるためで、元夫の子になるのを嫌がる母親が出生届を出さず、無戸籍となるケースが多いためとしています。

無戸籍者の多くは嫡出推定を理由とするもので、年齢は0~76歳と幅広く、19歳以下が243人と9割近くを占め、20歳以上が30人、年齢不明が6人とのこと。

しかし、報告したのは全体のわずか約1割の187市区町村にすぎず、今後さらに増える見通しだとしています。
いわゆる、「離婚後300日問題」というのをご存じでしょうか?

私の元にも、この問題を抱えた方が相談に来ることがあります。
では、条文から見てみましょう。

「民法」
第772条(嫡出の推定)
1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
簡単にいうと、離婚後300日以内に生まれた子供は遺伝的な関係とは関係なく、戸籍上は前の夫の子供になってしまうということです。

これを避けるために、母親が生まれた子供の出生届をしなかったために、戸籍のない人がいるという問題が起きてしまうわけですね。

では、「推定」を覆してこの問題を解決する方法はあるのでしょうか?
以下に解説します。

【嫡出否認の訴えを起こす】
法律上、父と推定されるとしても、実際に遺伝的には父ではない者は「嫡出否認の訴え」を提起することができます。

「民法」
第774条(嫡出の否認)
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
これは原則、否認する権利は夫のみにあり、妻と子には権利がありません。
そのため、批判が多いところでもあります。

なお、嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない、とされています。(民法第777条)

また、胎児に対する訴えや子の死亡後は訴えを提起できません。
【親子関係不存在確認の調停を申立てる】
婚姻中、または離婚後300日以内に生まれた子供であっても、たとえば、夫が長期の海外出張、受刑、または別居など事実上の離婚状態で夫婦の実態が失われている場合は、家庭裁判所に「親子関係不存在確認の調停」の申立てをすることができます。

これは妻から申し立てることができますが、妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白であることが必要です。

当事者双方の間で、夫婦の子どもではないという合意ができ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、その合意が正当であると認めれば合意に従った審判がなされます。
【子から実父に認知請求の調停を申立てる】
出生届が出されず無戸籍となっている子は、遺伝上の実父に認知請求の調停を申立てることができます。

当事者双方の間で子どもが父の子であるという合意ができ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上でその合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がなされます。

なお、認知がされると、出生のときにさかのぼって法律上の親子関係が生じることになります。
無戸籍の人は、就学できない、住民票がなく安定した職につけない、結婚をあきらめるなど、さまざまな問題を抱えて生きざるを得ないという現実があります。

また、ドメスティック・バイオレンス(DV)の問題も絡んで、母親が前夫との接触を避けてしまうという問題も指摘されています。

現代では、DNA鑑定で正確な父子関係を証明できるのだから、こうした推定はもうやめるか、妻からも嫡出否認の訴えを提起できるようにしてもよいのではないかと思います。

憲法14条の男女平等を主張して裁判すれば、最高裁で民法774条(夫だけが嫡出否認できる)が無効になるんじゃないかな。