公職選挙法では候補者等による寄附は禁止 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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公職選挙法では候補者等による寄附は禁止

2014年10月21日

自民党の小渕優子議員が、関連する政治団体での不適切な資金処理が疑われている問題などの責任を取って、経済産業大臣を辞任しました。

また、群馬県の市民団体が、「政治資金規正法違反」(虚偽記入)と「公職選挙法違反」(買収)の罪で小渕氏に対する告発状を東京地検に提出したようです。

「小渕氏に対する告発状を東京地検に提出 地元オンブズマン」(2014年10月20日 産経新聞)

群馬県の市民団体「市民オンブズマン群馬」は、経済産業相を辞任した小渕優子氏(群馬5区選出)の関連政治団体が開催した「観劇会」をめぐる不透明収支問題で、政治資金規正法違反と公職選挙法違反の罪で小渕氏に対する告発状を東京地検に提出しました。

報道によると、平成22年と23年、小渕氏の地元・群馬県の政治団体「小渕優子後援会」と「自民党群馬県ふるさと振興支部」は、東京の劇場「明治座」で支援者向けに観劇会を開催。

小渕氏は、両団体の会費収入を2年間で計約742万円としていたが、政治資金収支報告書から支出は計約3384万円に上ることが判明しているとのことです。

報告書通りであれば、差額の約2642万円を政治団体が負担した形で、有権者への利益供与を禁じた公職選挙法に抵触する恐れがあるとしています。

さらに別の報道では、自身の資金管理団体「未来産業研究会」がネギやこんにゃく、ベビー用品、化粧品などを購入していたことについて小渕氏は、「群馬県外の支援者への贈答品や、海外出張時のお土産だった。政治家が人脈を広げることは重要な仕事のひとつで、政治活動の経費として認められると思っている」、「公私の区別はしっかりつけている」と主張。

さらに、親族企業からたびたび購入していた服飾品については、「姉がデザインしたもので、(名産品とは)違った話題で交流が深められる。大変重宝している」と語っているようです。

小渕氏は、観劇会をめぐる収入と支出が大きく食い違っていることについて、「指摘を受けている通り、大きな疑念があると言わざるを得ない」と述べ、税理士ら第三者に調査を依頼する意向を示したということです。
それでは早速、公職選挙法から見ていきましょう。

公職選挙法は、衆議院議員や参議院議員、地方公共団体の議会の議員、首長を公選するための選挙について定めた法律で、衆参両院の定数や選挙方法、選挙権・被選挙権などについて規定しています。

公職選挙法の寄付の禁止については、以前解説しました。

詳しい解説はこちら⇒「祭りへの寄附が問題に! 公職選挙法が定める規制とは?
https://taniharamakoto.com/archives/1619

今回は、まず、寄附の禁止規定に該当するかどうか、です。
「公職選挙法」
第199条の2
1.公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会(参加者に対して饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)が行われるようなもの、当該選挙区外において行われるもの及び第百九十九条の五第四項各号の区分による当該選挙ごとに当該各号に定める期間内に行われるものを除く。以下この条において同じ。)に関し必要やむを得ない実費の補償(食事についての実費の補償を除く。以下この条において同じ。)としてする場合は、この限りでない。

ここで、「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいいます(同法179条)。

罰則は、1年以下の禁固又は30万円以下の罰金です。

さらに、その利益供与が集票目的であるならば、別の罰則が適用されます。

第221条(買収及び利害誘導罪)
1.当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。

公職者の場合、罰則は4年以下の禁固又は100万円以下の罰金です。

さらに、ここでもうひとつ注意しなければいけないのは、金品をもらったり接待を受けた人も犯罪になる可能性があるということです。

4.第1号若しくは前号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第1号若しくは前号の申込みを承諾し又は第2号の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。

罰則は、3年以下の禁固又は50万円以下の罰金です。

これは、公職選挙法の基本中の基本です。

では次に、政治資金規正法を見てみましょう。

政治資金規正法は、政治家や政治団体が取り扱う政治資金について規定した法律です。

今回指摘されているのは、虚偽記入です。

「政治資金規正法」
第12条(報告書の提出)
政治団体の会計責任者は、毎年十二月三十一日現在で、当該政治団体に係るその年における収入、支出その他の事項で次に掲げるものを記載した報告書を、その日の翌日から三ヵ月以内に、第六条第一項各号の区分に応じ当該各号に掲げる都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならない。

1.すべての収入について、その総額及び総務省令で定める項目別の金額並びに次に掲げる事項

2.すべての支出について、その総額及び総務省令で定める項目別の金額並びに人件費、光熱水費その他の総務省令で定める経費以外の経費の支出について、その支出を受けた者の氏名及び住所並びに当該支出の目的、金額及び年月日
政治団体は、その年の収入と支出すべてを記載しなければいけません。
違反した場合、罰則は5年以下の禁固又は100万円以下の罰金です。
ところで本日、安倍内閣の松島法務大臣もまるで示し合わせたように辞任を発表しました。
こちらは、自身の選挙区で法務大臣の肩書の入った「うちわ」を配布したことが発端でした。

先ほどの「寄附」の禁止に該当するかどうか、という問題です。

もう一度確認してみましょう。

「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいいます。

少なくとも、うちわを配ることは、「債務の履行」としてなされるものではありません。

とすると、うちわが、「物品」といえるかどうか、ということになります。

ここでは、うちわが財産として価値があるものかどうか、が問われます。

過去の判例で、寄附に該当したものとしては、ビール券(最高裁平成12年11月20日判決)、「初盆参り」として現金5,000円(福岡高裁平成8年12月16日判決)などがあります。

うちわは手であおいで涼をとるために使用されます。

同じ涼をとるためのものとして、エアコンを送ったら、間違いなく寄附ですね。

扇風機も寄附です。

では、扇子はどうでしょう?

やはり、財産として価値があるものと言えるでしょう。

さて、それでは、うちわは、どうでしょうか?

そういう観点からすると、うちわは安価とはいえ、残産として価値がない、とまではいえないでしょう。

松島さんの旗色は悪い、と言わざるを得ないでしょう。