祭りへの寄附が問題に! 公職選挙法が定める規制とは? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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祭りへの寄附が問題に! 公職選挙法が定める規制とは?

2014年08月31日

今年も日本全国で、さまざまな夏祭りが開かれたことと思います。

神輿に祭囃子、盆踊りに花火大会、サンバカーニバルなどもありますね。
「祭り」と聞くと、血が騒ぐという人もいるでしょう。

さて、そんな夏祭りが静岡県富士市で問題になっているようです。
楽しいはずのお祭りに、一体何があったのでしょうか?

「市議複数が夏祭りに“会費”出す 1人5千円、寄付行為に抵触か」
(2014年8月28日 静岡新聞)

静岡県富士市の複数の保守系市議が、毎年9月に開かれる夏祭りで、少なくとも過去5年間に「会費」として、1人5000円を主催者に渡していたことがわかりました。

内部資料の協賛者一覧に、地元企業や事業所の代表者、市内各種団体の代表者らとともに、市議や前市議、衆院議員の名前と金額が記してあったようです。

毎年、お金を渡していた市議がいるほか1回のみの市議もいて、取材に対し、いずれも認めているということです。

また、別の祭りでも「会費」を渡している市議がほかにも複数いて、市議会でも問題視する声が出始めているようです。

市選挙管理委員会は「公選法は一切の寄付行為を禁じている」との認識を示しているとのことですが、報道では、祝儀や会費などを暗に求める有権者や地域の姿勢も問題だとしています。
一般の人や地元の人は、政治家でも誰でも寄付をしてくれるのだから、ありがたいことだと思う人もいるでしょう。

しかし、「寄附」ということになると、これは、れっきとした法律違反なのです。

日本には、「公職選挙法」という法律があります。
これは、国会議員や地方公共団体の議会の議員・首長など公職に関する定数と選挙方法などを規定するもので、1950年、衆議院議員選挙法・参議院議員選挙法の各条文や、地方自治法における選挙に関する条文を統合する形で新法として制定されたものです。

「公職選挙法」
第1条(この法律の目的)
この法律は、日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。
選挙の立候補者は「自由」に、かつ「公明」、「適正」に選挙活動しなければいけないのですが、そのために「選挙運動期間に関する規制」(選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかできない)や、「未成年者の選挙運動の禁止」、「文書図画の頒布の規制」などの規制が定められています。

また「公職選挙法」では、選挙の有無に関わらず、公職の候補者等が選挙区内の人に対して、どのような名義であっても一切の寄附を禁止しています。(第199条の2)。

ちなみに、総務省のホームページでは、禁止されている寄附の例として、以下のようなものを挙げています。

〇病気見舞い
〇祭りへの寄附や差入れ
〇地域の運動会やスポーツ大会への飲食物の差入れ
〇結婚祝い・香典
〇葬式の花輪・供花
〇落成式・開店祝の花輪
〇入学祝・卒業祝
〇お中元・お歳暮

これは、公職選挙法の基本中の基本ですから、知らずに政治家をしている人がいるとすれば、言語道断ですね。

法律遵守の自覚が乏しいと言わざるを得ません。

ところで、公職選挙法は、「寄付」について、次のように規定しています。

197条 2項
「この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう。」

ここでは、「会費」は「寄附」にならないとしており、今回の方々も「祭りの会費だから寄附にはあたらない」と判断したのかもしれません。

しかし、「寄附」になるかどうかは、お金を交付するときの名称にかかわらず、その実質により判断されます。

そして、法律では、「会費その他債務の履行としてなされるもの」は寄附ではないとされています。

ポイントは、「債務の履行」かどうか、ということです。

たとえば、私たち弁護士が支払う「弁護士会費」は、登録した弁護士が当然に支払わなければならない性質のものであり、「債務の履行」として支払うものですから寄附ではありません。

では、今回の祭りの会費はどうでしょう。

町内全員の義務になっていれば別ですが、寄附の意思を持つ人が任意に行うものであれば、「債務の履行」とは言えず、「寄附」にあたり、公職選挙法違反になる、ということになります。

迷った時は選挙管理委員会や弁護士に確認することが大切ですね。

公職に就いている人も、これから公職に就こうと大志を抱いている人も、公職選挙法は熟知していなければいけません。

自信がないという人は早速、勉強してください。
それが政治家の責務です!

同時に、有権者や地域全体の問題でもありますから、この機会に公職選挙法を勉強してみてもいいかもしれません。

ただし、とてもわかりにくい法律になっています。(;´Д`)アウ…