「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1) | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1)

「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」制定までの経緯

悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立した。

平成26年5月までに施行され、オートバイや原付きバイクの事故にも適用される。

この法律は、これまで刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

つまり、一言で言うと、悪質な運転による事故には、これまでよりも重い刑罰で臨む、という新法である。

今回は、この法律のできた背景と概要について説明したい。

危険運転致死傷罪ができるまでは、自動車による死傷事故については、業務上過失致死傷罪で一律に処罰されてきた。

刑法211条

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

ところが、平成11年11月28日、東京都世田谷区の東名高速道路で、飲酒運転のトラックが、両親と3歳・1歳の2女児の3名の幼児が同乗する普通乗用自動車に追突し、3人の幼児を死亡させる事故が発生。

また、平成12年4月に神奈川県座間市で、無免許、無車検、無保険、かつ飲酒運転で、検問から猛スピードで逃走していた建設作業員の男性が運転する自動車が歩道に突っ込み、歩道を歩いていた大学生2名を死亡させた事件が発生。

その後、危険な運転による自動車事故に、最高5年の懲役しか科せないとは不合理であるとのことで、署名運動が行われ、平成13年10月には合計で37万4,339名の署名が集まった。

その結果、平成13年に危険運転致死傷罪が新設され、平成17年に罰則が引き上げられるとともに、平成19年には、原動機付自転車や自動二輪車にも適用が拡大された。

しかし、危険運転致死傷罪は、特に危険な運転行為に限って重く処罰しようという刑罰なので、その要件に該当しない悲惨な事故について不適用となり、社会の批判が高まり、自動車事故に対する重罰化の要請が高まった。

その結果、平成19年に、新たに「自動車運転過失致死傷罪」が創設され、最高7年以下の懲役が定められた。

刑法第211条2項

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

ところが、その後、次のような悲惨な事故が頻発した。

平成23年4月、栃木県鹿沼市において、てんかんの症状を有して投薬治療を受けていた加害者が、医師から運転をしないよう指導を受けていたにもかかわらず、クレーン車を運転し、運転中にてんかん発作が起きて意識を失い、歩道上の小学生らに衝突させて、6人を死亡させた事故。

平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げした事故。

平成24年4月、京都府亀岡市において、無免許で自動車を運転し、連日の夜遊びなどによる寝不足などにより、仮睡状態に陥り、小学校に登校中の小学生らに衝突させ、3人を死亡させ、7人を負傷させた事故。

これらの事故は、社会的に話題になり、その刑事裁判の動向が注視されたが、いずれも、当時の危険運転致死傷罪の構成要件には該当せず、全て自動車運転過失致死傷罪で起訴されることとなった。

そこで、自動車による死傷事故に対する罰則見直しの世論が高まり、このたびの改正となった。

この新法のポイントは、以下の4点である。

危険運転致死傷罪の犯罪類型を1つ追加したこと

これまで、危険運転致死傷罪の適用がなかった「通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷」させた場合に、危険運転致死傷罪の適用を認めることとした。

危険運転致死傷罪の最高刑は、懲役20年である。

準危険運転致死傷罪の新設

危険運転致死傷罪には該当しないが、アルコール又は薬物あるいは一定の病気の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態(危険運転致死傷罪は「正常な運転が困難な状態」にまでなる必要がある)で、自動車を運転し、その結果、正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合を新しい犯罪類型としたこと。

この犯罪の最高刑は、懲役15年である。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の新設

アルコール等の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して事故を起こし、飲酒等の発覚を恐れて逃げたり、さらに飲酒したり、等の行為をした場合に、「自動車運転過失致死傷罪」よりも重く処罰することとしたこと。

この犯罪の最高刑は懲役12年である。

無免許運転の場合の刑の加重

危険運転致傷罪や準危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪、アルコール等影響発覚免脱罪等を犯した加害者が、事故当時無免許だった時は、その刑罰を重くしたこと。

この無免許により加重される罪の最高刑は、

(1)危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)

(2)アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
   懲役15年→懲役20年(無免許)

(3)アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
   懲役12年→懲役15年(無免許)

(4)過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
   懲役7年→懲役10年(無免許)

である。

具体的な構成要件の内容については、細部にわたるために、本稿では省略するが、この法律の成立自体は、現実に発生した悪質かつ悲惨な事故に刑罰法規が適切に対処できなかった、という国民の批判を受けて成立したものであって、評価できる。

問題は、実際の適用場面にあたっての運用である。

法律は作ったものの、必要な時に適用されないのでは絵に描いた餅となるし、不明確な規定のままむやみに拡大適用されることとなれば、不意打ち的な処罰が発生することになる。

この点については、交通事故の被害者弁護を多く扱う私としても、注視したいところである。

続きは、こちらから
https://taniharamakoto.com/archives/1236