子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

2013年12月03日


過去、こんな相談を受けたことがあります。

「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

そこで、A君の親は、どうでしょうか?

法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

 

親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

 

じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
<平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
<平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
<平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
<平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
<平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。