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給与を外注費処理で税理士懲戒処分
2020年01月21日
今回は、税理士向けの記事です。
国税庁のホームページにおける税理士の懲戒処分の事例が更新されました。
その中に、気になる事例がありました。
被処分者は、関与先であるA社及びB社の消費税及び地方消費税の確定申告に当たり、従業員に対する給与について、その一部を外注費に計上することによって、消費税及び地方消費税額を圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。処分としては、「税理士業務の禁止」です。
税理士業務の禁止は、税理士登録抹消処分され、処分日から3年を経過する日まで税理士資格なし、ということで、かなり厳しい処分です。
法令違反の根拠としては、税理士法45条1項です。
財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。「故意」の不真正税務書類の作成を認定した、ということです。
従業員に対する給与を外注費にしたがる経営者がいますが、多くの場合には税理士の指導により実態が業務委託になるよう整えてくれると思います。
しかし、中には形式だけ整えて税理士の指導に従わない経営者もいると思います。
その場合、税理士としては、外注として処理できない旨経営者に助言指導することになりますが、経営者が従わない場合に、将来の否認の可能性を指摘した上でやむなく外注費として処理する先生もいらっしゃるかと思います。
ところがこの場合には、
「税理士が、従業員に対する給与について、その一部を外注費に計上することによって、消費税及び地方消費税額を圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。」
ということになってしまい、先ほどの懲戒処分の事例と同じ行為になってしまいます。
経営者に助言指導したとしても、税理士が知っている以上、「故意」が認定される、ということです。
この点、十分注意したいところです。
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税理士法人社員の無限連帯責任
2019年11月23日
税理士法人を設立するには、税理士2人以上が必要です。
そして、税理士法人の社員には、いわゆる「無限連帯責任」があると言われています。
税理士法人がその債務を完済できない場合には、社員税理士が無限に責任を負う、ということです。
たとえば、税理士法人が巨額の損害賠償責任を負い、税理士法人の財産では、その損害賠償金を払いきれない場合には、社員税理士が支払うことになる、ということです。
この条文上の根拠を整理しておきたいと思います。
根拠条文は、税理士法第48条の21です。
同条が、会社法580条第1項を準用しています。
そこで、会社法580条1項を見てみます。
会社法第580条第1項
社員は、次に掲げる場合には、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負う。
一 当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができない場合この結果、税理士法人が債務を負った場合には、
(1)税理士法人の財産をもって債務を支払う。
(2)(1)で債務を完済することができない場合は、社員税理士が全員連帯して個人として債務を支払う。
ということになります。
そして、税理士が債務を完済できず、破産してしまった場合には、税理士法26条により、日本税理士会連合会により税理士登録を抹消されてしまいます。
厳しいですね。
税理士は、損害賠償請求に備える方法を研究しておく必要があります。
税理士先生からの税賠相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
また、税理士会の支部研修の講師などもお受けしておりますので、お声がけください。
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法令の趣旨に反した節税で税理士損害賠償判例
2019年10月09日
立法の趣旨に反した節税指導をしたことを理由として、税理士に損害賠償責任が認められた裁判例として、東京地裁平成10年11月26日判決(TAINS Z999-0047)を紹介する。
税理士らに対し、合計5999万9999円の損害賠償が命じられた事例である。
(事案の概要)
1 Xら被相続人一郎の相続人は、Yが代表を務めるコンサルタント会社に相続税の節税策について相談した。2 コンサルタント会社は、Xらに対し、節税策を助言し、Xらは、次のとおり節税策を実行した。
①一郎がA社の株式を買い受け、その売買代金14億52万3600円を支払った。
②一郎は、株式を一定期間経過後、相続人Xに対して贈与した。
③Xは本件贈与について、配当還元方式により本件株式を評価した上、1709万7600円の価額の贈与を受けたとして、平成6年3月柏税務署に対し、642万3300円の贈与税の申告を行った。
④受贈者である相続人Xは、株式を一定期間保有した後、時価(13億4167万8000円)で売却し、買取資金を回収した。
3 柏税務署長はXに対し、平成8年2月16日、平成6年3月の贈与税の申告について贈与税として9億6904万6100円及び過少申告加算税1億4407万1500円を納付すべきとする更正処分及び加算税の賦課決定処分をした。
4 そこで、Xらは、Yらに対し、助言指導義務違反を理由として、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
5 相続税法第22条は、「・・・相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価・・・による。」と規定し、財産評価基本通達第一1(二)は、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、・・・それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」と規定している。
そして、同通達によると、少数株主の所有する株式の価額については、当該株式の年間配当金額を基準として計算する方法(配当還元方式)により評価することとされている。
6 本件で、Yらは、この通達に基づく相続税の節税策を助言したものである。
(裁判所の判断)
1 本件相続税対策は贈与税ひいては相続税の大幅な軽減を目的として考案されたものであることは明らかである。そして、本件株式は専ら相続税又は贈与税の負担の軽減を図る目的で一時的に保有され、その目的を達成すると、出資額に見合う金銭を回収することを目的として発行される特殊な株式であり、通達が配当還元方式により評価することを予定している株式とかけ離れた性質を有するというべきであり、右株式を配当還元方式により評価した場合には、納税者間の課税の公平が著しく損なわれる上、富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨から大きく逸脱することは明らかである。
2 Yは税理士であり、租税立法、通達及び課税実務等について専門的知識を有するのであるから、右立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をすべき注意義務があるというべきである。しかるに、Yが考案した本件相続税対策は、租税立法の趣旨を大きく逸脱しており、課税実務上到底認め難いものであること、右対策が考案されたころには、いわゆる節税商品については、形式的に通達に従っていても税務当局から否認される流れが出始めていたこと、コンサルティング会社に雇用されている税理士のうち2名が右相続税対策は税務当局に否認されるリスクがあると考え、同社を退職したこと、Y自身も本件株式の購入価額と配当還元方式による評価額に差異が有り過ぎたことを自認していることなどからすれば、Yにおいて右対策が税務当局から否認されるおそれがあることは十分に予見することが可能であったというべきであり、それにもかかわらず、前記注意義務に反して課税実務において否認されるような本件相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をさせたことについて過失が認められる。
(解説)
本件で、税理士は、形式上、財産評価基本通達に則った節税策を助言している。しかし、判決では、税理士は、「立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をすべき注意義務がある」として、行き過ぎた節税策により依頼者が損害を被った場合には、税理士に損害賠償責任が成立する旨判示した。
財産評価基本通達総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定し、財産評価基本通達に則った処理であっても、評価が著しく不適当と認められるときは、国税庁長官の指示を受けて評価する、としている。
したがって、通達に従った処理をしておけば否認される心配がない、とは言えないことになる。
税理士は、法令の範囲内で依頼者に有利となるよう助言指導する義務があるが、その法令の範囲内という意味は、形式面だけでなく、立法の趣旨に反せず、かつ、課税実務において認められる範囲内、という趣旨を含むものである。
したがって、税理士としては、この点に留意した上で、業務を行うことが肝要である。
お知らせ
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消費税の課税形態の選択で税理士損害賠償(税理士勝訴)
2019年10月02日
今回は、税理士に対する損害賠償が争われた東京地裁平成26年3月26日判決(TAINS Z999-0156)をご紹介します。
(事案の概要)
ホテル事業を行う納税者である会社X社並びにそのグループ会社らが、税理士及び会計法人に対し、グループ会社36社における消費税の課税形態の選択に関して、必要な事情聴取や調査を行い、適切な課税形態を判断すべき義務を怠ったことにより、不適切な課税形態が選択されて、消費税の還付を受けられず、不要な納税をしたことによる損害を被ったと主張して、損害賠償請求をしたものです。
(結論)
税理士及び会計法人が勝訴しました。
つまり、債務不履行はない、という判断です。
(裁判所の判断)
【業務範囲の認定】
●決算補助業務並びに法人税及び消費税の申告業務を受任していた
●包括的委任契約ないし税務顧問契約が締結されていた事実は認められない。
(消費税の課税形態に関しては判断する義務は原則として負わない)
●消費税の課税形態に関する判断は、翌期・翌々期の事業の見込みに従って行われるべきものであり、決算補助業務や法人税・消費税の申告業務を行うことから直ちに導き出されるものではない。
●消費税の課税形態に関する判断は、当該事業者の翌期・翌々期の売上げ及び仕入れという事業の見通しに従って行われるべきものであって、いったん課税事業者ないし簡易事業者の選択をすると2年間はそれをやめることができないのであるから、その判断は当該事業者に委ねられているところであり、税務申告等に関与する税理士ないし税理士法人が決定し得るところではないというべきである。
●したがって、税務申告等に関与する税理士ないし税理士法人については、依頼者である事業者から個別の相談又は問い合わせがない限り、その事業者について、事業の見通しを積極的に調査し、又は予見した上で、当該事業者の消費税の課税形態の選択について助言又は指導を行うべき義務は原則としてないものというべきである。
(消費税の課税形態に関する判断を負う場合)
●もっとも、法人税・消費税の申告業務等を受任している税理士法人としては、依頼者から消費税の課税形態に関する個別の相談若しくは問い合わせがある場合又は個別の相談若しくは問い合わせがなくとも依頼者から適切な情報提供がされるなどして、税務に関する行為によって課税上重大な利害得失があり得ることを具体的に認識し、若しくは容易に認識し得るような事情がある場合には、依頼者に対し、当該行為の助言、指導等をするべき付随的な義務が生じる場合もあり得るというべきである。
(あてはめ)
●自らの判断に基づいて届出書を提出しなかったものと推認されるのであるから、被告らが、原告X社に対し、課税形態の選択について何らかの助言、指導等をするべき事情があったとも認められない。
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以上です。
本件判決は、税理士及び会計法人の契約の「業務範囲」が問題となった事例です。
本件では、各会社と契約書が締結してある会社と契約が締結していない会社がありました。
業務範囲に「節税コンサルティング」などと記載してあったら、危なかったと思います。
やはり、税賠を防止するには、契約書は必ず締結し、業務範囲は、明確かつ限定的に記載すべきものと思います。
ご相談は、こちらから。
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新事業承継税制の税賠リスクと契約手法
2018年11月19日
平成30年度税制改正で大きく変わった「特例事業承継税制」ですが、税理士の先生方は、その適用に消極的な方が多いように思います。
理由を聞いてみると、「打ち切りリスクがたくさんあって、危ない」「納税猶予の打ち切りになった時に税理士に責任になるのではないか」などという不安があるようです。
そこで、今回は、税理士向けに、特例事業承継税制における税理士損害賠償リスクを可能な限り回避する方法について解説したいと思います。
ここでは、「特例事業承継税制」「新事業承継税制」という言葉を使いますが、同じ意味で使います。
特例事業承継税制は、贈与税あるいは相続税が納税猶予されて、最終的には全部免除されるということで、非常に納税者にメリットがある税制となっています。
しかし、途中、多数の納税猶予の打ち切りリスクというものがあり、リスクも非常に大きく、一気に多額の納税が発生する可能性があるということになっています。
新事業承継税制の流れ
まず、新事業承継税制の流れを簡単に見ていきたいと思います。
まず、「特例承継計画」の提出確認です。
2023年3月31日までにこれをやるということになります。その上で贈与を実施するということです。
その後で「円滑化法」の認定を受けるということになります
そして翌年、贈与税の申告をする。
これは贈与の場合です。
その後は、5年間にわたって事業の継続をしつつ、「年次報告書」それから「届出書」を年に1回ずつ出し続けるということになります。
5年が経過した後は、報告書と届出書は3年に1回ずつ、ずっと出し続けるということになります。
そのようなことがあって、先代経営者が死亡等すると、猶予税額が免除されるというような流れになっています。
相続税のほうも、ほとんどこの流れと同じです。
では、この流れの中でどういう税賠リスク(納税者のリスクと同時に税理士のリスクが発生しますので、税賠リスク)が発生するか、ということです。
特例事業承継税制の税賠リスク10段階
特例事業承継税制の税賠リスク段階を10段階に分けてみました。
1つ目は、当初この新事業承継税制を説明・助言する段階です。
それから、打ち切りリスクに備えて、自社株の評価を低くするということを行う可能性もあります。
そうすれば、納税猶予が打ち切られた時のインパクトを多少和らげることができるためです。
この自社株対策でミスが発生した場合の税賠リスクです。
それから3番目に、特例承継計画の作成・提出をしますので、この段階でミスが発生する可能性があります。
4つ目は、特例承継計画の変更申請段階です。
特例承継計画は、1回出したら変更できないわけではなく、後で変更することができますので、その変更申請の段階です。
それから5番目、贈与税・相続税申告書作成、申告代理。これは通常の税理士業務のリスクと同じです。
6番目は、経営承継円滑化法12条1項の、認定申請・確認の段階です。
7番目は、5年間にわたる年1回の特例承継期間の「年次報告書」、「届出書」を提出しますので、これを忘れたり、間違えたり、というリスクがあります。
8番目は、特例承継期間中および経過後において、打ち切り事由への対応段階です。
従業員の雇用要件があったり、減資してはいけないとか、色々な納税猶予の打ち切り事由がありますが、これを監視したり、対応したり、そういうことが税理士に求められる場合に税理士損害賠償リスクが高まるということです。
9番目は、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予への切り替えの時です。
10番目が、贈与税・相続税の最後の免除申請の段階、ということになります。
このように、新事業承継税制適用するには多くの税賠リスクが潜んでいるということになります。
そして、想定される損害賠償請求の理由についてです。
まず1つ目は、税理士の説明助言義務違反です。
説明すべきだったのに税理士が説明しなかったということで損害賠償を受けるパターンです。
2番目、説明助言義務違反、説明助言が誤っていたとして損害賠償請求を受ける。
3番目は、適用の過誤。
要件欠缺などですが、ここは実務書を見ながら、きっちりやっていただきたいところです。
4番目、各種書類・届出書の提出失念です。
これが怖いところですね、年1回の年次報告書、3年に1回の報告書を忘れたのが納税者の責任なのか、税理士の責任なのかということです。
5番目は、申告書等への適用明記、添付書類漏れなどです。
これは業務の段階できっちりやっていただきたいと思います。
6番目は、期日管理に関する説明助言義務違反です。
納税者が届出書等を提出しなかったときに「なんで先生言ってくれなかったんですか」というようなことから損害賠償に発展するパターンです。
7番目は、打ち切り事由に該当しないよう監視・指導をする義務違反。
打ち切り事由がたくさんありますが、知らずにやってしまったとき、「税理士の先生、新事業承継税制適用してたんだから、ちゃんと言ってくれないと、止めてくれないと困るじゃないですか」というように言われてしまうリスクです。
このように特例事業承継税制を適用するには、10段階において、7つの税理士損害賠償リスクが発生することになります。
税賠のパターン
「新事業承継税制は、リスクが高いので専門事務所に任せよう」という税理士も多いと思います。
「顧問契約に基づく業務はやるけれども、事業承継税制は他の事務所に委託する」というパターンです。
その場合でも、こういうクレームがありえます。
顧問契約はしていたが、事業承継は他の事務所を紹介し、手続きをした。
ところが他の事務所が特例承継期間にしなければならない報告を怠った。
他の事務所の責任ですよね。
しかし、こういうことを言われる可能があります。
「事業承継は、他の事務所にお願いしましたよ。でも先生は当社の顧問税理士で、事業承継税制を適用したことをご存じですよね。1年ごとに報告をしないといけないことを知っていたでしょう。なぜ助言してくれなかったんですか。顧問税理士としての助言義務違反じゃないんですか?」
あるいは、
「事業承継をお願いした事務所とは契約が切れたことを知ってたでしょ?
そうすると、先生が言ってくれない限り私たちはできませんよ」と言われる可能性があります。
こんなことを避けるためには、顧問契約書にも「新事業承継税制は業務範囲外だ」ということを書かないといけないような事態になってくるのではないでしょうか。
このような文言を顧問契約書に書いておくことが考えられると思います。
第〇条 甲と乙は、甲が特例事業承継税制の助言・手続き・期日管理等は、本件委任業務の範囲外とし、乙は、特例事業承継税制に関する助言・手続・期日管理等をsる義務を負わない。
新事業承継税制は顧問先に説明しておいた方が良いと思いますが、後になって「説明を受けてない」と言われる可能性があります。
従って、説明・助言したことを立証する手段を講じておく必要があるということです。
特例事業承継税制について説明する資料としては、国税庁の「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予免除(事業承継税制のあらまし)」
それに基づいて説明すれば、一応の説明は完了した、ということになりますので、その写しを交付して、説明して、説明を受けたことの確認を、署名押印を得る、ということになります。
そうすれば、説明助言したことは立証できるということになります
新事業承継業務は税賠リスクが高いのですが、逆に、こういうことを言う税理士がいます。
「期日管理等をするので、その分、報酬を増額できる」
ということだったり、
「事業承継税制を適用してたら、なかなか顧問契約は切れないんじゃないか」
ということで、積極的に考える先生もいます。
ただ、専門的に事業承継業務をやっている先生だったらいいですが、法人の顧問業務を主に行っている税理士が3年に1回の期日管理をしていくのは非常に難しいのではないか、と予想します。
税賠リスクを低減するための5段階契約システム
そこで、可能な限り税理士の税賠リスクを低減するということで考えたのが、5段階に契約を分ける、というシステムです。
どういう契約か、説明していきます。
5段階というのは、第1段は「当初説明助言業務」だけを受任するという方法です。
「自社株の評価」とか「事業承継税制の説明」、あるいは「贈与税や相続税の資産対策等の助言業務」をまず初めに受任して、その他の事業承継業務を業務の範囲から除外するということです。
第2段階として、「特例承継計画作成・提出段階」がありますので、この支援業務、あるいは「変更申請書の提出業務」、これを単発で受任し、その他の業務を委任業務から除外します。
3段階目は、「贈与税・相続税の申告業務」、これも単発で受任します。
4段階目は、「経営承継円滑化法の認定申請に係る業務」、これも単発で受任し、それ以降の年次報告書や届出書、打ち切り事由に該当しないよう助言するような業務を除外します。
5段階目は、その後の業務、「年次報告書の提出等」がありますが、これも1年1年個別に受任する、という方法をとります。
通常は、依頼者は、「税理士に任せたから、税理士がやってくれるだろう」と考えています。
しかし、税理士の側は、「そんなことまで受任していませんよ」と考えていることも多いものです。
つまり、受任範囲の認識に齟齬がり、それが原因で税理士損害賠償に発生することも多いのです。
そこで、5段階契約にすることにより、特例事業承継税制における受任業務の範囲を1回1回依頼者と確認しあいます。
そして、何が依頼者の責任範囲で、何が税理士の責任範囲かを確認しあうのです。
この方式により、認識のズレがなくなりますので、それによる税賠を防ぐことができる、ということになります。
判例でみる5段階契約システム
契約書で区切っていくと、何が有効かというと、過去の判例を見ていただければわかります。
東京地裁の平成24年3月30日判決です。
税理士が勝訴したのですが、契約書が締結されていた事例です。
判決は、「顧問契約上、なすべき義務は契約書に明記された税務代理や税務相談等の事項に限られる」。
「依頼者の業務内容を積極的に調査し、または予見して税務に関する経営判断に資する助言・指導を行う義務はない」ということで、契約書の記載内容を重視して、契約範囲を定めています。
第1段階
その観点から考えると、第1段階の「当初説明助言業務」では、例えばこういうふうに書くことになります。
「業務範囲」
1、 自社株式の評価額算定 金●円
不動産その他の鑑定費用・専門家費用は含まれません。2、本契約期間における事業承継税制の説明及び適用判定
3、事業承継税制利用における本契約期間における贈与税・相続税の試算と対策助言、これが業務です。
※以下は業務範囲に含まれません。別途契約となります。
1、自社株対策(組織再編含む)
2、特例承継計画の作成・提出から始まる事業承継税制の全ての手続及び期日管理これらはすべて業務対外です、という記載になります。
なお、特例承継計画は2023年3月31日が提出期限となりますので、ご希望の際はお申し出ください、ということを書いておくことで、これも対象外ですよ、ということと、提出期限につい説明・助言を果たした、という証拠になります。
第2段階
そして、第2段階にいきますと、まず事業承継計画書提出なんですけれども、2023年3月31日までに事業承継計画書を提出する必要があります。
そして、契約書では事業承継計画書を実際に作成・提出する時点で受任します。
なぜかというと、何年も前に前もって契約してしまうと、出し忘れてしまう可能性があるからです。
ですから実際に作成提出する時点で契約、ということになります
それから、変更申請書を業務範囲から除外しておかないと、内容に変更を生じたことを知っていたにも関わらず、出さなかった場合に責任を問われますので、これを除外します。
変更申請書も、受任するときに受任する、ということです。
その後の手続きも業務範囲から除外することになります。
第3段階
そして、第3段階は相続税・贈与税の税務申告書の作成・提出段階ですね、これは税務書類の作成申告書特有の、通常の税賠リスクということになりますので、個別に委任契約書を作成します。
そして、個人と契約をする際には、消費者契約法が適用されますので、損害賠償の制限条項の文言には、普通の法人税の契約書とは異なる記載をしなければなりません。
それから、説明助言義務が問題となることが多いので、契約時に一般的な説明書、同意書を得ておくのが、後の税賠リスクを低減させる、ということになります。
消費者契約法の、損害賠償の制限条項というのは何のことを言っているのかというと、こういう条項のことです。
「損害賠償の制限条項」
(例)
乙が甲に対し、故意または過失による債務不履行または不法行為に基づく損害賠償債務を負担するときは、その賠償額の上限は、甲が乙に対して支払った当該行為があった年の年間報酬額を上限とする損害賠償金は払いますけれども、その上限金額はいくらいくらにしてください、というのがこの損害賠償の制限条項です。
個人と契約を締結する際には、消費者契約法の適用がありますので注意が必要です。
消費者契約法の適用があると、損害賠償の制限条項が無効になる場合があります。
こういう場合に無効になります。
1、債務不履行または不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を
免除する条項2、債務不履行または不法行為で故意又は重過失で消費者に生じた損害を賠償する
責任の一部を免除する条項従って、消費者契約法の制限に当たらないような規定の仕方をする必要があります。
ここでは割愛します。
ところで、この話をすると、「では、対象法人とだけ契約すればいいのでは?」と考える人がいると思います。
ところが、税理士損害賠償は、債務不履行だけでなく、「不法行為」による請求もあります。
不法行為は、契約書を締結していない人からでも訴えられることがある、ということです。
したがって、対象法人とだけ契約書を締結しても、納税猶予が打ち切りになった個人から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性がある、ということです。
では、誰と契約を結ぶのが望ましいか、ですが、長くなるので、ここでは割愛します。
第4段階
次に、第4段階の契約は、認定申請の段階です。
特例承継期間中、毎年1回および特例承継期間経過後3年に1回。
5年経過後以降における年次報告書、継続届出書の期日管理及び提出を業務範囲から除外しておくということが重要です。
上記報告書と届出書の提出を怠ると打ち切り事由になること、その他の打ち切り事由を説明したことを契約書に記載しておくことも必要でしょう。
特例承継期間中および特例承継期間経過後において打ち切り事由に該当しないように積極的に調査・監視などを行うコンサルタント業務をも業務範囲から除外します。
そうしておかないと、「なんで言ってくれなかったんですか」ということになる。
その他、免除申請なども業務範囲から除外しておきます。
第5段階
第5段階目です。
これは年次報告書等の提出段階です。
特例承継期間中、毎年1回および特例承継期間経過後3年に1回における年次報告書、継続届出書の提出を個別に受任します。
毎年受任します。
そして今回提出する1回のみ受任とし、来年あるいは3年後の提出は受任範囲から除外します。
「その時にまた受任しますよ」ということですね。
期日管理及び打ち切り事由に該当しないことの管理はあくまで納税者に責任があるんですよ、ということを明記します。
そして、報告書と届出書の提出を怠ると打ち切り事由になること、その他の打ち切り事由を説明したことを契約書に明記しておきます。
そして、特例承継期間中および特例承継期間経過後において打ち切り事由に該当しないよう積極的に調査・監視などを行うコンサルタント業も業務範囲から除外します。
その他、免除申請なども業務範囲から除外します、ということです。
このように契約書を区切って、その都度個別に契約を締結していくというのが税理士の税賠リスクをできる限り回避する方法だと思います。
この、5段階契約の目的というのは、単に税理士の責任を回避するというものを目的とするものではありません。
あくまでも、認定取り消し、打ち切り事由に該当しないようにする責任というのは納税者にありますので、その自覚をしっかり持っていただくことが大切です。
多額の贈与税や相続税の納税が最終的に免除されるという大きなメリットがある制度です。
その大きなメリットを受ける納税者が、メリットを受けるための注意をし続ける責任があるのだという自覚を持っていただくことが大切です。
そして、税理士はあくまでその支援をする存在だということを明確にすることを目的にしています。
その意味で、「税理士に全部任せたぞ、俺は知らん」ということは通じないということをよく理解していただくことが必要です。
依頼者は税理士に任せた認識であり、税理士は依頼者が期日管理等をするという認識である、というような認識のズレによる税賠を防止することを目的にしています。
また、説明すべきことを契約書に明記しますので、説明したのに聞いてないというような、「言った言わない」による税賠を防止ます。
以上、5段階契約システムによって税理士の事業承継税制の税賠リスクをできる限り回避するという方法について説明しました。
5段階システムに対応する契約書書式
対策のポイントは契約書を締結するということです。
ところが、契約書にはいろんな条項がありますので、なかなか作成するのは難しいと思います。
特に、新事業承継税制を理解している弁護士でないと、この作成はなかなか難しいのではないか、と思います。
そこで今回、私のほうで、この5段階にわたる契約書を開発して作成を致しました。
第1段階、第2段階、第3段階、第4段階、第5段階、そして第3段階の相続税・贈与税の契約においては、説明・助言が問題となることが多いので、相続税業務の契約時に、納税者に説明すべきこと、一般的に説明すべきことを網羅した説明書も一緒に作成を致しました。
これらを利用することによって、税理士が新事業承継税制で税賠リスクをできるだけ回避するということに、ご協力できるのではないかと思っています。
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【1】今回の記事で書いた内容をさらに詳細に解説するDVDは、こちら(書式なし)。
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税理士の守秘義務について
2017年10月09日
税理士の守秘義務について解説をします。
税理士法第38条は、次のように規定します。
「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後においても、また同様とする。」そして、この条文の解釈について、「税理士法基本通達」は、次のように規定しています。
(正当な理由)
38-1 法第38条に規定する「正当な理由」とは、本人の許諾又は法令に基づく義務があることをいうものとする。(税理士業務に関し知り得た秘密)
38-2 法第38条に規定する「税理士業務に関して知り得た秘密」とは、税理士業務を行うに当たって、依頼人の陳述又は自己の判断によって知り得た事実で、一般に知られていない事項及び当該事実の関係者が他言を禁じた事項をいうものとする。(窃用)
38-3 法第38条に規定する「窃用」とは、自ら又は第三者のために利用することをいうものとする。(使用者である税理士等が所属税理士から知り得た事項)
38-4 規則第1条の2第2項、第6項及び第7項の規定により使用者である税理士又は使用者である税理士法人の社員税理士が所属税理士から知り得た事項は、法第38条に規定する「税理士業務に関して知り得た秘密」に含まれることに留意する。では、税理士が守秘義務に違反した場合には、どうなるでしょうか。
まず、一つ目は、懲戒処分です。
そして、二つ目は、刑罰です。
税理士法第59条により、2年以下の懲役又は百万円以下の罰金が定められています。
重いですね。
次のような場合には、税理士は、どうしたら良いでしょうか。
・警察から問い合わせがあった場合に、確定申告書等を開示してよいか?
・会社の業務に関与していない社長の妻から、確定申告書等の開示を要求されたら?
・代表権のない取締役から、総勘定元帳の開示を求められたら?
個別の事情に応じて判断しなければなりません。
過去には、弁護士法23条照会に対して、クライアントの情報を開示した行為が守秘義務違反かどうかが争われた事例があります。
(大阪高裁平成26年8月28日判決)税理士事務所のスタッフも、税理士法上、守秘義務を負担し、違反には罰則があります。
税理士法54条
「税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者でなくなつた後においても、また同様とする。」入社時の誓約書や就業規則などで、工夫が必要でしょう。
詳しくは、ご相談ください。⇒相談窓口
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税理士が作成保存する会計データの所有権
2017年10月09日
税理士と顧問先との間で、税理士が作成した顧問先の会計データの所有権の帰属が争われた裁判例がありますので、紹介します。
東京地裁平成25年9月6日判決です。
事案としては、税理士が、元顧問先に対し、税理士顧問契約に基づく報酬請求として、43万7940円を請求し、顧問先が反訴として、税理士が保有する会計データ(電子データ)を引き渡さなかったことが債務不履行だと主張し、143万4416円の損害賠償その他の請求をした、というものです。
顧問契約書が締結されており、業務内容としては、以下のとおりでした。
・法人税、事業税、住民税及び消費税の税務代理及び税務書類の作成業務
・税務相談
・総勘定元帳(調査時の出力)並びに決算
会計処理に関する指導及び相談・上記項目以外の業務については別途協議する。
入力された会計データを出力した総勘定元帳は、依頼者に送付されていましたが、本件は、弥生会計に入力された会計データそのものを依頼者に引き渡す義務があるのかどうかが争われた事案です。
つまり、「会計データ」自体の所有権が、税理士に帰属するのか、顧問先に帰属するのか、が争われたものです。
この点について、裁判所は、税理士が保存していた会計データの所有権は税理士に帰属しており、会計データの引き渡し義務はないと判断しました。
ただし、この判決は、税理士が、入力結果を渡す義務がない、と判断したものではありません。
会計データの所有権のみを判断したものです。
税理士と顧問先との契約関係は、委任契約とされています(最高裁昭和58年9月20日判決)。
そして、民法645条は、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。」と規定しています。
したがって、税理士は、受任事務を処理した時は、その結果について報告すべき義務があることは忘れてはいけません。
「税理士を守る会」は、こちらから。
https://myhoumu.jp/zeiprotect/税理士損害賠償防御は、こちらから。
https://www.bengoshi-sos.com/zeibai/
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税理士の説明義務が認められなかった裁判例(税理士勝訴)
2016年09月19日
【東京地裁平成27年5月19日判決】
○税理士勝訴
(事案の概要)
個人である原告らが,税理士に、損益通算の可否や不動産買換特定の適用の有無等の税務相談をしたところ,税理士の誤った説明により,税務署からの更正処分等を受けたとし,債務不履行等に基づき,損害賠償を求めた事案。税理士は、原告らが経営する会社の顧問弁護士でした。
過去に原告ら個人の税務相談に無償で応じたことが数回ありました。
争点は、次の6点
(1)原告らと税理士被告との間の税務顧問契約の有無
(2)原告らと税理士との間の委任契約の有無及びその内容
(3)不動産の売却に関する損益通算に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
(4)不動産に関する居住用不動産買換特例の適用に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
(5)会計事務所従業員の行為につき被告が使用者責任又は監督義務違反に基づく不法行為責任を負うか。
(6)原告らの損害額(1)原告らと税理士被告との間の税務顧問契約の有無
⇒否定。・原告らは、不動産の売却を踏まえた原告らの確定申告についても,税理士に委任することなく行っていた
・他に証拠がない(契約書もないし、報酬も払っていない)
(2)原告らと税理士との間の委任契約の有無及びその内容
⇒肯定。税務相談の委任契約あり。(3)不動産の売却に関する損益通算に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
⇒(1)のとおり契約がないので、義務違反はない。(4)不動産に関する居住用不動産買換特例の適用に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
・税務申告は原告らが自ら行うこととなっており,上記税務相談に関する報酬は定められていない
・具体的なスキームについては税理士が主導的に提案をしていることをうかがわせる証拠もない
⇒税理士の義務は,原告らから受けた情報を前提に居住用不動産買換特例の適用の有無を検討するに止まり,原告らから受けた情報の正確性を検証するまでの義務は負っていない
(5)(6)は省略します。
(この裁判例から学べること)この裁判例は、税理士と顧客との契約は、契約書がなくても成立することを認めました。
しかし、税理士が負う注意義務の程度は、その契約の内容によって異なる、という考え方も提示しています。
税理士が本格的に業務に携わる場合には、対象不動産、売買、借入等に関する全ての資料を入手し、その資料の正確性を検証し、その上で、税法の要件の適用があるかどうかを検討する、ということになります。
しかし、本判例では、税理士の義務は、「資料の収集」「情報の正確性」は、税理士の注意義務から除外されています。
税理士は、原告らから提供された情報を前提に、税法の要件適用の判断をすればよい、と認定しているのです。
ということは、きちんと報酬を定めて行う税務相談ではなく事実上好意で税務相談であっても、
・契約書を締結すること
・契約書の中で、「税理士は、依頼者から提供された情報を前提に税法適用の判断をするものとし、それ以上に資料収集、情報の正確性等の踏み込んだ検証をしないものとする」等の記載を入れておく、という防御策が考えられると思います。
税理士先生からの税賠相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
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税理士が資本金額の助言を怠り損害賠償が認められた裁判例
2016年09月19日
【東京地裁平成27年5月28日判決】
●税理士敗訴
損害賠償額 1257万2890円(事案の概要)
医師が個人で運営していた医院を医療法人として設立して自分が代表者として就任する際に,医師の顧問税理士であった税理士ととの間で契約を締結しました。その契約の内容は、医療法人の設立手続の一部を税理士が行う、というものです。
そして、医療法人設立後は、税務顧問契約を締結しました。
ところが、医療法人は、税理士を訴えた、という事案です。
理由としては、
①税理士は,本件契約上,医療法人設立時に資本金を,設立後2期分の消費税の免除を受けられるなど税務上有利とするために1000万円未満とするように指導すべき義務があったにもかかわらず,これを怠り,医療法人に設立後2期分の消費税を支払わせるなどの税務上の損害を与えた
②税理士は,事務用品購入費について経費算入を怠り,これにより税務上の損害を与えた
というものです。
主な争点は、①の方です。
医療法人側は、法人設立の目的は「節税目的」なのだから、税理士は当然資本金を1000万円未満にするよう指導する義務がある、と主張しました。
税理士は、
①資産総額について,1000万円未満とした場合には設立後2期分の消費税が免税となる旨説明した
②しかし、医療法人代表者が「資産総額だけでも他のクリニックに勝ってブランド化したい。」「設立から2期分の消費税の免税が受けられなくとも,課税される消費税が経費となるならそれでかまわない。」「運転資金が潤沢にあった方が運営しやすい。」などと述べて,資産総額を1億円超とした、とのことです。
しかし、その後、2回にわたり、医療法人から税理士に対して「なぜ1000万円未満にしなかったのか」という問い合わせに対し、消費税については,医師は個人経営から法人成りした経緯から,2期分の免除の適用はない旨,誤った認識に基づく回答をし,設立の際に正しい説明をしたことや,医師の強い希望で資本金額を1億円以上としたとについては全く触れなかった、という事情があります。
つまり、争点は、
設立の際に、税理士は、資本金1000万円未満にすれば、設立後2期分の消費税が免税となることを説明したか?
という点です。
(判決)
この点、裁判所は、設立の際に説明した証拠がないこと、その後の問い合わせ時にも、説明した旨回答していないこと、などから、税理士の主張は信用できない、として、税理士は敗訴しました。
税理士は、税務に関する専門家として、依頼者のために税務に関する有効な説明・助言をする義務があります。
これを税理士の説明助言義務と言います。
裁判所は、この説明助言義務を前提として、この義務違反を認めた、ということになります。
(対策)
この裁判例から学べること。
知識がないことは論外です。しかし、実際説明したとしても、「説明したこと」を立証できないと税理士は損害賠償義務を負担します。
そこで、通常と異なる処理をする場合には、説明時に書面化しておくことが必要です。
今回でいえば、もともと節税目的の法人設立ですから、資本金1000万円未満にすれば設立後2期分の免税になるのですから、そちらを選択する方が通常であるのに、異なる処理をしました。
そこで、その旨書面化し、代表者がアドバイスと異なる処理を選択した旨署名捺印を得ておく、という方法です。
そのような書面をもらっておけば、裁判になっても、その書面を提出するだけで、勝負は決することになりますし、そもそも裁判にもならないと思います。
税理士先生からの税賠相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
「税理士を守る会」は、こちらから。
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税理士が損害賠償請求を防ぐ方法
2016年06月11日
なぜ、税理士は、訴えられやすいのか?
税理士が関与先から損害賠償請求を受ける場面を考えてみたい。
多くの場合は、税務申告をした後、関与先が税務調査を受け、修正申告が必要となったり、更正処分を受けた場合、追加の納税が発生し、あわせて延滞税や加算税などの納付が必要となってくる。
関与先からしてみると、正しい税務申告をしていれば延滞税や加算税などは支払う必要はないわけで、ミスがあったために損害を被った、という意識になる。
そして、税務申告は税のプロである税理士に依頼して報酬を支払っているのであるから、税理士のミスによって、会社が損害を被った、という論理になる。
そこで、その損害を税理士に支払ってもらいたい、ということで、税理士に対する損害賠償請求に発展する。
もう一つ多いパターンは、関与先の代替わりなどで社長が交代し、あわせて顧問税理士を変更する、ということがある。
この場合、交替した税理士は、過去の会計帳簿や税務申告書などを検討するのが通常であるが、その過程で、過去に行った税務申告のミスが発見される場合がある。
そして、税理士がそれを会社に報告すると、従前の税理士に損害賠償しよう、ということになる場合がある。
そして、このようにして税理士に対する損害賠償請求をしよう、となった場合に、税理士は訴えられやすい業務の性質を持っている。
というのは、損害賠償請求というのは、「いくらの損害を被ったから、その損害を賠償せよ」という請求であるが、その損害額を算定するのが容易では場合も多い。たとえば、他人を殴って怪我をさせた場合、その損害はいくらか、というのは精神的な慰謝料なども含まれてきて、一応の相場はあるにしてもなかなか一義的に決まりづらい。
しかし、税理士の損害賠償は、不要な税を納付せざるを得なくなったことが損害になるので、損害額が容易に計算できてしまう、という要因がある。
また、税理士のミスは、税法や通達などに反した税務処理をした場合に起こるものであるが、課税要件はある程度税法や通達、Q&Aなどで明確になっているので、訴える方としては過失を立証しやすい、という要因がある。
このようなことから、税理士としては、関与先からいつ損害賠償請求を受けるかわからい状態に置かれていることになる。
税理士に対する損害賠償請求するときの法律構成は、委任契約の債務不履行にも基づく損害賠償請求か不法行為に基づく損害賠償請求がなされるのが通常です。
そして、債務不履行に基づく損害賠償請求の時効は10年、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は損害等を知った時から3年ということで、業務が終了しても、10年間は損害賠償請求を受ける可能性があるという不安定な地位に置かれることになる。
なお、2020年4月1日以降に債務不履行に基づく損害賠償債務が発生した場合には、次のようになります。
1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
したがって、税理士としては、関与先から損害賠償請求を受けないような対策を講じておかなければ安心して業務に専念することができないのではないだろうか。
税理士の注意義務の程度はどの程度か?
税理士と関与先との契約は、法的には委任契約とされている(最高裁昭和58年9月20日判決)。税理士がミスをした時は、委任契約の受任者としての義務に違反したとして、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する場合と、税理士としての注意義務に違反したとして、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する場合がある。そして、税理士は、「委任契約に基づく善管注意義務として、委任の趣旨に従い、専門家としての高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」(東京地裁平成22年12月8日判決)とされており、注意義務の程度が重いことに注意が必要である。
具体的には、過去の裁判例によると、税理士が抗弁として、「委任者の指示に従って申告書を作成したのであるから過失はない」と主張したのに対し、裁判所は、「委任者の指示に不適切な点がある時は指摘して是正する義務がある」と判断し、税理士が抗弁として、「労務賃金の勘定科目で計上されたものが、人件費か外注費かを委任者に確認したところ、外注費であり課税対象であるとの回答を得たのでその通り申告した」と主張したのに対し、裁判所は、「委任者の回答を鵜呑みにせず、税務上の判断は税理士がすべき」と判断した事例があり、裁判所が、税理士の注意義務を高度なものと認識していることがわかる。
税理士職業賠償責任保険は万全か?
関与先から税理士に対する損害賠償請求に対する備えとしては、税理士職業賠償責任保険(以下、「税賠保険」という)がある。
しかし、税賠保険は、税理士が負担する損害賠償責任を全て補填するものではない。まず、税賠保険で保障される「税理士業務」は、税理士が行う全ての業務ではない。税賠保険でいう「税理士業務」とは、税理士法で定める税理士業務から、付随する社労士業務などを除いた業務である。したがって、税理士法に定めていない財務や経営、医療法人に対するコンサルタント業務、相続における税務以外の助言業務などは、税賠保険の対象に含まれない。
また、保険金が支払われない免責事項として、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、延滞税、利子税等に相当する賠償額が定められている。税理士に対する損害賠償請求がされる場合には、多くの場合、加算税や延滞税が課されることを考えると、税賠保険は、税理士に対する損害賠償請求に対する備えとして万全とは言えない。
だからといって、税賠保険が不要ということではない。関与先から損害賠償請求がされた場合、税賠保険から一部でも支払われるのであれば解決がしやすい事例もあるので、加入していない税理士は加入を検討した方がよいと思う。
たとえば、株式会社日税連保険サービス作成「税理士職業賠償責任保険事故事例(2017年7月1日〜2018年6月30日)を見ると、次のような事例で税賠保険金が支払われている。
①「消費税課税事業者選択届出書」提出失念により還付不能消費税額が生じた事例
②個別対応方式・一括比例対応方式の選択誤りにより過大納付税額が生じた事例
③遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書提出を失念した事例
④期限後申告となったため住宅取得資金に係る贈与の特例が適用できなかった事例
⑤交際費等の損金算入限度額の選択を誤ったため過大納付となった事例
⑥株式の譲渡所得の計算における概算取得費・実際の取得費の有利不利判断誤りにより過大納付になった事例
⑦輸出免税の判断を誤り簡易課税制度を選択したため還付不能消費税額が発生した事例
⑧相続税申告期限前に対象宅地を譲渡したため、小規模宅地の特例の適用ができなくなった事例
⑨居住用財産の譲渡所得に係る特別控除を適用した結果、住宅借入金等特別控除ができなくなり過大納付となった事例
⑩【事前税務相談】適用になる仕入税額控除計算方式についての助言誤りによって過大納付税額が発生した事例
なぜ、契約書で損害賠償を防ぐことができるのか?
では、どうすれば、税理士は関与先からの損害賠償を防ぐことができるのであろうか?
もちろん、自分がミスをした場合には、それによって関与先が被った損害を賠償するのが法律上の原則である。しかし、実際には、「言った、言わない」と議論になったり、税理士か関与先かどちらの責任か微妙な事案があったり、契約書をきちんとして、かつ、証拠化の努力をしておきさえすれば回避できた損害賠償も少なくないように思われる。
したがって、当職としては、税理士が業務を行う際には、ぜひ関与先との間できちんと契約書を締結することを勧める次第である。かといって、どんな契約書でもよい、というわけではなない。その契約書の条項が重要である。
さて、税理士が関与先と契約書を締結する場合、何を目的として締結しているであろうか。
おそらくは、①業務の範囲を明確にする、②報酬を取り決める、の2点であると思われる。しかし、税理士が関与先と契約書を締結する目的として、③関与先からの損害賠償請求に備える、という点があることを指摘したい。
契約書は、税理士と関与先の法的な関係を規律するものである。税理士にどのような権利と義務があり、関与先にどのような権利と義務があるのか、を記載する。
その記載内容によって、関与先から税理士に対する損害賠償請求という法的権利が成立するかどうかが影響を受けることになる。
税理士が関与先からの損害賠償請求に備えるという観点からの重要な条項は、①業務の範囲、②資料の提供などの責任分担、③税理士の説明助言義務、④損害賠償額の制限規定、⑤税理士からいつでも中途解約できる条項、などである。
これらを契約書に記載することによって、具体的な事案によって税理士に損害賠償責任が発生するか、しないかの判断基準として作用することになる。
また、契約書は、税理士と関与先の関係が続く間、頻繁に書き換えられるものではない。委任契約が成立する際に双方が記名捺印して契約内容が確定すると、その後は参照されることは少ないし、契約書の条項が変更されるのは、委任業務の範囲が変更になるか、報酬額が変更になるか、あるいはマイナンバー法の施行など、法改正があるような場合に限定されるのが通常である。したがって、契約開始時に、契約書をしっかり作成しておけば良い、という意味で、税理士にとっても負担の少ない損害賠償請求への備え、ということができるであろう。
では、以下に、契約書にどのような条項を規定しておくべきか、について検討する。
業務の範囲は、どう記載すべきか?
「業務の範囲」というのは、税理士が、①誰の、②どの範囲の事務について、受任業務を行う義務があり、また、どの業務を行う義務がないか、を明確にすることである。
この業務の範囲を明確にすることにより、契約書に記載されていない業務について、税理士に対する損害賠償請求を回避することが可能になる。
もし、契約書で業務範囲が不明確な場合には、関与先から、「それも含めて税理士に依頼しました」と主張される可能性があるからである。「業務の範囲」の「誰の」という点は、特にグループ会社がある場合に問題となる。
グループ会社の1社と契約書を締結していた税理士が、契約書を締結していない関連会社に対して税務上の助言をしたところ、想定外の法人税が課税されたとして、損害賠償を請求された事例で、東京地裁平成12年6月23日判決は、契約書を締結していない関連会社との顧問契約も成立していたと認定し、税理士に対する損害賠償請求を認めた。契約書が締結されていないのであるから、契約書に規定された税理士を守るための条項は適用されない。したがって、グループ会社の場合、業務を行う以上は、必ず1社毎に契約書を締結した方がよい。
次に「どの範囲の業務を行う義務があり、また、どの業務を行う義務がないか」についてであるが、業務の範囲を明確にすることは、税理士の義務を限定することにつながる。依頼された業務の範囲については、書面で明確にしおかないと、関与先が認識している業務範囲と、税理士が認識している業務範囲が異なっている場合がある。そうなると、トラブルに発展しやすくなる。
過去の判例で、税理士に節税指導義務があるかどうかが争われた事案で、税理士の節税指導義務を認めたものに、東京地裁平成10年9月18日判決、東京地裁平成27年5月28日判決などがある。
反対に、税理士の節税指導義務を否定したものに、東京地裁平成24年3月30日判決があるが、この税理士の節税指導義務を否定した判決で重視されたのは、契約書の委任業務の記載において、節税指導義務が含まれないと解釈されたことである。
契約書において委任業務の範囲を明確にしていない場合には、税理士が業務として認識していない範囲にまで受任者としての義務が拡大して解釈される可能性がある。
したがって、契約書において、委任業務の範囲を明確に記載することによって、本来想定していない業務での損害賠償請求を防止することが可能となる。
その意味で、税理士が業務を行う際には、必ず契約書を締結し、かつ、契約書において業務を明確に規定しておく必要がある。
資料の提供などの責任分担はどう記載すべきか?
前述の税理士の節税指導義務を否定した東京地裁平成24年3月30日判決において、節税指導義務を否定した理由の一つとして指摘された契約条項の1つに、「委任事務の遂行に必要な資料等を提供する責任は依頼者にある」という趣旨の文言があった。
これは、関与先が必要な資料等を提供する責任があるのか、あるいは、税理士が必要な資料の有無を確認し、関与先に提出させる責任があるのか、という点に関係する。
もし、税理士に責任がある、ということになると、税理士は、あらゆる事態を想定して関与先に質問し、資料の有無を確認して事実を確定する義務がある、と解釈される可能性がある。しかし、それは悪魔の義務を課すものである。
したがって、上記規定を入れておくことと、「依頼者の資料提供が不十分であることに起因する依頼者の損害については、税理士は損害賠償責任を負担しない」という趣旨の規定を入れておくことが望ましい。
税理士の説明助言義務をどう立証するか?
税理士は、関与先に対して関連税法及び実務に関して、有効な情報を提供し、関与先が適切に判断できるように説明及び助言をしなければならない、という助言指導義務があるとされている。
そして、この助言指導義務を怠ったことにより、関与先に損害が発生したときは、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負担する。税理士が関与先に対し、必要な助言指導をすべきことは当然のことである。必要な助言指導を怠り、それによって関与先に損害が発生した場合は、その損害を賠償する責任がある。
しかし、ここで問題となるのは、税理士が関与先に助言指導したことをどうやって証明するか、という点である。
過去の裁判では、税理士が「助言した」と主張し、関与先が「助言されていない」と主張して争われている例がある。
この場合、「助言した」という書類その他の客観的証拠がなければ、証明方法は、尋問によるほかない。
そうすると、いわゆる「言った、言わない」の争いがそれぞれの本人尋問あるいは証人尋問でなされることになる。その結果、どうなるかというと、「助言した」という客観的な資料がない以上、「助言したとは認められない」、つまり、「助言義務を怠った」と認定されることが多いと思われる。
したがって、税理士は、関与先に対して助言すべき事項に関しては、可能な限り証拠を残しておくことが必要となる。
たとえば、不動産の取得譲渡や多額の設備投資などがあると、消費税の処理に影響が出る場合がある。
したがって、それらが予定される時は、税理士は消費税の申告にあたって、関与先から報告してもらうことが必要となる。もし、関与先から税理士に報告することなしに消費税の確定申告がなされた後に、多額の設備投資が発覚し、異なる処理をしていれば消費税の税額が低くなっていた、という場合で考えてみる。
この場合、関与先が「税理士があらかじめ説明しておいてくれれば、設備投資について事前に相談したはずだ。税理士に助言指導義務違反がある」と言われる可能性がある。
消費税の確定申告に影響が出るいくつかの場合には報告してくれるように事前に説明していた場合でも、関与先は忘れている可能性がある。その場合には、「説明されていない」と主張されることになり、税理士の方で、「説明した」ことを立証する必要に迫られる。
したがって、このような説明は、事前にしておくべきであるし、説明したことを証拠に残しておく必要がある。
その一つの方法として、契約書に「次の事態が判明した時は、依頼者は税理士に対して報告を行うものとし、当該報告がなかった場合には、税理士は、これがないものとして委任事務を処理することができる」と規定し、その後に、消費税額に影響が出るような事態を列記しておく、というものがある。また、相続税の申告において、相続税の納税ができずに期限を徒過し、延滞税等が発生した事例において、相続税の納付の期限を説明し、納付が可能であるかどうかを確認して、納付できない場合には、延納許可申請をするかどうかについて相続人に意思確認する義務がある、とした判例がある(東京高裁平成7年6月19日判決)。
これも、相続税の申告業務の委任を受けた時には、納付期限が判明しているわけであるから、契約書の特記事項などに「相続税の納付期限は、平成●年●月●日です。納付ができない場合には、延納許可申請の手続により、後日の納付や物納許可申請により相続により取得した財産での納付が認められる場合がありますので、平成●年●月●日までにご相談くさださい」と記載しておく方法が考えられる。
契約書に記載しないならば、説明書面を用意して説明した上で、説明を受けた旨の署名捺印をもらっておいてもよい。
こうしておけば、「説明したこと」および「報告する責任は依頼者にある」ということが契約書に規定されることになる。
書面にするのが難しい場合でも、FAXなりメールなりで証拠化しておいた方がよい。契約書で損害賠償責任を制限できるか?
税理士の故意または過失によって、関与先に損害を与えた時には税理士に損害賠償責任が発生する。
では、この損害賠償責任を契約書によって制限することは可能であろうか。この点については、2つの論点がある。
一つは、損害賠償責任の発生自体を制限することが可能か、という点であり、もう一つは、損害賠償責任は発生するが、その金額を制限することができるか、という点である。損害賠償責任の発生自体を制限する条項とは、たとえば、「税理士は、債務不履行又は不法行為により依頼者に損害を与えた時は、故意または重過失があった場合に限り、損害賠償責任を負担する」というような条項である。
損害賠償責任が発生する主観的要件を、故意または重過失がある場合に限定して、軽過失による場合は免責とする条項である。この条項の有効性を規制するものとして、消費者契約法がある。この法律は、消費者と事業者との契約を規制する法律であり、税理士と消費者との契約もこの法律で規制される。法人税や消費税の申告代理業務を受任する場合は、相手は法人であろうと個人であろうと、消費者から依頼を受けるものではないから、消費者契約法の規制の対象外となる。しかし、相続税の確定申告業務を受任するような場合には、消費者契約法の規制が及ぶことになるため、消費者契約法の適用がある。
消費者契約法は、消費者の利益の擁護を図ることを目的とし、次の契約条項を無効とする。
①債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
②債務不履行で故意または重過失で消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
③不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
④不法行為で故意または重過失で消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項したがって、相続税の申告業務を受任したような場合に、契約書に賠償責任が一切発生しないというような条項や、故意または重過失の場合に賠償額の上限を設けるような条項を記載している場合には、その条項が無効になる。
相続税の申告業務などで、消費者と契約書を締結する時には、上記の規定によって無効とならないような条項に工夫する必要がある。消費者契約法の適用対象外である、法人との契約においても、損害賠償責任の発生を制限する条項が規制される場合がある。税理士の委任契約書における損害賠償制限条項を無効と判断した裁判例は見当たらないが、準委任契約と解釈されているシステム開発契約における損害賠償責任条項が無効とされ、あるいは制限的に解釈された事例が参考となる。
東京地裁平成26年1月23日判決の事例では、業務委託基本契約に、「乙が委託業務に関連して,乙又は乙の技術者の故意又は過失により,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に損害を及ぼした時は,乙はその損害について,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に対し賠償の責を負うものとする。(1項)前項の場合,乙は個別契約に定める契約金額の範囲内において損害賠償を支払うものとする。(2項)」という規定があった。
この事例で、判決は、損害賠償額を制限する2項の規定は、「故意又は重過失がある場合には適用されない」と判断した。したがって、税理士の契約書において、損害賠償額の上限を設ける条項を規定しても、「故意又は重過失がある場合には適用されない」と判断される可能性がある。
東京地裁平成13年9月28日判決の事例では、開発業務等委託契約に、「被告の責めに帰すべき事由により、被告の債務を履行できなかった場合には、原告は被告に対し、委託金額を上限として損害賠償を請求することができる。」という規定があった。
そして、この条項で指摘された損害賠償額の上限となる委託金額は500万円であったところ、委託者に1478万4279円の損害が発生したという事案である。この事例で、判決は、損害賠償の上限を500万円とすることは、低廉にすぎ、「信義公平の原則に反する」と判断した。このような判例が存在することから考えると、税理士の損害賠償責任を制限する条項を安易に規定するとその条項が無効になってしまう可能性があるから、損害賠償の制限条項は慎重に規定すべきであり、かつ、完全に有効になる、とは断言できない。
しかし、そうであっても、関与先から税理士に対する損害賠償請求を制限する上では極めて重要な規定であることを指摘しておきたい。
無償・好意の場合には損害賠償責任を負担しないか?
税理士が全ての場合に契約書を締結し、報酬を取り決めて業務を開始できれば良いが、人的関係や高度の責任を負担しきれないような場合に、無報酬にして、好意で税務に関する業務を行う場合が想定される。このような場合には、無報酬で好意であるから、わざわざ契約書を締結しないと思われる。
この場合、税理士がミスをした場合であっても、損害賠償責任を負担しないか。
東京高裁平成7年6月19日判決の事例は、税理士が、無報酬かつ好意で相続税の修正申告手続を行ったが、延納について説明しなかったので、納税できず、延滞税等の納税を余儀なくされた、として損害賠償請求された事例である。
この事例で、判決は、「税理士がその業務に関する委任状を徴求したことは、その委任状に記載の委任事項についての業務を受任したものというべきである」「報酬の約束の有無は、委任契約の成立を左右するものとはいえない」と判断し、税理士に対する損害賠償を命じた。
したがって、税理士としての損害賠償責任が発生する以上、無報酬であっても業務を行う場合には契約書を締結した方がよい。
なお、税理士の顧問契約は、法律上、委任契約とされていますが、民法648条は、「受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。」とされています。
つまり、委任契約は、無償が原則である、ということです。
違法な業務を依頼されたら?
関与先の中には、稀に税理士に対して、脱税の指南を求めたり、資料を提出せずに「このように処理してください」と、適正な納税義務の実現に反するような依頼をしてくる場合がある。このような場合、税理士としては、税法およびリスクを十分説明して、適正な納税義務の実現を果たすよう説得することが求められる。
しかし、それでも翻意しない場合には、とりあえず不十分な内容で税務申告書を作成し、申告代理をするか、あるいは契約を解約するか、の決断を迫られることになる。過去の裁判例で、税理士が所得税確定申告にあたって、依頼人に対し、申告書作成に必要な原始資料の提出を求めたが、これを拒否し、依頼人の指示する不適法な方法で確定申告をするよう要請され、その旨申告したが、その際、重加算税などの説明をしなかったため、納税を余儀なくされたとして、損害賠償され、それが認められた事案がある。
この事案で、過失相殺はしたものの、税理士に対して一部損害賠償責任を認めた(前橋地裁平成14年12月6日判決)。また、税理士法第45条は、税理士の懲戒について規定しているが、同条第1項は、「財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。」とし、故意の脱税等の行為に対する懲戒を規定し、第2項は、「財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、前項に規定する行為をしたときは、戒告又は二年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。」として、過失による脱税等の行為に対する懲戒を規定している。
したがって、税理士が違法な納税行為に関与するときは、損害賠償責任だけでなく、懲戒リスクもあることを認識すべきである。
結論
以上論じたところから、税理士が関与先と契約書を結ぶ際の留意点をまとめてみる。
(1)税理士が業務を行う以上、たとえ無報酬であっても契約書を締結した方がよい。
(2)グループ会社の場合には、1社毎に契約書を締結することとし、法人と個人の別がある場合には、それぞれに契約書を締結した方がよい。
(3)契約書では、「どの業務を行い、どの業務は業務範囲に含まれないか」を明確に記載すべきである。
(4)契約書では、「資料の提供は、税理士と依頼者のどちらが責任を負うのか」を明確にした方がよい。
(5)税理士の説明助言義務が想定される事項については、あらかじめ契約書や別途書面に記載して交付することにより、説明助言義務を果たしてしまうことを検討すべきである。
(6)損害賠償額の制限規定を規定する場合には、過去の判例を踏まえて無効とならないよう規定すべきである。
(7)契約期間中であっても、税理士からいつでも契約を解約できるようにしておいた方がよい。以上の留意点は、何も税理士の責任回避を目的とするものではない。過去の裁判例を読むと、税理士の責任を広範に認めるものが多い。
しかし、税理士が無制限に損害賠償責任を負担するときは、いきおい税理士の助言指導や税務処理は決して間違いのない極めて保守的な判断に傾く可能性がある。税法や通達を読んでも解釈の余地がある場合は多く、このような時、後日の税務調査で指摘され、修正申告を余儀なくされた時に、税理士が損害賠償責任を負担する、というのでは、税理士は、否認の余地がないような保守的な助言指導や税務処理に傾く可能性がある。
税理士の損害賠償責任を一定限度制限することにより、解釈の余地がある処理において、もっとも関与先にとってメリットのある助言指導や税務処理が可能となると考える。
また、税理士は税務の専門家であるから、税務処理が問題となった時は、関与先から「税理士に全て任せているのだから、税理士の責任だ」と言われやすい。しかし、関与先から報告を受けたり、資料を提供してもらわなければ税理士も容易に知り得ないことも多い。
したがって、税理士と関与先の責任の分担について、契約書で定めておくことは、税理士の責任を無制限に広げず、合理的な範囲にとどめることに役立つものである。
したがって、税理士が、税務に関する専門家として、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るためにも、業務を行う場合には、必ず契約書を締結することとし、その契約書の内容も十分吟味することを期待するものである。
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