贈与契約書がなくても名義預金を否定した裁決例 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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贈与契約書がなくても名義預金を否定した裁決例

2022年10月14日

今回は、名義預金です。

贈与契約書がない事例において、贈与が認定され、相続財産ではないと認定された国税不服審判所令和3年9月17日裁決をご紹介します。

(事案)

請求人の亡夫(被相続人)が、被相続人の嫡出でない子(長女)に対し、毎年一定の金額を、長女の唯一の法定代理人である母を介して、長女名義の普通預金口座に、平成13年から平成24年までの間、入金した。

被相続人は、長女に対し、毎年一定額を贈与する旨の贈与証を作成したが、長女や長女の母の署名押印はなかった。

贈与証には、「私は、平成拾参年度より以後、毎年八月中に左記の四名の者に金、○○○○円也を各々に贈与する。但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」と記載されていた。

長女の母は、本件被相続人の指示に基づきM名義口座への入金を行っていただけであった旨申述しており、M名義預金の通帳をMに渡す際には、本件被相続人がMのために積み立てていた金員である旨を説明していた。

(争点)

贈与契約が成立するためには、贈与者の贈与の申込みと受贈者の受諾の意思表示が必要であるが、本件で、受贈者の受諾の意思表示があったか。

(裁決)

長女の母は、本件被相続人から本件贈与証を預かるとともに、本件被相続人の依頼により本件長女名義口座に毎年入金し、さらに長女名義預金の通帳を長女に渡すまでの間、管理していた。

本件贈与証の内容は、その理解が特別困難なものとはいえず、また、長女の母は、関連法人の経理担当として勤務していたことを併せ考えると、本件贈与証の具体的内容を理解していたとみるべきであり、そのことを前提とすると、母は、自身が手続を行っていた本件被相続人の預金口座から長女名義口座への資金移動について、本件被相続人から長女への贈与によるものであると認識していたと認めるのが相当である。

長女の母は、長女の法定代理人として、本件贈与証による贈与の申込みを受諾し、その履行として本件預金口座へ毎年入金していたと認めるのが相当である。

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以上です。

本件では、子への贈与が認定されましたが、課税庁から贈与を否認されました。

贈与を否認されるだけで、納税者としては、審査請求などをする苦労が増え、また、名義預金と認定されるリスクが生じる、ということです。

そして、否認された大きな理由としては、やはり、贈与証に受贈者の署名押印がない、という点です。

したがって、未成年者への贈与においては、未成年者の法定代理人の署名押印のある贈与契約書が重要である、ということがわかります。

なお、本件では、法定代理人が母親だけの事例ですが、法律上、両親がいる場合には、両親が共同して親権を行使すると定められていますので、両親の署名押印が必要となります。

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