税賠で因果関係なしとして税理士勝訴した裁判例 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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税賠で因果関係なしとして税理士勝訴した裁判例

2021年07月16日

今回は、税理士損害賠償で、納税者が修正申告によって損害を被ったとして訴えた事件について、税理士が勝訴した事例です。

東京地裁平成2年8月31日判決(TAINS Z999-0004)です。

(事案)

依頼者は、駐車場経営をしていたところ、貸し駐車場を買い換えることとし、買換をしました。

その際、税理士に助言を求め、過去10年以上にわたり砂利敷きロープ張りの状態で約30台を収容する貸駐車場を経営してきたが、本件駐車場についても、これと同様な状態で継続的に事業の用に供していくものであるとの説明をした。

税理士は、このような状態であれば、租税特別措置法37条1項の「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の趣旨に合致し、脱税を図るものでもないので、本件特例の適用を受けられるものと判断し、依頼者にに対し、両駐車場の写真を撮影して証拠資料を確保しておくように指示し、特例を適用して確定申告書を作成し、申告をした。

その後、依頼者は、税務署から呼び出され、買換資産を駐車場として利用する場合に本件特例の適用を受けるためには、コンクリート又はアスフアルト舗装がなされ車止めが設けられていることが必要であり、砂利を敷いてロープを張つているだけの本件駐車場については本件特例の適用は認められないから、依頼者ら全員について右特例の適用がないものとして昭和61年分の所得税の修正申告をするように勧められた。

本件特例に関する国税庁の通達(措通37-21)によれば、買換えにより取得した資産を事業の用に供したかどうかの判定について、「空閑地(運動場、物品置場、駐車場等として利用している土地であつても、特別の施設を設けていないものを含む。)である土地、空家である建物等は、事業の用に供したものに該当しない。」とされていた。

依頼者は、税務署の指導に従って修正申告をした上で、被った損害について、税理士に損害賠償を請求した。

(判決)

本件特例の適用が認められる要件は、租税特別措置法37条に規定するところであつて、同条の「買換資産」に該当するためには、「事業の用に供したもの」であることを要するが、右要件に該当するか否かは、当該資産の従前の利用状況、当該資産の形態等を総合して客観的に判断されるべきことであり、駐車場について、舗装及び車止めの施設の有無が、その要件でないことはいうまでもない。

本件通達が、「空閑地(運動場、物品置場、駐車場等として利用している土地であつても、特別の施設を設けていないものを含む。)である土地は、事業の用に供したものに該当しない。」としたのは、このような土地については、「事業の用に供した」ことが客観的に明らかでないことが多く、同条の適用を認めることが難しいとの税務行政上の解釈指針を示したものにすぎない。

そして、税務署がする修正申告の勧めは、あくまで納税者の自発的な申告を促すものであり、それ自体に、何ら強制力を持つものでないから、納税者がこの勧めに応じて修正申告をするか否かは、当該納税者が自らの責任において判断決定すべきことであつて、修正申告により確定した納税義務が、申告者以外の者の行為によつたというためには、その者の行為が、当該修正申告をするために直接的な契機になつた場合などの特別な事情のある場合に限られるというべきである。

そして、本件において、原告らが、損害を被つたと主張する本件納付金の納付が、原告らの修正申告によるものであること、本件駐車場は、譲渡資産である駐車場と同様に、砂利敷きでロープを張つたものであり、譲渡資産と施設の状態に差異がなかつたこと、原告は譲渡資産を利用して過去10年以上駐車場業を営んでおり、右の土地と買換資産の利用状態がほぼ同一である以上本件特例の適用が認められるとする被告の判断にも相当な根拠が存すること、右修正申告をすることについては、被告はこれに反対であつて、当初の申告を維持して更正処分がされた場合には不服申立てをして争うことを勧めたが、原告らは、被告の意向に反し、修正申告をすることとし、原告Aについては被告に依頼し、その余の原告らについては自ら修正申告書の提出をしたことは、前示のとおりである。

右の経緯に鑑みると、本件納付金の納付は、原告らが自らの責任においてした修正申告の結果であり、被告の申告指導が、右申告につき、直接的な契機をなすなどの特別な事情が存すると認めるに足りず、結局、被告の行為は、原告らの主張する損害との間に相当因果関係を欠くものというべきである

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以上です。

本件でのポイントは、

●税理士は特例に関する通達の要件を満たすよう助言しなかったが、それでも特例は適用されると判断した

●税理士の判断には相当の根拠がある

●依頼者が特例の適用が受けられなかった不利益は、依頼者の責任においてした修正申告の結果であり、税理士の行為と損害との間に相当因果関係はない

ということです。

税理士の助言内容が税法解釈上正しいかどうか、また、通達の適法性について判断することなく結論を導いています。

税理士が、申告代理をし、後日税務調査が行われた時に、別の税理士が対応して修正申告をする場合があります。

そして、その結果、損害を被ったとして前任税理士に損害賠償請求をするケースがあります。

この場合に、当該修正申告が正しいことを前提に議論が進む場合がありますが、その前に、「修正申告の必要があったかどか」を検討することが大切です。

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