物納の説明義務違反で、税理士損害賠償 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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物納の説明義務違反で、税理士損害賠償

2021年04月02日

今回は、相続税申告業務における物納の助言指導義務違反が認定された税理士損害賠償の裁判例を紹介します。

名古屋地裁平成28年2月26日判決(TAINS Z999-0170)です。

(事案)

●養親Bが死亡し、納税者が株式その他の財産を相続した。

●納税者は、相続税を現金納付できなかったが、税理士が物納について助言指導しなかったために、株式を3回に分けて売却し、相続税を納税した。

●売却した株価は、リーマンショックにより、相続開始時よりも下落していた。

●そこで納税者は、株式を物納していれば避けられた納税額の損害を被ったとして、税理士法人に対して損害賠償請求をした。

(判決)

●被告は、原告との間で締結した準委任契約上の善管注意義務を負い、委任者の説明内容や関係法令、制度を適切に確認、調査の上、委任者において適正な納税を行い、かつ、最も利益となるように申告手続及び納付手続を行うべき注意義務、そのための助言指導義務を負っていると解すべきである。

●しかし、上記注意義務の具体的な内容は、契約のそれぞれの時点において異なるとい
うべきである。

●仮に相続税申告についての契約締結自体は4月の時点であったとしても、上記のとおりの作業の連続性や、相続税申告に関するやりとりがなされていることから、契約締結前の段階における信義則上の注意義務が生じていたというべきであるから、契約締結がないことをもって、被告が責任を免れるものではないといえる。

●初回訪問時は、遺言執行者であるC信託銀行も財産目録調製に着手した段階であり、相続財産の内容も判明しておらず、被告において原告固有の財産も把握していないのであるから、物納の可能性については不明であった。

●通常この段階で受遺者が株式を処分することは想定されていないというべきであるし、原告が養父の相続において物納の経験があることにも鑑みれば、被告ないしEにおいて、原告がD株を処分することは予見不可能であったというべきであるから、この時点で物納について具体的に説明し、株式の処分を控えるように伝える義務まであったということはできない。

●8月11日の時点においては、財産目録の調製が完了して、遺言執行者において遺言の執行段階に入っており、相続税の概算が算出されたのであるから、申告手続について委託を受けた税理士には、納税の方法について委任者に確認し、必要な助言指導を行う義務が発生しているというべきである。

●原告が物納についてある程度の知識を有しており、株式の売却を行う前に、税理士に対して物納の可能性について再度確認をすることが困難であったような事情もうかがわれないこと、原告が投資により、より有利な資産を得る目的で資産運用を行っていた事実に照らせば、原告が積極的な投資意欲を有していたものと認められ、第3回売却についても、投資目的での売却という要素が否定できないことに照らせば、原告の過失割合は3割と認定するのが相当である。

⇒2408万7000円の損害賠償を命じた。

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本件は、相続税の納付に関する物納制度を説明しなかったことが善管注意義務に違反する、とされた事例です。

他の裁判例でも、延納制度について説明しないことが助言指導義務違反とされたものがあります。

したがって、相続税額がある程度の金額の時は、延納・物納制度について説明し、その説明を証拠化しておく必要があります。

「税理士を守る会」の会員の先生は、相続業務受任の際の説明・同意書にしっかり説明が入っていますので、ご利用いただければと思います。

また、契約締結前の準備段階においても、善管注意義務が認定されていますので、注意が必要です。

すでに相談を受けているので、相談を受け、これから相続税業務に入っていく税理士としては、その段階で必要となる説明助言はしなければならない、ということです。

「税理士を守る会」は、こちら
https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/