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税理士の損害賠償責任の前提となる9つの注意義務

2019年08月11日

税理士と依頼者との契約は、委任契約ないし請負契約とされる。

そして、税理士が損害賠償責任を負う場合には、税理士の善管注意義務違反が問題となるが、注意義務の内容はいくつかの類型に分類することができる。

ここでは、税理士の注意義務を9つに分類し、概説することとする。

(1) 説明助言義務

税理士は、善管注意義務に基づき、依頼者に対して関連税法及び実務に関して、有益な情報および不利益な情報を提供し、依頼者が適切に判断できるように説明及び助言をしなければならない。これを税理士の説明助言義務と言う。

この説明助言義務については、税理士が

①説明助言義務を負うか、

②説明助言義務を負うとして、説明助言したかどうか、

で争われることになる。過去の裁判例では、②に関し、税理士が「説明助言した」と主張するものも多い。しかし、裁判実務においては、税理士の側で「説明助言した」と証明できない場合には、説明助言の事実が否定される傾向にある。

したがって、税理士が無用の損害賠償請求を防止するためには、説明助言したことを証拠化して残しておくことが重要である。

まず、税理士が受託業務を遂行する上で確認すべきことについて、説明助言義務があることは当然である。

相続税申告業務を行うに際し、海外財産も全て申告するよう説明したことが認められないとして税理士に説明助言義務違反が認められた例がある(東京地裁平成24年1月30日判決・判例時報2151号36頁)。

相続税申告業務を受託した税理士について、「相続税の納付がいつ必要であるのかを相続人に説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には、延納許可申請の手続をするかどうかについて意思を確認するのは、相続税の確定申告に付随する義務」であるとして、説明助言義務違反を認めた事例がある(東京高裁平成7年6月19日判決・判例時報1540・48頁)。

不利益についての説明助言としては、税理士が所得税確定申告にあたって、依頼人に対し、申告書作成に必要な原始資料の提出を求めたが、依頼者はこれを拒否し、依頼人の指示する不適法な方法で確定申告をするよう要請され、その旨申告したが、その際、重加算税などの説明をしなかったため、納税を余儀なくされたとして、損害賠償され、それが認められた事例がある(前橋地裁平成14年12月6日判決・TAINS Z999-0062)。但し、依頼者が書類提出を拒否したものであるので、過失相殺がされている。

したがって、依頼者に不利益が生ずべき時は、それが依頼者の責に帰すべきときであったとしても、当該不利益を説明助言し、依頼者が適切に判断できるようにすべきである。

以上のように、税理士は、受託業務を行う上で確認が必要な事項について説明助言すべきことはもとより、依頼者が適切な判断をするために必要な事項、依頼者に将来生ずる可能性がある事項なども予測して、説明助言すべきことになる。また、説明助言は、その存否に争いとなったときは、税理士が説明助言したことを立証するのが困難となる場合があるから、可能な限り書面等の証拠を残しておくことが望ましい。

(2) 有利選択義務

税理士の注意義務の一つとして、有利選択義務がある。これは、複数の選択しうる処理の方法がある場合に、法令の許容する限度で依頼者に有利な方法を選択する義務である。

この点について、東京地裁平成7年11月27日判決(TAINS Z999-0019)は、相続税の財産評価を誤るとともに、配偶者に対する税額軽減を適用せずに相続税申告書を作成、提出した事例について、税理士は、「税務の専門家として、租税に関する法令、通達等に従い、適切に相続税の申告手続をすべき義務を負うことはもちろん、納税義務者たる」依頼者の「信頼にこたえるべく、相続財産について調査を尽くした上、相続財産を適切に各相続人に帰属させる内容の遺産分割案を作成、提示するなどして、」依頼者に「とってできる限り節税となりうるような措置を講ずべき義務をも負う」と判示している。

以上より、税理士が受託した業務を処理するに際し、法令の許容する範囲内で複数の処理が可能なときは、できる限り依頼者の有利になるよう処理する義務があるので、注意が必要である。

(3) 不適正処理是正義務

税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法第1条)。

そして、税理士は、税務の専門家として、高度の知識と技能を駆使して、依頼者の納税義務の適正な実現を図らなければならない。したがって、依頼者の依頼や説明などが不適正であり、納税義務の適正な実現を図ることができないような場合には、これを是正する義務がある。これは、不適正処理是正義務である。

この点に関し、前述の留保金課税が問題となった大阪地裁平成20年7月29日判決(TAINS Z999-0118)は、「依頼者の指示が不適切であれば、これを正し、それを適切なものに変更させるなど、依頼者の依頼の趣旨に従って依頼者の信頼に応えるようにしなければならない。」と判示している。

また、東京地方裁判所平成24年12月27日判決(判例タイムズ1392号163頁)は、消費税の課税事業者選択届けを提出しなかった点に注意義務違反があるかどうかが争われた事例に対し、「税理士は、委任者の説明に基づき、その指示に従って申告書等を作成する場合にも、委任者の説明及び指示のみに基づいて事務処理を行えば足りるというものではなく、税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を 負うと解される。」と判示し、税理士の注意義務違反を認めた。

(4) 前提事実の確認義務

税理士が受託業務を行うに際しては、法令適用の前提となる事実について、依頼者に質問し、書類を精査するとともに、それが不十分である場合には、さらに調査をして前提事実を解明する注意義務がある。これが前提事実の確認義務である。

京都地裁平成7年4月28日判決(TAINS Z999-0008)は、譲渡所得の申告に際し、譲渡資産が過去の買い換え特例の適用を受けていたにもかかわらず、依頼者が関連書類を税理士に提出せず、買い換え特例の適用がないものとして処理した事例について、「税理士が、依頼者の税務書類の作成過程において、依頼者から事情を聴取する際には、特に問題となりそうな点に言及し、事実関係の把握に努め、依頼者の説明だけでは十分に事実関係を把握できない場合には、課税庁で当該疑問点を指摘し、調査を尽くさなければならない。」と判示して前提事実の確認義務を認めた。なお、本裁判例では、依頼者の説明不足について、2割の過失相殺をした。

ただし、この訴訟の控訴審である大阪高裁平成8年11月29日判決(TAINS Z999-0008)は、税理士が依頼者に対し、「以前に不動産を譲渡したことがあるか」と質問したところ、「譲渡したことはない」との返事であり、また、不動産の譲渡関係の資料もないという回答を得た旨の事実を認定し、このような事実関係のもとでは、税理士は、さらに課税庁まで出向いて調査する義務は負わない、と判示した。

(5) 積極調査義務

税理士は、税務の専門家として、高度の知識と技能を有するとともに、その知識と技能を駆使して依頼者の納税義務の適正な実現を図ることを期待されている。したがって、その知識と技能に照らし、依頼者の説明や資料に疑問点を生じたり、不十分であるなどの場合には、依頼者に積極的に問いただしたり、資料提示を求め、調査する義務がある。これが積極調査義務である。

東京地裁平成21年10月26日判決(判例タイムズ1340号199頁)は、所得税確定申告書の作成を受任した税理士が、不動産賃貸業をしている依頼者から提出された資料に礼金の収入等の漏れがあったにもかかわらず、そのまま確定申告書を作成した事例において、「税理士業務を行うに当たっては、依頼者が、課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実等があることを知ったときには、直ちにその是正をするよう助言する(法41条の3)などの義務を負う。」とした上で、「本件各資料の内容及び本件各確定申告書等の記載に照らせば、税務に関する専門知識を有する」税理士において、「本件各確定申告書等の記載と本件各資料の記載を照合して、本件各確定申告書等の根拠となっている本件各資料の内容を精査すれば、礼金等の収入の有無や必要経費の内容や金額などについて、疑問をもち、」依頼者に対し、「これらについて説明を求め、追加資料の提出を促すことは容易であったというべきである。」と判示して、税理士の注意義務違反を認めた。

また、東京地方裁判所平成24年12月27日判決(判例タイムズ1392号163頁)で、税理士が消費税確定申告書の作成を受託したところ、依頼者は、自宅の一部を会社に賃貸し、その賃料を受領していたが、税理士から給与以外の収入があるか質問された際に、「ない」と回答したので、税理士は、それを前提として、消費税課税事業者選択届けを提出しなかった事例において、税理士は、「税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負うと解される。」とした上で、税理士が把握した資料によって、依頼者が賃料収入を得ていることは、「容易に推測可能」であったとして、税理士の積極調査義務違反を認めた。

(6) 税法以外の法令調査義務

税理士は税法の専門家であり、全ての法律に関する専門家ではないが、税理士がその職務を行うにあたって、税法の適用の前提として、他の法律を解釈適用する必要が生ずる場合がある。このような場合に、税理士は、どこまで法令の調査をし、確認を求められるのか、が、税理士の法令調査義務の問題である。

国籍法の調査義務が争われた事例として、東京地裁平成26年2月13日判決(TAINS Z999-0145)がある。この事例は、相続税申告業務において、税理士は、相続人の1人が長期間アメリカ合衆国で生活していることから、アメリカ合衆国に帰化して日本国籍を喪失しており、制限納税義務者に該当する可能性があると考え、関係者に確認したところ、関係者からは、「確かにアメリカ合衆国の国籍を取得したが、日本国籍を放棄していないため、二重国籍である」と回答があったので、税理士は、これを前提に制限納税義務者ではないことを前提として、申告書を作成したところ、本件では、国籍法によると、アメリカ合衆国の国籍を取得した時点で日本国籍を喪失していた、というものである。この事例において、裁判所は、まず一般論として、「確かに、税理士は、税務に関する専門家であるから、一般的には租税に関する法令以外の法令について調査すべき義務を負うものではない」と述べて、一般的法令調査義務はない、と判示した。しかしながら、相続税申告にあたっては、相続人が日本国籍を有しない制限納税義務者かどうか確認する必要があり、国籍を有するかどうかは国籍法が規定しているから、国籍法を確認する義務を負う、とした。

これに対し、相続税申告業務において、相続人が相続していない不動産について相続財産に含めたことにより過大な相続税の支払いを余儀なくされたとして税理士に対して損害賠償請求がされた事例において、那覇地裁沖縄支部平成23年10月19日判決は、「税理士は、税務の専門家であって、法律の専門家ではないから、ある財産を遺産に含めて相続税の課税対象として処理する場合に、所有権の移転原因を厳密に調査する義務があるとまではいえず、税務署が納税行為の適正を判断する際に先代名義の不動産の有無を考慮している現状にも照らせば、被告が本件土地に関する調査義務に違反したということはできない。」として、税理士の注意義務違反を否定した。
以上から、税理士には、税法の要件を満たすかどうかを判断する前提として他の法令の適用関係を判断する必要がある場合には、その法令を調査確認する義務を負うが、法令の解釈適用については、法律の専門家ではないから、厳密な法律解釈までは必要ではなく、税務の専門家として要求される調査を尽くすことで足りる、ということになろう。

(7) 租税立法遵守義務

税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法第1条)。

したがって、税理士は、租税立法を遵守する義務を負う。租税立法遵守義務は、租税立法の文言に直接的に反する行為をしてはならないことはもとより、租税立法の趣旨に反する行為をしてはならないことを含む。また、税務署職員は、行政通達に基づいて実務を行うものであるから、通達に反する処理をすることは依頼者に不利益が生ずる可能性があり、慎重を要する。そして、仮に通達に反する助言をする場合には、通達に反する旨、及び後日依頼者に不利益が生ずる可能性があることを説明助言する必要がある。これが、税理士の租税立法遵守義務の問題である。

この点、法人税確定申告において、通達に反する助言指導を行った税理士に対する損害賠償の事例について、大阪高裁平成10年3月13日判決(判例時報1654号54頁)は、「依頼者から基本通達に反する税務処理を求められたり、専門家としての立場からそれなりの合理的理由があると判断して基本通達と異なる税務処理を指導助言したりする場合において、基本通達が国税庁長官が制定して税務職員に示達した税務処理を行うための基準であって法令ではないし、個々の具体的事案に妥当するかどうかの解釈を残すものであるから、確定申告をするに当たり形式上基本通達に反する税務処理をすることが直ちに許されないというものではないものの、税務行政が基本通達に基づいて行われている現実からすると、当該具体的事案について基本通達と異なる税務処理をして確定申告をすることによって、当初の見込に反して結局のところ更正処分や過少申告加算税の賦課決定を招くことも予想されることから、依頼者にその危険性を十分に理解させる義務があるというべきである。」と判示している。

これに対し、東京地裁平成10年11月26日判決(TAINS Z999-0047)は、相続税の節税に関する助言指導業務において、形式的には財産評価基本通達に則った処理ではあるが、その結果、相続税および贈与税の評価を大きく下げる結果となるスキームが財産評価基本通達総則6項により否認された事例について、「納税者間の課税の公平が著しく損なわれる上、富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨から大きく逸脱することは明らかである」とした上で、「考案した本件相続税対策は、租税立法の趣旨を大きく逸脱しており、課税実務上到底認め難いものであること、右対策が考案されたころには、いわゆる節税商品については、形式的に通達に従っていても税務当局から否認される流れが出始めていたこと」などから、税理士は、「対策が税務当局から否認されるおそれがあることは十分に予見することが可能であったというべきであ」る、として、税理士の注意義務違反を認めた。

以上より、税理士の法令遵守義務として、次のような注意義務に留意すべきである。

① 法令を遵守する義務

② 原則として通達に従った処理を行うが、通達と異なる処理を行う場合には、依頼者に生ずる可能性のある不利益を精査し、依頼者に十分説明し、理解を得ておくこと、通達と異なる処理が認められるよう税務専門家として証拠化しておくこと。

③ 形式的に通達に則った処理であったとしても、租税立法の趣旨に反するような処理ないし説明助言をしないこと。

(8) 第三者に対する注意義務

銀行など金融機関をはじめ、法人または個人に対して融資をする者、取引を開始しようとする者が、その財務内容や営業活動を調査するために、税務申告書や試算表などの提出を求めることがある。そして、それらの内容が真実であると信頼して、融資や取引を開始することがある。ところが、税務申告書等の内容が真実に反するものであり、そのために貸付金や売掛金の回収が不可能にある、という事態が想定しうる。

この場合、当該虚偽の税務申告書や試算表等を税理士が作成したものである場合には、損害を被った第三者としては、損害の原因を作出したのが税理士であるとして、税理士に対して損害賠償請求をすることがある。これが、第三者に対する注意義務の問題である。

この場合、税理士と第三者との間には契約関係がないから、債務不履行責任は問題とはならない。問題となるのは、不法行為責任である。

税理士は税務の専門家として、公正な立場において、納税者の適正な納税義務の実現を図るため、真正な税務申告書を作成する義務を負う。そして、故意または相当の注意を怠って真正の事実に反して税務申告書を作成したときは、懲戒処分を受けることがある(税理士法第45条1項、2項)。

そして、税務申告書の内容を信頼して融資取引を行ったり、取引を開始あるいは継続することがあることは容易に推測できることであり、かつ、税務申告書の内容が虚偽である場合には、それによって債権回収が不可能になりうることも容易に推測可能であり、かつ、その結果を回避することも可能である。

その意味で、税理士は、第三者が内容虚偽の税務申告書等を信頼して行動した結果、損害を被ることのないように、税務申告書等の内容を真正にすべく注意義務を負っていると解される。よって、故意または過失によって内容虚偽の税務申告書等を作成し、それによって第三者が損害を被った場合には、税理士には不法行為に基づく損害賠償責任が発生する場合がある、と考える。

この点、仙台高裁昭和63年2月26日判決(TAINS Z999-0002)は、税理士の作成した内容虚偽の確定申告書の記載を真実と信じて、保証、担保の提供などをした者が損害を被った事例において、税理士は、依頼者が「これを利用して融資先を欺いて甲社の金融を得ることを知りながら、乙社の実情を粉飾し、このような虚偽の内容を記載した書類を作成したものであること、すなわち、」税理士「はこれにより乙社に対して融資をするものが損害を受けるかもしれないことを予見しながらあえてこのような虚偽の内容を記載した書類を作成したものであることが認められる。」として、税理士の損害賠償責任を認めた。

(9) 退職税理士の競業避止義務

税理士事務所または税理士法人の所属税理士が退職し、または、税理士法人の社員税理士が脱退する際に、もとの税理士事務所(法人)と顧客をめぐって紛争となる場合がある。退職する税理士が担当している依頼者が、税理士退職に伴って、元の勤務先の税理士事務所(法人)との委任契約を解消し、退職税理士と新規に委任契約を締結する場合である。いわゆる退職税理士の競業避止義務の問題である。

まず、憲法第22条は、職業選択の自由を基本的人権として規定しており、税理士資格を有する者が、税理士事務所(法人)を退職した後、税理士業務を行うことを禁止することは、多くの場合、公序良俗違反で無効となるものと思われる。

では、退職後、従来の依頼者と新規に契約を締結する場合はどうか。

この場合も、そのような行為をしない旨の特別の誓約書等による合意がない場合には、元の勤務先の税理士事務所を誹謗中傷するなど「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合」でなければ、損害賠償責任を負うことはない(最高裁平成22年3月25日判決)。

では、退職後、従来の依頼者への勧誘を禁止する特別の合意がある場合はどうか。

大阪地裁平成24年4月26日判決(TAINS Z999-0130)は、税理士事務所が、退職した税理士らに対し、就業規則に違反し、違法に競業し、かつ、不正の利益を得る目的で営業秘密を使用したなどとして損害賠償を求めた事例で、積極的に働きかけて依頼者と契約を結ぶことを禁止する合意をしたと認定しつつも、積極的な働きかけはなかった、と判断して退職税理士らの損害賠償責任を否定した。

次に、東京地裁平成26年4月9日判決(TAINS Z999-0150)は、税理士法人の社員を辞任する前から、Xの業務を執行する社員でありながら、許される開業準備行為の範囲を超えて、Xの顧客に対してXの信用を失墜させるような言動をしたり、Xとの顧問契約等を解約してYが開設する事務所と顧問契約等をするように働きかけるなどし、依頼者の多数が税理士法人との契約を解約し、退職社員税理士と新規契約を締結した、として損害賠償を求めた事例である。この事例において、裁判所は、まず社員の期間中の行為については、「社員である間に」脱退する税理士が「将来の競業行為のために行う準備については、」脱退する税理士の「営業の自由と、税理士法人であるXの利益との調和の観点から、競業行為の準備をすることは許容されるものの、Xの顧客に対し、Xとの間の顧問契約等を解約して、」脱退する税理士が「開設する事務所と顧問契約等を締結するように、違法不当な方法で働きかけることは許されないと解される。」としたが、本件ではそのような行為はないとした。次に、税理士法人脱退後については、「一般に、税理士法人の社員が脱退後に行った税理士法人との競業行為は、自由競争に属し自由であるから、当該競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元の税理士法人の顧客を奪取したとみられるような場合に限って、元の税理士法人に対する不法行為に当たる」としたが、本件では、そのような行為はないとし、結論として、脱退する税理士の責任を否定した。

退職ないし税理士法人を脱退する税理士としては、次の点に留意すべきである。

① 在職中に挨拶程度を超えて積極的に既存の契約を打ち切って、自己との新規契約を勧誘すると損害賠償責任が発生する場合がある。

② 退職後は、従前の勤務先との特別の禁止合意がない限り、従前の依頼者に対する勧誘行為は自由である。ただし、従前の勤務先の誹謗中傷など、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合」には違法となる。

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もっと詳しく知りたい方は、こちらの書籍も参考にしてください。
「税務のわかる弁護士が教える税理士損害賠償請求の防ぎ方」(ぎょうせい)